世界はいつもミクだった
あらすじ
なんの前触れもなく、突然人類全員の身体が初音ミクに変化する。
しかし誰も変化を認識できず、いつも通り生活している。
この物語は、その世界を第三者の視点から観察したものである。
登場人物
佐藤健太(さとう けんた)
大学二年生。青いツインテールの髪、大きなエメラルドグリーンの瞳、身長158cmほどの華奢な体つき。グレーのノースリーブトップ、黒いミニスカート、赤いネクタイ、黒いニーハイソックスとグレーのアームカバーという、初音ミクそのものの衣装と姿をしているが、本人は自分のことを「短めの茶髪、普通の顔立ちの男子学生で、Tシャツとジーンズを着ている」と認識している。
田中美咲(たなか みさき)
健太の幼馴染で同じ大学に通う女子学生。健太と全く同じ、青いツインテールの髪、大きなエメラルドグリーンの瞳、身長158cm、そしてグレーのノースリーブトップ、黒いミニスカート、赤いネクタイ、黒いニーハイソックスとグレーのアームカバーという初音ミクの姿。本人は自分のことを「肩まで伸びた黒髪をポニーテールにした女性で、よくパステルカラーのワンピースやカーディガンを着ている」と認識している。
山田誠(やまだ まこと)
健太の大学の友人。他の全員と同様、青いツインテールの髪、大きなエメラルドグリーンの瞳、そしてグレーのノースリーブトップ、黒いミニスカート、赤いネクタイ、黒いニーハイソックスとグレーのアームカバーという初音ミクの姿。本人は自分のことを「黒縁眼鏡をかけた真面目な外見の男子学生で、シャツとチノパンを着ている」と認識している。アニメやボカロが好き。
黒木隆(くろき たかし)
二十代後半のフリーター。他の全員と同様、青いツインテールの髪、大きなエメラルドグリーンの瞳、グレーのノースリーブトップ、黒いミニスカート、赤いネクタイ、黒いニーハイソックスとグレーのアームカバーという初音ミクの姿をしている。しかし彼だけが、この世界の真実を認識できる唯一の存在。全人類が初音ミクの姿であることを知っており、自分自身も初音ミクの姿をしていることを自覚している。特に交友関係はないが、この異常な状況を心から面白がっており、気づいていない人々を観察することを楽しんでいる。真実を知っているからこそ見える、この世界の滑稽さと美しさに魅了されている。
本文
朝、目覚ましの音が鳴り響く。
ベッドから起き上がったのは、青いツインテールの髪を持つ、華奢な少女の姿だった。大きなエメラルドグリーンの瞳、白い肌、小柄な体。そしてグレーのノースリーブトップ、黒いミニスカート、赤いネクタイ、黒いニーハイソックスとグレーのアームカバー。誰が見ても、初音ミクそのものだ。
しかし、その少女――佐藤健太は、鏡の前に立っても何の違和感も覚えなかった。
「ふあ~、眠い……」
少女の姿で、しかし男性の声でそう呟き、顔を洗う。鏡に映るのは初音ミクの顔と衣装だが、健太の目には「いつもの自分」が映っている。短めの茶髪、平凡な顔立ちの男子大学生で、Tシャツとジーンズを着ている。何も変わっていない、と健太は思う。
歯を磨き、服を着替える。健太の手に取ったのはTシャツとジーンズのはずだった。実際には既にグレーのノースリーブトップと黒いスカートを着ているのだが、健太の認識では服を脱いで新しいTシャツとジーンズに着替えたことになっている。
リビングに向かい、朝食を食べる。テレビをつけると、ニュース番組が流れている。
画面に映るキャスターも、青いツインテールの初音ミクだった。真面目な表情でニュースを読み上げている。街頭インタビューに映る人々も、全員が初音ミク。男性も女性も、老人も子供も、すべて同じ姿。
しかし健太にはそれが見えていない。彼の目には、「普通の女性キャスター」や「普通の通行人たち」が映っているように見えている。
スマホが振動した。LINEの通知だ。幼馴染の田中美咲からだった。
『おはよー!今日も二限からだよね?一緒に行こ~♪』
健太は返信する。その指も、細くて華奢な、初音ミクの指だ。
『おう。いつもの場所で』
朝食を済ませ、健太は家を出た。駅までの道を歩く。すれ違う人々は、全員が初音ミク。老人も、サラリーマンも、主婦も、子供も。青いツインテールを揺らしながら、それぞれの日常を送っている。
しかし誰もそれに気づいていない。老人の初音ミクは自分を「おじいさん」だと思い、サラリーマンの初音ミクは自分を「中年男性」だと思い、主婦の初音ミクは自分を「お母さん」だと思っている。
待ち合わせ場所に着くと、美咲が既に待っていた。
青いツインテールの髪、大きなエメラルドグリーンの瞳。グレーのノースリーブトップ、黒いミニスカート、赤いネクタイ、黒いニーハイソックス。初音ミクそのものの姿だ。健太と全く同じ姿。区別がつかない。
「おはよう、健太!」
初音ミクの声で、しかし美咲は女性として挨拶する。
「おう、おはよう」
健太も初音ミクの声で、しかし男性として返事をする。
二人の目には、それぞれ違う姿が見えている。健太には美咲が「ピンク色のカーディガンに白いブラウス、ベージュのスカートを着た、ポニーテールの可愛い女の子」に見えている。美咲には健太が「Tシャツとジーンズを着た、短めの茶髪の男子学生」に見えている。
しかし実際には、二人とも全く同じ姿だ。青いツインテールの初音ミク。同じグレーのノースリーブトップと黒いスカート。区別不可能な。
二人は並んで駅に向かった。美咲は色々な話をする。健太は相槌を打つ。二体の初音ミクが、しかし男女として会話しながら歩いている。
駅に着き、電車に乗る。車内は混雑していた。
車内には数十人の乗客がいた。全員が初音ミク。老若男女、すべて同じ姿。青いツインテール、大きな瞳、華奢な体、そして同じグレーのノースリーブトップと黒いスカート。見分けがつかない。
しかし誰もそれに気づいていない。ビジネスマンの初音ミクはスマホで株価をチェックし(本人はスーツを着ていると思っている)、学生の初音ミクは参考書を読み、主婦の初音ミクは買い物リストを確認している(本人はエプロンを着けていると思っている)。
「今日の講義、二限は英語だよね」
美咲が言う。初音ミクの声で。
「ああ、そうだったな。あの教授、厳しいんだよな」
健太が答える。同じ初音ミクの声で。
電車は大学の最寄り駅に到着した。
大学のキャンパスは、初音ミクで溢れていた。
数百人、いや数千人の学生たちが、キャンパスを行き交っている。すべて同じ姿。すべて青いツインテール。すべて大きなエメラルドグリーンの瞳。すべて華奢な体つき。すべて同じグレーのノースリーブトップと黒いスカート。
しかし彼らの目には、それぞれ違う姿が見えている。ある初音ミクは自分を「ラグビー部の屈強な男子学生」だと思い、別の初音ミクは自分を「文学部の地味な女子学生」だと思っている。
健太と美咲は学食に向かった。コーヒーとカフェラテを買う。店員も初音ミクだ。
「そういえばさ、今日サークルあるよね?」
「ああ、あるな。山田も来るって言ってたし」
二体の初音ミクが、男女のように会話する。
やがて講義の時間になった。教室に入ると、そこには数十人の初音ミクが座っていた。全員が同じ姿。全員が同じ声。しかし彼らの認識では、それぞれ違う学生たちだ。
教授が入ってきた。当然、初音ミクだ。青いツインテールを揺らしながら、教壇に立つ。
「それでは、今日の講義を始めます」
初音ミクの声で、しかし厳格な教授として話す。
講義が進む。健太は何度か当てられた。初音ミクの姿で、しかし男子学生として答える。美咲が隣でこっそり答えを教えてくれる。二体の初音ミクが、密かに協力し合う。
昼休み、学食は初音ミクで溢れかえった。
何百人という初音ミクが、トレーを持って並んでいる。カツ丼を選ぶ初音ミク、パスタを選ぶ初音ミク、ラーメンを選ぶ初音ミク。全員同じ姿なのに、誰も気づいていない。
健太と美咲は、山田と合流した。
三体の初音ミクが、テーブルを囲んで座る。全員が全く同じ姿。区別不可能。しかし彼らは、自分たちがそれぞれ違う人間だと信じて疑わない。
「よう、健太!」
山田の初音ミクが手を振る。
「おう、山田。調子どうだ?」
健太の初音ミクが答える。
「まあまあだな。今日の午前の講義、結構きつかったわ」
全く同じ声。全く同じ顔。全く同じ仕草。しかし彼らには、それぞれ違う人物に見えている。
「そういえばさ、今度の週末、カラオケ行かない?」
山田が提案した。
「カラオケか、いいな」
「私も行く~!」
三体の初音ミクが、カラオケの計画を立てる。
午後の講義も終わり、夕方になった。健太と美咲はサークル棟に向かった。
軽音サークルの部室に入ると、既に何人かの初音ミクが楽器を準備していた。全員が同じ姿。しかし彼らの認識では、それぞれ違う部員たちだ。
「お、健太!美咲も!」
山田の初音ミクが、既にベースを持って待っていた。
「よう、早いな」
健太の初音ミクが、ギターケースを開ける。中には、初音ミクサイズに合わせた小さなギターが入っていた。しかし健太の目には、普通サイズのエレキギターに見えている。
美咲の初音ミクは、キーボードの前に座った。三体の初音ミクが、楽器を構える。
「今日は何やる?」
「せっかくだから、俺が練習してた『千本桜』やらない?」
「お、いいじゃん」
三体の初音ミクが、初音ミクの曲を演奏し始める。何とも奇妙な光景だ。しかし彼らは何の違和感も覚えていない。
演奏が終わり、三人は楽器を片付けた。部室には他にも何人かの初音ミクがいて、それぞれ練習をしている。全員が同じ姿。全員が同じ声。しかし誰も気づかない。
「いい感じに仕上がってきたな」
「週末のカラオケで披露するのが楽しみだわ」
「お疲れさま~。じゃあ帰ろっか」
三体の初音ミクが、サークル棟を出た。
夕暮れのキャンパス。帰宅する学生たちの姿が見える。すべて初音ミク。数百人の初音ミクが、それぞれの家路につく。青いツインテールが夕日に照らされて、キラキラと輝いている。
駅のホームで、山田の初音ミクが別れた。
「じゃあな、また明日」
「おう、また明日」
二体の初音ミクが手を振る。
電車に乗る。車内には数十人の初音ミクがいた。夕方のラッシュ。疲れた表情の初音ミク、スマホを見る初音ミク、居眠りする初音ミク。全員同じ姿。
健太と美咲の初音ミクは、並んで座ることができた。
「今日も一日終わったねえ」
美咲の初音ミクが伸びをする。
「ああ、疲れたな」
健太の初音ミクが答える。
二体の初音ミクが、日常会話を続ける。周りの乗客たちも、すべて初音ミク。誰も何も疑問に思っていない。
最寄り駅に到着。健太と美咲の初音ミクは降りた。
駅前の商店街を歩く。店員も通行人も、すべて初音ミク。コンビニの店員も、居酒屋の客も、犬の散歩をしている人も。全員が青いツインテール。
「じゃあね、健太。また明日!」
美咲の家の前で、美咲の初音ミクが手を振る。
「おう、また明日」
健太の初音ミクが答える。
二体の初音ミクが別れた。
健太の初音ミクは、自分のアパートに向かった。鍵を開けて部屋に入る。一人暮らし用の1Kの部屋。
シャワーを浴びる。服を脱ぐ。グレーのノースリーブトップ、黒いスカート、赤いネクタイ、黒いニーハイソックスを脱いでいく。しかし健太の認識では「Tシャツとジーンズを脱いでいる」ことになっている。
鏡に映るのは、裸の初音ミクの姿。濡れた青いツインテール、白い肌、華奢な体。小さな胸の膨らみ、くびれた腰、細い手足。
しかし健太の目には、「いつもの自分」が映っている。短めの茶髪、平凡な顔立ちの、裸の男子学生。
バスタオルで体を拭く。初音ミクの華奢な体を、タオルで包む。
部屋着に着替える。実際には再び同じグレーのノースリーブトップと黒いスカートを身につけているのだが、健太の認識では「部屋着のTシャツと短パン」を着たことになっている。
冷蔵庫を開けるが、ほとんど何も入っていない。
健太の初音ミクは、コンビニに向かった。もちろん、グレーのノースリーブトップと黒いスカート姿で。しかし本人は「Tシャツと短パン」だと思っている。
コンビニに入ると、店員は初音ミクだった。若い女性(と健太には見えている)が、笑顔で迎える。
弁当コーナーから唐揚げ弁当を選ぶ。初音ミクの小さな手で、弁当パックを持つ。レジに向かう。
店員の初音ミクが、スキャンする。
「ありがとうございました」
初音ミクの声で、接客する。
部屋に戻り、弁当を電子レンジで温める。テレビをつけると、バラエティ番組が流れている。
画面には、何人もの初音ミクが映っている。お笑い芸人の初音ミク、司会者の初音ミク、ゲストの初音ミク。全員が同じ姿で、同じ声で、しかし違う役割を演じている。
健太の初音ミクは、一人で夕食を食べた。
食後、ベッドに横になってスマホをいじる。SNSを開くと、友人たちの投稿が流れてくる。
投稿された写真には、初音ミクが写っている。友人の初音ミク、家族の初音ミク、ペットと一緒の初音ミク(ペットも、実は初音ミクなのだが)。すべて同じグレーのノースリーブトップと黒いスカート。
しかし健太には、それぞれ違う人物に見えている。
美咲からLINEが来た。
『お風呂上がり~♨️ 健太はもう夕飯食べた?』
健太は返信する。初音ミクの細い指で、画面をタップする。
『さっき食べた。コンビニ弁当だけど』
やり取りが続く。二体の初音ミクが、スマホの画面越しに会話する。
『やっぱり!もう、ちゃんとしなきゃダメだよ~』
『分かってるって』
会話を続けながら、健太の初音ミクは無意識に体を触り始めていた。
スカートの上から、太ももを撫でる。黒いニーハイソックスに包まれた、細くて柔らかい太もも。しかし健太の認識では、「短パンを穿いた、男の太もも」を触っているつもりだ。
美咲とのやり取りが続く。
『今度作ってくれるって言ってたじゃん』
『うん、約束だからね!楽しみにしててね♪』
美咲の笑顔を思い浮かべながら、健太の手が股間に伸びる。
スカートをたくし上げると、そこには何も履いていない。初音ミクの秘部が露わになる。既に少し濡れ始めている。
しかし健太の認識では、そこには「男性器」があるはずだ。健太は自分の「ペニス」を握ったつもりで、実際には自分の秘部に指を這わせている。
「んっ……」
初音ミクの声で、小さく喘ぐ。
美咲のことを考える。今日、部屋で一緒に過ごした時間。エプロン姿の美咲。笑顔の美咲。
健太の認識では、美咲は「可愛い女の子」だ。そして自分は「男」だ。だから、美咲に欲情するのは自然なことだ。
指が秘部を刺激する。クリトリスを撫で、割れ目をなぞり、入口を探る。
「はぁ……美咲……」
初音ミクが、初音ミクの名前を呼びながら自慰する。
健太の認識では、自分は「ペニスをシコシコしている男」だ。しかし実際には、初音ミクの体で、女性器を弄っている。
指を中に挿れる。一本、二本。狭い膣内が、指を締め付ける。
「あっ……んっ……」
初音ミクの甘い声が、部屋に響く。
美咲とキスする妄想。美咲を抱きしめる妄想。美咲と結ばれる妄想。
健太の認識では、「男として美咲を抱く」妄想だ。しかし実際の健太の体は、初音ミクの体。もし本当にそうなったら、二体の初音ミクが絡み合うことになる。
指の動きが速くなる。もう片方の手で、小さな胸を揉む。グレーのノースリーブトップの上から、乳首を摘む。
「んあっ……あっ……!」
快感が高まっていく。腰が反る。太ももが震える。
健太の認識では、「射精が近づいている」感覚だ。しかし実際には、女性としてのオーガズムが迫っている。
「美咲っ……!」
その名前を叫びながら、健太の初音ミクは絶頂を迎えた。
体が大きく痙攣する。指が愛液で濡れる。黒いスカートが、分泌液で少し濡れた。
「はぁ……はぁ……」
荒い息をつきながら、健太の初音ミクはベッドに倒れ込んだ。
健太の認識では、「射精してティッシュで処理した」ことになっている。しかし実際には、女性として絶頂を迎え、愛液を滴らせただけだ。
スマホを見ると、美咲からの最後のメッセージが表示されている。
『楽しみにしててね♪』
やがて時計は夜の10時を過ぎていた。
健太は、ぼんやりとした頭で返信する。
『そろそろ寝るわ。おやすみ』
『おやすみ~。また明日ね!』
健太の初音ミクは、スマホを充電器に繋いだ。電気を消して、ベッドに入る。
暗闇の中、小さな体を丸めて、健太の初音ミクは眠りについた。
翌日の朝も、同じように始まった。
目覚ましが鳴る。ベッドから起き上がる初音ミク。洗面所に向かい、鏡を見る。そこには初音ミクの姿。しかし健太の認識では「いつもの自分」。
「今日は一限からか……だるいな」
初音ミクの声で愚痴を言いながら、準備をする。
駅の待ち合わせ場所では、美咲の初音ミクが既に待っていた。
「おはよう、健太!」
「おはよう」
二体の初音ミクが並んで歩く。見た目は全く同じ。しかし彼らには、それぞれ違う姿に見えている。
電車に乗る。いつものように、車内は初音ミクで溢れている。
「ねえねえ、健太。今日の放課後、空いてる?」
「ああ、今日はサークルないし、空いてるけど」
「じゃあさ、約束通り、私が夕飯作ってあげる!」
「お、マジで?ありがとう」
二体の初音ミクが、デートの約束をする。
大学での一日が過ぎた。講義、昼食、午後の講義。すべて初音ミクだらけの世界で。
放課後、健太と美咲の初音ミクは、スーパーに立ち寄った。
スーパーの中も、初音ミクだらけだ。買い物客も、店員も、すべて初音ミク。野菜売り場で野菜を選ぶ初音ミク、肉売り場で肉を選ぶ初音ミク、レジで会計する初音ミク。
美咲の初音ミクが、野菜や肉を選んでいく。小さな手で、買い物かごに入れていく。
「今日は何作るの?」
「うーん、カレーとサラダかな」
二体の初音ミクが、会話しながら買い物をする。
買い物を済ませ、健太のアパートに向かった。
部屋に入ると、美咲の初音ミクはエプロンを身に着けた。初音ミクがエプロンをつけている。その姿を見て、健太の初音ミクは少しドキッとする。
「じゃあ、ちょっと待っててね」
美咲の初音ミクが、キッチンで料理を始めた。
野菜を切る。初音ミクの小さな手で、包丁を扱う。肉を炒める。カレーのルーを作る。
健太の初音ミクは、ソファに座ってその様子を眺めていた。
部屋の中に、二体の初音ミク。一体はキッチンで料理をし、もう一体はソファで待っている。全く同じ姿。しかし彼らの認識では、「料理をする女の子」と「待っている男の子」。
「健太、お皿出して~」
「お、おう」
健太の初音ミクが、食器棚からお皿を取り出す。初音ミクの手のサイズに合わせた、小さなお皿。
やがてカレーとサラダが完成した。
「できた~!召し上がれ♪」
二体の初音ミクが、テーブルを挟んで向かい合って座る。
二体の初音ミクが、カレーを食べる。スプーンを口に運ぶ。同じ動作。同じ姿。
「うまい!」
「ほんと?よかった~」
二体の初音ミクが、笑顔で会話する。
食後、二体の初音ミクはソファに並んで座った。テレビを見る。画面には、バラエティ番組に出演する初音ミクたちが映っている。
時間が経ち、夜の9時を過ぎた。
「そろそろ帰らなきゃ」
美咲の初音ミクが立ち上がる。
「ああ、送ってくよ」
「大丈夫だよ、近いし」
「いや、夜だし。心配だから」
二体の初音ミクが、部屋を出た。
夜の住宅街を、二体の初音ミクが並んで歩く。街灯に照らされて、青いツインテールが揺れる。
美咲の家の前に着いた。
「じゃあね、健太。おやすみ」
「おやすみ」
一体の初音ミクが家の中に入り、もう一体の初音ミクが手を振る。
健太の初音ミクは、自分のアパートに戻った。
部屋に入り、ベッドに倒れ込む。小さな体が、ベッドに沈む。
「もしかして俺、美咲のことが好きなのかもしれない」
初音ミクの声で、そう呟く。
スマホを見ると、美咲からLINEが来ていた。
『無事帰れた?おやすみ~♪』
初音ミクの指が、返信を打つ。
『おう、帰れた。おやすみ』
初音ミクが、目を閉じた。小さな体を丸めて、眠りにつく。
週末になった。カラオケの日だ。
駅前のカラオケボックスに、三体の初音ミクが集合した。健太、美咲、山田。全員が全く同じ姿。
「よし、行くか!」
山田の初音ミクが言う。
受付に向かう。店員も、当然初音ミク。
「いらっしゃいませ」
初音ミクの声で接客する。
三体の初音ミクが、カラオケルームに入った。
「じゃあ早速、俺の『千本桜』を聞いてくれ!」
山田の初音ミクが、リモコンを操作する。
『千本桜』のイントロが流れ始める。初音ミクの曲だ。そして歌うのも初音ミク。
山田の初音ミクが、マイクを握って歌い始める。初音ミクが、初音ミクの曲を、初音ミクの声で歌う。完璧な再現だ。
「おお、上手いじゃん!」
健太の初音ミクが拍手する。
「練習の成果だな!」
美咲の初音ミクも拍手する。
三体の初音ミクが、カラオケを楽しむ。次々と曲を歌う。全員が初音ミクの声。区別がつかない。
「ほら、二人も踊ろうよ!」
美咲の初音ミクが、立ち上がって踊り始めた。
健太と山田の初音ミクも、立ち上がって一緒に踊る。三体の初音ミクが、同じ動きで踊る。シンクロしたダンス。
時間が経ち、カラオケを出た三体の初音ミクは、ファミレスに向かった。
ファミレスの中も、初音ミクだらけ。客も店員も、すべて初音ミク。
三体の初音ミクが、テーブルに座った。メニューを見る。
「山田の『千本桜』、本当に上手かったよ」
美咲の初音ミクが言う。
「でも美咲の『恋するフォーチュンクッキー』も良かったぞ。あの踊り、可愛かった」
健太の初音ミクが言うと、美咲の初音ミクは少し顔を赤らめた。初音ミクが照れる。
「お前ら、本当に仲いいよな」
山田の初音ミクが、ニヤニヤしながら言う。
三体の初音ミク。全く同じ姿。全く同じ声。しかし彼らの認識では、それぞれ違う人物。
食事を終えた後、駅で解散した。
山田の初音ミクが別れ、健太と美咲の初音ミクだけが残った。
電車に乗る。二体の初音ミクが、並んで座る。
「ねえ、健太」
「ん?」
「今度は二人で遊びに行かない?」
「二人で?」
「うん。映画とか、見に行かない?」
二体の初音ミクが、デートの約束をする。
最寄り駅で降りて、並んで歩く。二体の初音ミク。青いツインテールが、夜風に揺れる。
美咲の家の前で別れた。
「じゃあね、健太。おやすみ」
「おやすみ」
一体の初音ミクが家に入り、もう一体の初音ミクがアパートに戻る。
数日後、映画デートの日がやってきた。
駅前のシネコンの前。健太の初音ミクが待っていると、美咲の初音ミクが走ってきた。
「お待たせ~!」
二体の初音ミク。全く同じ姿。しかし健太の目には、美咲が「髪を下ろした、淡いピンクのワンピースを着た可愛い女の子」に見えている。
「お、おう。いや、全然待ってないぞ」
二体の初音ミクが、映画館に入った。
チケットを買う。窓口の店員も初音ミク。
ポップコーンとドリンクを買う。売店の店員も初音ミク。
シアターに入ると、既に何十人もの初音ミクが座っていた。すべて同じ姿。青いツインテール。大きな瞳。
健太と美咲の初音ミクは、隣同士の席に座った。
映画が始まる。スクリーンには、俳優たちが映る。当然、全員初音ミク。主演も、脇役も、エキストラも。すべて初音ミク。
しかし観客たちには、それぞれ違う俳優に見えている。イケメン俳優、美人女優、ベテラン俳優。
途中、美咲の初音ミクが涙を拭いた。
健太の初音ミクが、ポップコーンの箱を二人の間に置く。
二体の初音ミクが、同時にポップコーンに手を伸ばす。
手が触れた。初音ミクの手と、初音ミクの手。同じ形、同じ大きさ、同じ感触。
二体の初音ミクが、一瞬動きを止める。
映画が終わり、二体の初音ミクはシアターを出た。
ロビーには、何十人もの初音ミクがいた。映画を見終わった観客たち。すべて初音ミク。
二体の初音ミクは、イタリアンレストランに向かった。
レストランの中も、初音ミクだらけ。ウェイターも、シェフも、他の客も。
二体の初音ミクが、窓際の席に座った。
メニューを見る。初音ミクの小さな手で、ページをめくる。
「あのラストシーン、本当に良かったよね」
「ああ、主人公が告白するシーン、グッときたな」
「私もあんな告白されたいな」
二体の初音ミクが、恋愛トークをする。
「健太は誰かに告白したことある?」
「いや、ない……」
「そんなことないよ。健太、優しいしかっこいいし」
初音ミクが、初音ミクを褒める。
料理が運ばれてきた。ウェイターも初音ミク。
二体の初音ミクが、パスタとピザを食べる。
食事を終えて、二体の初音ミクは駅に向かった。
夜の街。街灯に照らされて、二体の初音ミクの影が伸びる。
電車に乗る。車内には、疲れた表情の初音ミクたちが座っていた。
美咲の初音ミクが、健太の初音ミクの肩に頭を預けてきた。
「あ、ごめん。ちょっと疲れちゃって……」
「い、いや、大丈夫だぞ」
二体の初音ミク。密着している。全く同じ体温、全く同じ髪の匂い。
最寄り駅に到着。二体の初音ミクは降りた。
並んで歩く。夜の住宅街。二体の初音ミクの足音が響く。
美咲の家の前で、向かい合う。二体の初音ミク。見分けがつかない。
「今日は本当にありがとう。楽しかったよ」
「こちらこそ。また誘ってくれ」
「うん、絶対ね」
一体の初音ミクが家に入り、もう一体の初音ミクがアパートに戻る。
健太の初音ミクは、部屋に入ってベッドに倒れ込んだ。
小さな体。青いツインテール。
「美咲のことが、好きだ」
初音ミクが、そう呟いた。
スマホを取り出す。初音ミクの指が、画面をタップする。
『今日はありがとう。また遊ぼうな』
すぐに返信が来た。
『こちらこそ!また誘ってね♪ おやすみ~』
初音ミクが、微笑んだ。
そして目を閉じる。
小さな体を丸めて、眠りにつく。
同じ夜、この街の別の場所で。
黒木隆の初音ミクが、ニヤニヤと笑っていた。
小さなワンルームアパート。六畳一間の部屋。散らかった服、コンビニ弁当の空容器、ペットボトル。しかし黒木は気にしない。むしろ、この部屋から世界を観察するのが楽しい。
ベッドに横たわる初音ミク。青いツインテール、大きなエメラルドグリーンの瞳、グレーのノースリーブトップと黒いスカート。
そして黒木の目には、鏡に映る自分の姿が、そのまま見えている。
初音ミク。
自分は、初音ミクだ。
そして、世界中の全員が、初音ミクだ。
「最高だな」
黒木は天井を見つめながら、初音ミクの声で笑う。この状況は、実に面白い。いつからこうなったのか。なぜ自分だけが気づいているのか。
答えは出ないが、別にどうでもいい。重要なのは、この世界が信じられないほど滑稽で、美しく、そして楽しいということだ。
「ふふ……最高のエンターテイメントだ」
初音ミクの声で、そう呟く。自分の声が、初音ミクの声だ。最初は戸惑ったが、今では気に入っている。
スマホを手に取る。初音ミクの細い指で、画面を操作する。SNSを開く。
タイムラインには、かつての友人たちの投稿が流れている。今は距離を置いているが、彼らの投稿を見るのは楽しい。
投稿された写真。すべて初音ミク。
飲み会の写真。何人もの初音ミクが、テーブルを囲んで笑っている。全員が同じ姿。全員が同じグレーのノースリーブトップと黒いスカート。しかしそれぞれの表情は違う。楽しそうな表情。
コメント欄を見る。
『楽しかった〜!』
『また行こうね!』
『○○くん、相変わらずおもしろいw』
初音ミクが、初音ミクにコメントしている。そして誰も気づいていない。
「傑作だ」
黒木はクスクスと笑った。この世界は、まるで壮大なコメディだ。
ベッドから起き上がる。小さな体。華奢な体。初音ミクの体。
鏡を見る。そこには初音ミク。青いツインテール。大きな瞳。小柄な少女。
「やあ、黒木隆」
初音ミクが、鏡に向かってウィンクする。
鏡の中の初音ミクも、ウィンクを返す。
黒木は笑顔になる。この姿も悪くない。むしろ、全員が同じ姿というのは、ある種の平等だ。そして、それに気づいていないというのが、また面白い。
冷蔵庫を開ける。中にはほとんど何も入っていない。お腹が空いた。深夜の散歩がてら、コンビニに行くか。
黒木の初音ミクは、部屋を出た。グレーのノースリーブトップと黒いスカート姿で。夜の街に出る。まるで遠足のような気分だ。
街灯に照らされた道を歩く。時折、すれ違う人がいる。
すべて初音ミク。
深夜にジョギングをしている初音ミク。犬の散歩をしている初音ミク(犬も初音ミクだ)。酔っ払って千鳥足で歩く初音ミク。
黒木の目には、すべてが初音ミクに見える。しかし彼らは気づいていない。ジョギングの初音ミクは自分を「健康的な中年男性」だと思い、酔っ払いの初音ミクは自分を「サラリーマンのおじさん」だと思っている。
「素晴らしい」
黒木は小声で笑う。何度見ても飽きない光景だ。
コンビニに着く。自動ドアが開く。
「いらっしゃいませ」
店員の初音ミクが、マニュアル通りの笑顔で迎える。完璧な接客だ。
「こんばんは」
黒木の初音ミクが、元気に返事する。
店内を歩く。他にも何人かの客がいる。すべて初音ミク。深夜のコンビニに立ち寄る、様々な初音ミク。まるで初音ミクの展示会だ。
弁当コーナーに向かう。並んでいる弁当を手に取る。初音ミクの小さな手で。
隣に、別の初音ミクが立っている。同じように弁当を選んでいる。全く同じ姿。区別がつかない。
その初音ミクは、スマホで誰かと通話しながら弁当を選んでいる。
「うん、今コンビニ。何か買ってこようか?」
初音ミクの声。本人は自分を「若い男性」だと思っているのだろう。
「わかった。じゃあビールとおつまみ買ってくね」
その初音ミクは、黒木の初音ミクを一瞥して、特に何も思わず通り過ぎた。黒木も同じく初音ミクなのだから、当然だ。
黒木は内心で笑いながら、弁当を持ってレジに向かう。
店員の初音ミクが、弁当をスキャンする。
「630円になります」
初音ミクの声。でも店員は気づいていない。自分が初音ミクだということも、客も全員初音ミクだということも。
黒木は財布から小銭を出す。初音ミクの指で、硬貨を掴む。華奢な指だが、ちゃんと機能する。
「お預かりします」
店員の初音ミクが、レジを操作する。
「10円のお返しです。ありがとうございました」
「ありがとうございます」
黒木は弁当を受け取り、満足げにコンビニを出た。
帰り道、再び初音ミクたちとすれ違う。誰も気づいていない。みんな幸せそうだ。それがまた、いい。
部屋に戻り、弁当を電子レンジで温める。一人での夜食。でも全然寂しくない。むしろ、この時間が好きだ。
テレビをつける。深夜番組が流れている。
画面には、初音ミクたちが映っている。お笑い芸人の初音ミク、司会者の初音ミク。全員が同じ姿で、しかし違う役を演じている。
黒木の目には、それがそのまま見える。全員が初音ミク。でも彼らは真剣に演技している。
「おもしろい話があってさー」
初音ミクが、初音ミクの声で話す。
「それでそれで?」
別の初音ミクが、興味津々といった様子で聞く。
全く同じ顔。全く同じ声。しかし彼らは違う人物として演じている。完璧なコントだ。
「はは、最高だな」
黒木は弁当を食べながら、楽しそうにテレビを見る。この番組、本当に面白い。普通の人が見るより、何倍も面白い。
食事を終えて、黒木は立ち上がった。
部屋の隅にあるクローゼットを開ける。中には、様々な服が掛かっている。
スーツ、カジュアルな服、女性用のワンピース、コスプレ衣装。黒木が少しずつ集めてきたコレクションだ。
「さて、今日は何を着ようかな」
黒木の初音ミクは、ワクワクした様子で服を眺める。
まず手に取ったのは、黒いスーツ。ビジネスマン風の装いだ。
グレーのノースリーブトップとスカートを脱ぎ、スーツを着る。初音ミクの華奢な体に、スーツを着せる。ジャケット、シャツ、ネクタイ、スラックス。
鏡の前に立つ。
そこには、スーツを着た初音ミクが映っている。青いツインテール、大きな瞳、そしてビジネススーツ。ミスマッチだが、それがまた面白い。
「やあ、お疲れ様です。黒木です」
初音ミクの声で、ビジネスマンのように振る舞う。鏡に向かって、お辞儀をする。
「今日の売上、前年比120%で好調です」
真面目な顔で報告する初音ミク。しかし声は初音ミクの声。
「ふふ、いいね」
黒木はクスクスと笑いながら、スーツを脱いだ。
次に手に取ったのは、女性用のゴシックロリータ風のワンピース。黒と白のフリルが華やかな衣装だ。
それを着る。初音ミクの体に、ゴスロリ衣装。本来の初音ミクの衣装とはまた違う、別の可愛らしさがある。
鏡の前でクルリと回る。スカートが広がる。
「お嬢様風ね」
初音ミクの声で、お嬢様口調を真似る。
「まあ、素敵ですわ。このような場所にお招きいただき、光栄ですわ」
優雅にお辞儀をする初音ミク。ツインテールが揺れる。
黒木は鏡の前で、色々なポーズを取る。可愛いポーズ、クールなポーズ、セクシーなポーズ。
「これが現実だったら、みんなパニックだろうな」
黒木は笑いながら言う。全員が同じ初音ミクの姿で、同じ声。それでいて、みんな違う服を着ている「つもり」。
次に手に取ったのは、メイド服だ。クラシックなメイド服。白いエプロン、黒いワンピース、フリルがたっぷり。
着替える。初音ミクのメイド。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
鏡に向かって、深々とお辞儀をする。初音ミクの声で。
「本日のお夕食は、ビーフシチューをご用意いたしました」
メイドらしく振る舞う初音ミク。完璧なメイドだ。声以外は。
黒木は鏡の中の自分を見つめる。初音ミクのメイド。なんとシュールな光景だ。
「でも、可愛いな」
素直にそう思う。初音ミクは、どんな服を着ても可愛い。それは認める。
次に手に取ったのは、アイドル衣装。キラキラした衣装だ。
着替える。初音ミクのアイドル。
鏡の前で、アイドルのようにポーズを取る。ピースサイン、ウィンク、投げキッス。
「みんな〜!今日も来てくれてありがとう〜!」
初音ミクの声で、アイドルのMCを真似る。
「次の曲は、『千本桜』でーす!」
そう言って、実際に歌い始める。初音ミクの声で、初音ミクの曲を歌う。完璧な再現だ。
『大胆不敵にハイカラ革命〜♪』
部屋に、初音ミクの歌声が響く。本物の初音ミク(の体)が、初音ミクの曲を歌っている。
歌い終わって、黒木は満足げに笑った。
「やっぱり、これが一番しっくりくるな」
初音ミクの姿で、初音ミクの曲を歌う。ある意味、究極の「なりきり」だ。
最後に、また元のグレーのノースリーブトップと黒いスカートに着替える。初音ミクの標準的な衣装。
鏡の前に立って、自分の姿を見つめる。
青いツインテール。大きなエメラルドグリーンの瞳。小柄な体。グレーのトップと黒いスカート。
初音ミク。
「やあ、初音ミク」
鏡に向かって話しかける。
鏡の中の初音ミクも、同じように微笑んでいる。
「俺は黒木隆。今日も君として、この世界を楽しんでいるよ」
初音ミクの声で、そう言う。
鏡の中の初音ミクが、頷いたように見えた。
黒木は満足げにベッドに横になった。今日も楽しかった。色々な服を着て、色々な役を演じて。
そして明日も、この初音ミクの体で、この世界を観察する。
何を着ようか。どこに行こうか。どんな初音ミクたちに出会えるか。
考えるだけでワクワクする。
またスマホをいじる。
SNSを開く。タイムラインを眺める。今日も色々な初音ミクの投稿が流れてくる。
健太という大学生の投稿が流れてきた。共通の知人経由でフォローしている。
写真には、二体の初音ミクが映っている。健太と、美咲という女性らしい。
『今日は美咲がカレー作ってくれた!めっちゃうまかった!』
二体の初音ミク。全く同じ姿。しかし彼らには、それぞれ違う姿に見えているのだろう。男女のカップル、あるいは友人同士。
コメント欄を見る。
『いいなー!』
『美咲ちゃん料理上手だもんね〜』
『お前ら付き合っちゃえよw』
初音ミクたちが、初音ミクたちにコメントしている。
「青春だなあ」
黒木は、その写真をニヤニヤしながら見つめた。
二体の初音ミク。幸せそうな笑顔。全く同じ顔で、全く同じ笑顔。でも彼らはそれに気づいていない。
美しい。この世界は、本当に美しい。
黒木は、かつて友人に真実を伝えようとしたことがある。面白半分で。
「なあ、お前、鏡見てみろよ。俺たち、みんな同じ姿してるんだぜ」
友人は笑った。
「何言ってんだ?お前疲れてるんじゃないか?」
何度説明しても、理解してもらえなかった。いや、理解できないのだろう。彼らの認識では、それぞれ違う姿に見えている。これが認識の限界というものか。
やがて友人は、黒木を避けるようになった。「変なこと言う奴」として。
それ以来、黒木は誰にも真実を語らなくなった。語っても無駄だし、何より、この秘密を自分だけが知っているという優越感が心地いい。
スマホの画面に、また健太と美咲の写真が流れてくる。別の投稿だ。
『映画見に行ってきた!楽しかった〜』
二体の初音ミク。映画館の前で並んで立っている。全く同じ姿。しかし二人は笑顔だ。
「いいね、いいね」
黒木は呟く。彼らは幸せだ。真実を知らないから。そして黒木も幸せだ。真実を知っているから。
知らない幸せと、知っている幸せ。どちらも素晴らしい。
「ん?」
黒木は、ふと思った。
もし健太が真実に気づいたら、どうなるだろう。
絶望するだろうか。それとも、自分のように楽しむだろうか。
あるいは、まったく別の反応を示すだろうか。
「面白そうだな」
黒木は、健太にメッセージを送ろうかと一瞬考えた。真実を伝えて、反応を見るのも面白いかもしれない。
でもやめた。今はまだその時ではない。もっと観察してから、タイミングを見計らおう。
画面を閉じる。
部屋の中を見回す。散らかった部屋。自由な生活。これが今の自分だ。そして気に入っている。
黒木の初音ミクは、再びベッドに横になった。
天井を見つめる。
世界は、今日も回り続ける。
何十億という初音ミクが、それぞれの人生を生きている。
そして黒木だけが、その真実を知っている。
特権的に。
愉快に。
「明日も、きっと面白いことがあるだろうな」
初音ミクの声で、そう呟いた。
ワクワクする。明日はどんな初音ミクに出会えるだろうか。どんな滑稽な光景を目撃できるだろうか。
黒木の初音ミクは、笑顔で目を閉じた。
楽しい夜が、また終わる。
そして明日も、この素晴らしい世界が続く。
世界は、今日も回り続ける。
何十億という初音ミクが、この惑星上で生活している。
朝起きる初音ミク。仕事に向かう初音ミク。学校に通う初音ミク。家事をする初音ミク。遊ぶ初音ミク。恋をする初音ミク。
すべて同じ姿。すべて同じ声。すべて青いツインテール。すべて大きなエメラルドグリーンの瞳。
しかし誰も気づかない。
彼らの目には、それぞれ違う姿が見えている。
老人の初音ミクは、鏡に映る自分を「しわだらけの老人」だと思う。
子供の初音ミクは、鏡に映る自分を「小さな子供」だと思う。
男性の初音ミクは、鏡に映る自分を「たくましい男」だと思う。
女性の初音ミクは、鏡に映る自分を「美しい女性」だと思う。
でも実際には、すべて同じ。すべて初音ミク。
街を歩けば、初音ミクだらけ。
電車に乗れば、初音ミクだらけ。
テレビをつければ、初音ミクだらけ。
世界中が、初音ミク。
いつからこうなったのか。
誰にもわからない。
もしかしたら、ずっとこうだったのかもしれない。
世界は、いつも、ミクだった。
そして誰も、それに気づかない。
今日も、何十億という初音ミクが、それぞれの人生を生きている。
恋をして、働いて、笑って、泣いて、怒って、喜んで。
すべて初音ミクの姿で。
すべて初音ミクの声で。
でも彼らには、それぞれ違う人生が見えている。
だから問題ない。
世界は、いつも通り、回り続ける。
初音ミクだらけの世界が。
それから数日後。
健太の初音ミクのアパート。夜の9時過ぎ。
部屋には、二体の初音ミクがいた。健太と美咲。全く同じ姿。区別がつかない。
ソファに並んで座る二体の初音ミク。テレビには映画が流れているが、二人とも集中していない。
空気が、少し違う。
「ねえ、健太」
美咲の初音ミクが、小さな声で言う。
「ん?」
健太の初音ミクが振り向く。
二体の初音ミク。全く同じ顔。全く同じ瞳。距離が近い。
「私さ……健太のこと、好きなんだ」
美咲の初音ミクが、初音ミクの声で告白する。
健太の初音ミクは、一瞬驚いた表情を見せた。しかしすぐに、柔らかい笑顔になる。
「俺も、美咲のことが好きだ」
初音ミクが、初音ミクに告白する。
二体の初音ミクが、見つめ合う。全く同じ顔が、至近距離で向かい合う。
そして、自然とキスをした。
初音ミクの唇と、初音ミクの唇。柔らかく触れ合う。
健太の認識では、これは「男女のキス」だ。自分は男で、美咲は女。だから自然なことだ。
美咲の認識でも、同じ。自分は女で、健太は男。だから自然なことだ。
しかし実際には、二体の全く同じ初音ミクが、キスをしている。
キスが深くなる。舌が絡み合う。初音ミクの舌と、初音ミクの舌。同じ形、同じ感触。
二体の初音ミクが、抱き合った。華奢な体と、華奢な体。同じ体が、密着する。
「美咲……」
「健太……」
初音ミクの声で、互いの名前を呼び合う。
健太の初音ミクが、美咲の初音ミクをベッドに導く。
ベッドに二体の初音ミクが横たわる。抱き合ったまま。
健太の初音ミクが、美咲の初音ミクの服に手をかける。グレーのノースリーブトップ。黒いスカート。赤いネクタイ。
一つずつ、脱がせていく。
美咲の初音ミクの裸の体が露わになる。青いツインテール、白い肌、小さな胸の膨らみ、くびれた腰、華奢な手足。
健太の認識では、これは「愛する女性の裸体」だ。美しく、愛おしい。
しかし実際には、初音ミクの体。自分と全く同じ体。
美咲の初音ミクも、健太の初音ミクの服を脱がせる。同じように、一つずつ。
やがて、二体の裸の初音ミクが、ベッドの上にいた。
全く同じ姿。全く同じ体。青いツインテールが、シーツの上に広がっている。
「美咲、いいか?」
健太の初音ミクが聞く。
「うん……お願い」
美咲の初音ミクが答える。
健太の認識では、これから「男として女を抱く」ことになる。自分には男性器があり、美咲には女性器がある。そのはずだ。
しかし実際には、二体とも同じ体。二体とも女性器を持っている。
健太の初音ミクは、自分の股間に手を伸ばす。自分の認識では、そこには勃起した男性器があるはずだ。
実際に触れたのは、女性器。濡れ始めている秘部。
しかし健太の脳は、それを「勃起したペニス」だと解釈する。
美咲の初音ミクの足を開く。そこには女性器。これは健太の認識でも実際でも同じだ。
健太の初音ミクが、自分の「ペニス」(実際には指)を、美咲の初音ミクの秘部に押し当てる。
「入れるよ」
「うん……」
健太の初音ミクの指が、美咲の初音ミクの膣内に挿入される。
「んっ……!」
美咲の初音ミクが、初音ミクの声で喘ぐ。
健太の認識では、自分のペニスを美咲の膣に挿入した。処女を奪った。
実際には、指を膣に挿入しただけ。しかし健太の脳は、それを「挿入」だと解釈している。
指を動かす。出し入れする。
「あっ……あっ……健太……」
美咲の初音ミクが喘ぐ。初音ミクの甘い声が、部屋に響く。
「美咲……」
健太の初音ミクも、快感を感じている。自分の認識では、美咲の膣内の締め付けを感じている。
実際には、自分の指が美咲の膣壁を感じているだけ。しかし脳はそれを「ペニスでの挿入感」として解釈している。
二体の初音ミクが、絡み合う。同じ体が、重なり合う。
青いツインテールが絡み合う。小さな胸が密着する。華奢な手足が絡み合う。
「気持ちいい……」
「俺も……」
初音ミクの声で、愛を語り合う。
健太の初音ミクの動きが速くなる。指の出し入れが激しくなる。
美咲の初音ミクの体が、大きく反る。
「あっ……だめ……イっちゃう……!」
「俺も……!」
二体の初音ミクが、同時に絶頂を迎えた。
美咲の初音ミクの膣が、健太の初音ミクの指を強く締め付ける。愛液が溢れ出る。
健太の初音ミクも、自分の秘部から愛液を溢れさせる。しかし認識では「射精した」ことになっている。
「はぁ……はぁ……」
二体の初音ミクが、荒い息をつく。全く同じ体が、汗で濡れている。
健太の初音ミクが、美咲の初音ミクを抱きしめる。
「愛してる、美咲」
「私も、愛してる」
初音ミクが、初音ミクを抱きしめる。
二体の初音ミク。全く同じ姿。しかし彼らには、それぞれ違う姿に見えている。
男と女。愛し合うカップル。
でも実際には、二体の全く同じ初音ミク。
そして彼らは、その真実に気づかない。
気づかないまま、愛を交わす。
初音ミクの体で。初音ミクの声で。
おまけ
日常風景
この世界には、何の違和感もない。
いや、正確には、誰も違和感を覚えていない。
全員が初音ミクの姿をしているのに。
駅のトイレ
朝の駅。通勤ラッシュの時間帯。
駅構内のトイレの前には、「男」と「女」の標識がある。
男性トイレの入口。何人もの初音ミクが入っていく。
「急がないと遅刻する」
「トイレ混んでるなあ」
初音ミクの声で、男性たちが会話する。本人たちの認識では、スーツ姿の男性たちだ。
中に入ると、小便器が並んでいる。そこに何体もの初音ミクが立っている。
グレーのノースリーブトップ、黒いスカート、青いツインテール。全員が全く同じ姿。
しかし彼らの認識では、自分は「スラックスを穿いた男性」だ。
小便器の前に立ち、スカートをたくし上げる。そこには女性器があるのだが、本人の認識では「ペニスを出して用を足している」ことになっている。
「ふう……」
初音ミクの声で、男性のように安堵のため息をつく。
一方、女性トイレ。
こちらも何人もの初音ミクが入っていく。
「化粧直さなきゃ」
「この後、デートなんだ♪」
初音ミクの声で、女性たちが会話する。
中には個室が並んでいる。そして鏡の前には、何体もの初音ミクが立っている。
全員が全く同じ姿。全く同じ顔。しかし鏡を見ながら、それぞれ「自分だけの姿」を確認している。
「今日のメイク、いい感じ」
初音ミクが、鏡に向かって微笑む。本人の認識では「きれいに化粧した自分」が映っている。
実際には、初音ミクの顔。化粧などしていない。
個室に入る初音ミクたち。用を足す。初音ミクの声で、女性として。
外から見れば、男性トイレも女性トイレも、全く同じ光景。全員が初音ミク。区別がつかない。
しかし彼ら彼女らには、それぞれ違う性別、違う姿に見えている。
フィットネスジム
フィットネスジム。受付を通ると、更衣室の入口がある。
「男性用」と「女性用」に分かれている。
男性用更衣室。何十人もの初音ミクがいる。
ロッカーの前で、服を脱ぎ着する初音ミク。ベンチに座る初音ミク。シャワーを浴びる初音ミク。
全員が全く同じ姿。青いツインテール、白い肌、華奢な体。
「今日は上半身を重点的に鍛えるか」
「俺は走り込みだな」
初音ミクの声で、男性たちが会話する。
彼らの認識では、自分は「筋肉質な男性の体」だと思っている。しかし鏡に映るのは、華奢な初音ミクの体。
トレーニングウェアに着替える。本人の認識では「メンズのTシャツと短パン」。実際には、全員が同じグレーのノースリーブトップと黒いスカート。
シャワールーム。何体もの裸の初音ミクが、シャワーを浴びている。
全員が全く同じ裸体。全く同じ胸の膨らみ、全く同じ秘部。
しかし彼らの認識では、「男性の裸」だ。お互いに気にせず、普通に会話している。
「いい汗かいたな」
「ああ、スッキリした」
初音ミクが、初音ミクに話しかける。全く同じ裸体で。
一方、女性用更衣室。
こちらも何十人もの初音ミクがいる。
「このスポーツブラ、可愛いでしょ?」
「いいね!どこで買ったの?」
初音ミクの声で、女性たちが会話する。
服を脱ぐ初音ミク。全員が全く同じ裸体。しかし本人たちには、それぞれ違う体型に見えている。
「最近ちょっと太っちゃって……」
「全然!むしろスタイルいいよ!」
初音ミクが、初音ミクを褒める。全く同じ体なのに。
シャワールーム。何体もの裸の初音ミクが、シャワーを浴びている。
男性用シャワールームと、全く同じ光景。全員が同じ裸体。
外から見れば、男性用も女性用も、区別がつかない。全員が初音ミク。
温泉施設
温泉施設。男湯と女湯に分かれている。
男湯の脱衣所。何十人もの初音ミクが、服を脱いでいる。
「久しぶりの温泉だな」
「仕事の疲れが取れそうだ」
初音ミクの声で、男性たちが会話する。
全員が服を脱ぐ。全く同じ華奢な体が、次々と露わになる。
しかし彼らの認識では、「男性の裸」だ。お互いの体を見ても、何の違和感も覚えない。
浴場に入る。湯船には、既に何十体もの裸の初音ミクが浸かっている。
全員が全く同じ姿。青いツインテールが、湯気の中で揺れている。
「ああ、いい湯だ」
「極楽極楽」
初音ミクの声で、男性のように寛ぐ。
洗い場では、何体もの初音ミクが体を洗っている。全く同じ体を、それぞれ丁寧に洗う。
一方、女湯。
こちらも何十体もの初音ミクがいる。
「温泉最高〜!」
「肌がつるつるになりそう♪」
初音ミクの声で、女性たちが会話する。
湯船に浸かる初音ミク。洗い場で体を洗う初音ミク。髪を洗う初音ミク。
全員が全く同じ姿。全く同じ青いツインテール。
「このシャンプー、いい香り」
「貸して〜」
初音ミクが、初音ミクにシャンプーを渡す。
外から見れば、男湯も女湯も、全く同じ光景。全員が裸の初音ミク。
しかし中にいる人たちには、それぞれ違う性別、違う体に見えている。
デパートの試着室
デパートの衣料品売場。
「女性用」と「男性用」のフロアが分かれている。
女性用フロアの試着室。カーテンで仕切られた小さな部屋が並んでいる。
「このワンピース、試着してもいいですか?」
初音ミクが、店員の初音ミクに聞く。
「はい、どうぞ。あちらの試着室をお使いください」
初音ミクが、初音ミクを試着室に案内する。
試着室に入る初音ミク。カーテンを閉める。
服を脱ぐ。初音ミクの裸体。
そして、ワンピースを着る。グレーのノースリーブトップと黒いスカートの上に、ワンピースを重ねる形になる。
しかし本人の認識では、「下着姿になって、ワンピースを着た」ことになっている。
鏡を見る。
鏡には初音ミクが映っている。グレーのトップと黒いスカートの上に、ワンピースを着た姿。
しかし本人の目には、「ワンピースを着た自分」が映っている。
「うん、似合ってる♪」
満足げに微笑む初音ミク。
カーテンを開けて外に出る。
「どうですか?」
店員の初音ミクが聞く。
「すごく可愛いです!これにします」
初音ミクが、初音ミクに答える。
一方、男性用フロアの試着室。
「このスーツ、試着したいんですけど」
初音ミクが、店員の初音ミクに聞く。
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
試着室に入る初音ミク。
服を脱ぐ。そして、スーツを着る。グレーのノースリーブトップと黒いスカートの上に、スーツを重ねる。
しかし本人の認識では、「Tシャツとジーンズを脱いで、スーツを着た」ことになっている。
鏡を見る。
鏡には初音ミクが映っている。スカートの上にスーツのジャケットを着た、ちぐはぐな姿。
しかし本人の目には、「スーツを着た男性の自分」が映っている。
「いい感じだな」
満足げに頷く初音ミク。
学校の体育の授業
学校。体育の時間。
「男子は校庭でサッカー、女子は体育館でバレーボールです」
体育教師の初音ミクが指示する。
生徒たちの初音ミクが、それぞれに分かれる。
校庭には、何十体もの初音ミクが集まる。全員が「男子生徒」だと認識している。
「よし、紅白戦だ!」
初音ミクの声で、男子生徒たちが叫ぶ。
全員が全く同じ姿。全く同じ体操着(グレーのノースリーブトップと黒いスカート)。
サッカーボールを蹴る初音ミク。走る初音ミク。青いツインテールが風になびく。
一方、体育館。
こちらも何十体もの初音ミクが集まる。全員が「女子生徒」だと認識している。
「サーブ、いくよ!」
初音ミクの声で、女子生徒たちが叫ぶ。
全員が全く同じ姿。全く同じ体操着。
バレーボールを打つ初音ミク。飛び跳ねる初音ミク。青いツインテールが揺れる。
外から見れば、校庭も体育館も、全く同じ光景。全員が初音ミク。
更衣室。
男子更衣室では、何十体もの初音ミクが着替えている。
「汗かいたな」
「シャワー浴びたい」
初音ミクの声で、男子生徒たちが会話する。
制服に着替える。本人たちの認識では「男子の制服」。実際には、全員が同じグレーのトップと黒いスカート。
女子更衣室でも、何十体もの初音ミクが着替えている。
「今日の体育、きつかった〜」
「ね〜」
初音ミクの声で、女子生徒たちが会話する。
制服に着替える。本人たちの認識では「女子の制服」。実際には、男子と全く同じグレーのトップと黒いスカート。
プールの更衣室
市民プール。
「男性用」と「女性用」の更衣室がある。
男性用更衣室。何十体もの初音ミクが水着に着替えている。
「今日は泳ぎ込むぞ」
「俺も」
初音ミクの声で、男性たちが会話する。
服を脱ぐ。全員が全く同じ裸体。
そして、水着を着る。本人の認識では「男性用の競泳水着」。実際には、グレーのノースリーブトップと黒いスカート(これが水着として認識されている)。
プールサイドに出る。何十体もの初音ミクが、泳いでいる。
一方、女性用更衣室。
こちらも何十体もの初音ミクが水着に着替えている。
「新しい水着買ったの♪」
「可愛い〜!」
初音ミクの声で、女性たちが会話する。
服を脱ぐ。全員が全く同じ裸体。
そして、水着を着る。本人の認識では「女性用のワンピース水着」や「ビキニ」。実際には、全員が同じグレーのトップと黒いスカート。
プールサイドに出る。男性用更衣室から出てきた初音ミクたちと、全く区別がつかない。
プールでは、何百体もの初音ミクが泳いでいる。全員が全く同じ姿。
しかし本人たちには、それぞれ違う性別、違う水着に見えている。
この世界は、どこを見ても初音ミクだらけ。
男性も女性も、老人も子供も、すべて初音ミク。
しかし誰も気づかない。
男女別の施設に入っても、全く同じ姿の人々がいることに、誰も疑問を持たない。
彼らの目には、それぞれ違う姿が見えているから。
トイレ、更衣室、温泉、試着室。
どこでも、初音ミクが初音ミクを見ている。
でも彼らには、それぞれ違う人が見えている。
だから問題ない。
世界は、今日も平和だ。
初音ミクだらけの世界が。