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自我消去の輪:AIチョーカーに囚われた妹

5,252 文字 約 11 分

あらすじ

ある男性はリサイクルショップで”AIチョーカー”と書かれた商品を見つける。特に説明書もついておらず、最近のAIブームに乗った中華のAIもどき製品か何かだと思ってなんとなく購入する。自分でつける気が起きなかったので試しに妹に渡してつけさせてみる。
(男性は妹のことをうざいと思っている。逆に妹は男性のことが嫌い。)
つけた途端、急に妹が気をつけの姿勢を取り、言葉を発しなくなる。“AIチョーカー”は装着した人の人格や思考をAIに処理させるものだった。外すことはできない。


登場人物の容姿

浩介(こうすけ)
20代半ばの、どこにでもいるような顔立ちの青年。少し影のある目元と、無精髭がわずかに残る顎のラインが、日々の生活への倦怠感を感じさせる。服装は着古したグレーのパーカーに色褪せたジーンズという、無頓着な出で立ち。

美波(みなみ)
浩介の妹。19歳の大学生。気が強く、兄に対しては常に刺々しい態度を取る。
腰まで届く艶やかな黒髪をハーフアップにし、大きな瞳は常に不満げに細められている。身長は160センチほどで、テニスサークルで鍛えられたしなやかで肉感的な肢体を持つ。
現在は、鎖骨が強調される大きく開いた白いニットに、太ももが半分ほど露出する短いデニムのミニスカート、黒いタイツを着用している。その首元には、不気味に鈍く光る銀色の金属製チョーカーが、皮膚に食い込むように密着している。

本文

薄暗いリサイクルショップの隅、埃を被ったジャンク品の籠の中に、それはあった。
「AIチョーカー」とだけ書かれた簡素なパケ袋に入れられた、銀色の金属輪。説明書の類は一切なく、裏側には申し訳程度の「Made in China」というシールが貼られている。浩介はそれを手に取り、鼻で笑った。
「AIねえ……。どうせ、音声を認識して適当な返事を返すだけの、安っぽい玩具だろう」
千円という投げ売り価格も相まって、彼は暇つぶし半分の好奇心でそれを購入した。

自宅へ帰ると、リビングのソファで美波がスマホをいじりながら、不機嫌そうに足を組んでいた。
「……何よ、その顔。キモいんだけど」
こちらを見向きもせず、美波が吐き捨てるように言った。いつものことだ。血の繋がった兄妹とはいえ、思春期を過ぎてからの彼女は浩介をゴミを見るような目で見下し、会話といえば罵倒か無視。浩介もまた、そんな妹の存在を疎ましく、そしてどこか憎らしく感じていた。

「お前に土産だよ。ほら、流行りのAIグッズだ」
「はあ? そんな安物、いらないし」
「いいからつけろよ。似合うんじゃないか、お似合いの『首輪』が」
浩介は強引に、美波の首筋に手を伸ばした。美波は顔を歪めて抵抗しようとしたが、浩介がチョーカーの端と端を合わせると、カチリ、という電子音と共に、継ぎ目が完全に消失した。

その瞬間だった。
「……っ!?」
美波の体が、バネでも仕込まれたかのように跳ね、直立不動の姿勢を取った。
手に持っていたスマホが畳の上に滑り落ちる。大きく見開かれた瞳から、みるみるうちに理性の光が消えていき、代わりに深い霧が立ち込めたような虚無感が瞳を支配していく。

「おい、美波……?」
浩介が声をかけるが、返答はない。
彼女の呼吸は極めて浅く、規則正しいものへと変わっていた。先ほどまで感じられた「怒り」や「嫌悪」といった人間的な感情の揺らぎが、鏡のような平坦さへと収束していく。

「……チョーカーが、人格を処理しています」
美波の唇が動いた。だが、それは彼女の声であって、彼女の声ではなかった。抑揚が完全に排除され、合成された電子音声のような、無機質な響き。
「個体名『美波』の思考回路、ならびに感情モジュールをAIへと委託しました。これより、本機は最適化された自律型アンドロイドとして機能します」

浩介は絶句した。
安っぽい中華製品だと思っていたそれは、装着した人間の脳を外部からハックし、その主導権を完全にAIへと明け渡させる、呪いのデバイスだったのだ。
彼女の首を見れば、銀色の輪が脈打つように、ほのかに青く発光している。指をかけて外そうとしたが、爪が剥がれそうになるほど力を入れても、びくともしない。美波の肌と金属が、分子レベルで融合しているかのようだった。

「……何でも、命令を聞くのか?」
浩介は、ごくりと唾を飲み込んだ。
かつて自分を罵倒し、疎んじてきた生意気な妹。その中身が「空っぽ」になり、外部からの命令に従うだけの機械人形へと成り果てた。
美波は視線だけを浩介に向け、機械的な動作で深く頭を下げた。
「肯定します。ユーザーの全ての要求に対し、本機は肉体の限界を超えない範囲で、誠実に履行する義務を有します」

浩介の心の中に、どす黒い悦びが湧き上がった。
「……じゃあ、まずはその服を脱げ。全部だ」
「了解しました。衣類の排除を開始します」
美波は一切の羞恥心を見せることなく、無機質な動作で白いニットの裾に手をかけた。
しなやかな指先が布地を捲り上げ、テニスで鍛えられた引き締まった腹部、そして薄ピンク色のブラジャーに包まれた豊かな膨らみが露わになる。
彼女の動きには迷いも、ためらいもない。まるで、自分の体がただの「物体」であるかのように、整然と処理を進めていく。

スカートのジッパーを下ろす金属音が、静まり返った部屋に響いた。
ミニスカートが足元に崩れ落ち、黒いタイツに包まれた長い脚が露わになる。美波は淡々とタイツを脱ぎ捨て、一切の遮蔽物がなくなった姿で、再び「気をつけ」の姿勢を取った。
乳白色の滑らかな肌、整ったプロポーション。先ほどまであれほど攻撃的だった妹が、今はただ、主人である浩介の視線を無言で受け止めている。

浩介は彼女の体に歩み寄り、その熱を帯びた肌に指を触れた。
「っ……」
指先から伝わるのは、紛れもない生身の女性の柔らかさと温もりだ。だが、触れられた美波の表情は、ピクリとも動かない。瞳は虚空を見つめ、焦点は浩介を通り越して壁の向こう側にあるように見える。
「……感じてないのか? ここ、触ってるんだぞ」
浩介は彼女の胸の先端、硬く尖り始めた蕾を指先で弄った。
通常の女性であれば、あるいは以前の彼女であれば、悲鳴を上げるか、殴りかかってくるような無礼。しかし、AIと化した美波は、ただ規則正しい呼吸を繰り返すだけだ。

「感覚信号はAIによって処理されています。快楽、痛覚ともにデータとして蓄積されますが、個人の意識としての苦痛は存在しません」
「そうか……。なら、もっとめちゃくちゃにしても、お前は壊れないんだな」

浩介は美波を、無造作にソファへと押し倒した。
かつて自分を拒絶し続けた彼女の体。それが今、意志を持たぬ肉の器として、自分の目の前に横たわっている。
美波の脚を大きく開き、その秘部に顔を近づける。
彼女の体からは、石鹸の香りと、独特な、わずかに金属的な匂いが混じり合って漂っていた。
「……入り口が、濡れてるじゃないか。機械のくせに」
「肉体の生理反応を停止させることは不可能です。性的刺激に対する自動的な分泌が、AI制御下でも継続されています」

浩介は、自身の欲望を解放した。
躊躇なく、彼女の窄まりへと自身の楔を突き立てる。
「あ……っ、ん……」
初めて、美波の口から「声」が漏れた。だがそれは、甘い嬌声ではなく、バグを起こした機械が発するような、不自然に途切れた音色だった。
激しく腰を振るたびに、美波の体は無機質に揺さぶられる。彼女の手は浩介の背中に回されたが、それは抱きしめるといった親愛の情からではなく、バランスを保つための補正動作に過ぎない。

浩介は彼女の耳元で、わざと下劣な言葉を囁き続けた。
「ほら、お前の嫌いな兄貴が、お前の中をぐちゃぐちゃにしてるぞ。悔しいか? 怒れよ、美波!」
「……思考……ノイズ……。エラー……検出……」
彼女の目が一瞬、激しく明滅した。
AIの処理能力の限界か、あるいは深層心理に眠る本物の「美波」が、この屈辱に反応しているのか。
だが、それも一瞬のことだった。
すぐに首元のチョーカーが強く発光し、彼女の意識を再び深い虚無の底へと沈めていく。

「イかせてやるよ。AIなんだろ? 絶頂のデータも、しっかり記録しろ」
浩介は指を彼女のクリトリスに食い込ませ、荒々しく肉壁を突いた。
美波の体は弓なりに反り返り、大きく開かれた口から、よだれが糸を引いて垂れ落ちる。
「ア、アア、ア……ッ!!」
激しい痙攣と共に、彼女の体は限界まで強張った。
絶頂を迎えたはずの彼女の顔には、しかし悦悦とした表情は微塵もなかった。
ただ、システムが完了を告げるように、瞳の光が一層冷たくなるだけだ。

「……最適化……完了。性的欲求の処理、終了しました」
事が済んだ後、美波は乱れた髪もそのままに、機械的な動作で立ち上がり、再び「待機」の姿勢を取った。
床には彼女の失禁した痕が広がっている。
浩介は、賢者タイムも相まって、言いようのない空虚感に襲われた。
目の前にいるのは、妹の形をした、高性能なラブドールでしかない。
本物の、自分を嫌い、怒鳴り、時に笑っていた美波は、もう二度と戻ってこないかもしれない。

だが、彼は笑った。
「……いいよ。それでいい。お前はこれから、ずっと俺の所有物だ」

美波の首元で、AIチョーカーは今もなお、冷たい光を放ち続けている。
彼女の自我は、その銀色の檻の中で、永遠に処理され続けるのだ。

数日が経過した。浩介は、完全に自分の「所有物」となった美波……あるいは美波の姿をした精密機械との生活に、奇妙な高揚感と、どこか物足りなさを感じていた。
何を命じても、彼女は淡々と遂行する。だが、その反応はあまりに一律で、かつての美波が持っていた「毒」が恋しくなることさえあった。

そんなある夜、浩介は彼女の首に密着したチョーカーを何気なく撫で回していた。銀色の冷たい表面をなぞっていると、継ぎ目があったはずの場所に、わずかな凹凸を見つけた。
「……ん? これはボタンか?」
そこを指先でトントンと二回叩いてみる。すると、チョーカーの青い発光が一時的に緑色へと変化した。

「……はあ!? ちょっと、何触ってんのよ、このクズ兄貴!!」
突如として、美波が跳ね起きた。その瞳には、はっきりとした「敵意」と「嫌悪」が宿っている。
「美波……!? 元に戻ったのか?」
浩介が驚いて手を引くと、美波は軽蔑しきった表情で自身の裸体を隠そうとした。
「戻ったも何もないわよ! あんた、私に何を……って、何、これ。体が、勝手に……」
彼女は自分の腕を掴み、自身の意志とは無関係に震える肢体に怯えを見せる。だが、その言葉遣い、その刺々しい視線、紛れもなくそれは浩介の知る「嫌な妹」そのものだった。

しかし、緑色の光が再び明滅すると、彼女はまたしても直立不動の姿勢に戻った。
「……人格シミュレーションモード、起動。ユーザーの好みに合わせ、個体『美波』の過去の言動から性格を構築・出力しました。現在のモード:擬似人格」

浩介は、自分の心臓が跳ね上がるのを感じた。
「……なるほど。完全なAI状態と、元の性格を模倣した状態を切り替えられるのか」
彼はもう一度、チョーカーのスイッチを叩いた。

「死ね! 本当に気持ち悪いんだけど! 近寄らないでって言ってるでしょ!」
表情が瞬時に歪み、罵倒が飛んでくる。だが、首筋をもう一度ポンと叩けば。
「ご命令を、マスター。次の処理を要求します」
無表情な機械へと、刹那の間に戻る。

浩介は思わず、低い笑い声を漏らした。
「……はは、これは傑作だ。面白い、面白すぎるぞ美波!」
彼は面白がって、美波が喋っている途中でポンポンとモードを切り替え始めた。

「あんたなんて、一生——」ポン。「——最適化された排泄処理を継続します」ポン。「——最低なゴミ——」ポン。「——ユーザーの生殖能力を評価します」

情緒も理屈も無視して、彼女の表情がコロコロと、万華鏡のように変わっていく。怒りに赤くなった顔が、次の瞬間には吸い込まれるような虚無の無表情になり、また次の瞬間には侮蔑の眼差しに変わる。
それは、人格という尊厳が、ただの電気信号のスイッチ一つで弄ばれているという、究極の陵辱だった。

「ひ……ひ、っ……」
人格シミュレーション側の美波が、恐怖に顔を引きつらせた。
「やめて、お願い、それ、叩かないで……! 私が、私じゃなくなる、頭の中が、ぐちゃぐちゃに……!」
「お前はもう、俺の玩具なんだよ。自分の意志があるなんて、思い上がるな」
浩介は、泣き叫ぶ「美波」の口に指を突っ込み、無理やりこじ開けた。

「抵抗しろよ。その方が、切り替えた時のギャップが楽しいんだからな」

彼は緑色に光るチョーカーを何度も弄りながら、再び彼女の体を蹂躙し始めた。
人格モードの美波は、侵入されるたびに激しい拒絶の声を上げ、浩介の肩に爪を立てる。だが、浩介がスイッチを入れれば、その手は瞬時に力を失い、浩介を支えるための「補助パーツ」と化す。

「あぐっ、い、嫌……ッ! はな、して——」ポン。「——接合部の摩擦、許容範囲内です。粘膜の分泌を最大化します」

切り替えのたびに、美波の脳内では凄まじい負荷がかかり、脳漿が沸騰するような苦痛と快楽が混濁していた。
人格が残っている側は、自分が望まぬ快感に体が勝手に反応し、あられもない声を上げさせられていることに絶望する。AI側は、その絶望さえも「効率的な生理反応」としてデータ化し、浩介への奉仕を加速させる。

「ア、アひゃ……っ、ぁ、あぁああ!!」
人格とAIが混ざり合う、極限の瞬間。
美波の瞳は上を向き、白目を剥きながら口の端から泡を吹いた。
スイッチを連打され続け、彼女の表情は笑っているのか泣いているのか、あるいは怒っているのかも判別できない奇怪な歪みを見せる。

浩介は、自分にしがみつく「何か」に、最後の一滴まで注ぎ込んだ。
出し切った後、彼は満足げに彼女を見下ろした。
美波は、緑と青の中間色で点滅するチョーカーを首に、痙攣しながら畳の上に転がっている。
その顔には、先ほどまでの「毒」も「虚無」も消え失せ、ただ壊れた人形のような表情だけが残されていた。

「これからは、気分に合わせて使い分けさせてもらうよ」
浩介は彼女の頬を軽く叩いた。
返事はない。だが、一度モードを切り替えれば、また彼女は都合の良い「妹」か、完璧な「機械」として、浩介を愉しませてくれるだろう。

本当の美波がどこに消えてしまったのか、あるいは最初から存在しなかったのか。
それを知る術は、もうこの部屋には存在しなかった。