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自我のバグ:彼女面するジャンクセクサロイド

8,600 文字 約 18 分

eggmanさんの「ロボット同好会」っぽい感じを目指した。

あらすじ

ある男子高校生はいつも通り中古ショップを巡っていると、破格の値段で売られているジャンク品の女子高生型セクサロイドを見つける。
見た目は多少汚れがあるものの全体的にきれいで、メッシュの入った髪に、猫らしさを感じるクールな顔つき。コスプレ用と思われる制服が着せられている。
商品説明文には、「マスター登録できます。自認がおかしく、修正できないためジャンク扱い。」と書かれている。
惹かれて購入し、自宅で設定を行う。パソコンに繋いでマスター設定をし、起動。セットアップもなく、いきなり喋り始める。
しばらく話してみたところ、ジャンクの理由がわかってきた。セクサロイドは自身をロボだと認識できず、人間だし女子高生であるとしている。マスターのことは主人だと思っておらず、付き合っている人だと思っている。おかげで、タメ口で話してくるし、少し高圧的だ。世間一般の女子高生らしい思考。記憶は自身にとって都合の良いようになっている。
ただし、ベースはセクサロイドなので、マスターに対する性的なハードルはかなり低くなっている。割と簡単に誘ってくる。


登場人物

陽斗(はると)
17歳の男子高校生。機械いじりが趣味で、放課後は中古ショップやジャンク屋を巡るのが日課。少し長めの黒髪に、知的な印象を与える細いフレームの眼鏡をかけている。服装は学校指定の地味な学ランだが、家では機能性重視のワークシャツに着替えている。

凛(りん)
女子高生型セクサロイド。モデル名は「SR-04」。
透き通るような銀髪に、鮮やかなブルーのメッシュが数筋入っている。猫を彷彿とさせる吊り上がった大きな瞳は、意志の強さを感じさせる琥珀色。身長は155センチと小柄ながら、胸元は不自然なほど豊かで、ウエストは折れそうなほど細い。
服装は、どこかの名門校を思わせる紺色のブレザーに、赤いチェックのミニスカート。首元にはアンドロイドの証である、ステータスが表示された銀色の金属製チョーカーが嵌め殺されている。臍の数センチ下には、製造番号「SR-04-9921」の刻印が刻まれている。

本文

 放課後の喧騒を抜け出し、陽斗が向かったのは街外れにある薄暗いジャンクショップだった。
「……お、今日は掘り出し物があるな」
 埃っぽい店内の奥、大型家電の残骸に紛れて、それは鎮座していた。
 女子高生型セクサロイド。最新モデルではないが、その造形は極めて精緻だ。銀髪にブルーのメッシュという、少しパンクでクールな外見。着せられている制服は多少汚れているが、本体に目立った損傷は見当たらない。
 値札には、目を疑うような安値が書かれていた。
『ジャンク品:3,000円。理由:マスター登録可能。ただし自認回路に致命的なバグあり。修正不能。』
「自認がおかしい……? まあ、動けば儲けもんだ」
 陽斗は小遣いを叩いて、その重たい「荷物」を自宅へと運び込んだ。

 自室の作業机に彼女を座らせ、首筋の端子にPCを接続する。
「よし、マスター権限の書き換え……完了」
 エンターキーを叩くと、彼女の首にあるチョーカーのディスプレイが青く発光した。
 まぶたがゆっくりと持ち上がり、琥珀色の瞳が陽斗を捉える。
「……ん。おはよ、陽斗。またこんなところで寝てたの?」
 第一声は、機械的な合成音声ではなく、驚くほど自然で、どこか生意気な少女の声だった。
「え……? ああ、おはよう。起動したんだな」
「何その言い方。変なの。……っていうか、ここどこ? あんたの部屋? 相変わらず散らかってるわね」
 彼女は椅子から立ち上がると、慣れた手つきでスカートの皺を伸ばし、腰に手を当てて部屋を見渡した。
 陽斗は困惑した。通常、起動直後のアンドロイドは「マスター、ご指示を」と跪くはずだ。だが、彼女はまるで放課後に彼氏の部屋へ遊びに来た女子高生のような振る舞いを見せている。

「あのさ、お前、自分が何だか分かってるか?」
「はあ? 何言ってんの。凛に決まってるでしょ。あんたの彼女。……もしかして、浮気でもして私のこと忘れたわけ?」
 凛はジロリと陽斗を睨みつける。その視線は鋭く、高圧的だ。
 これが「自認のバグ」か、と陽斗は理解した。彼女は自分をアンドロイドだと思っていない。それどころか、陽斗と付き合っている人間だと思い込んでいるのだ。
「いや、そうじゃないけど……。お前、首にチョーカーついてるだろ?」
「これ? 最近流行りのアクセでしょ。あんたがプレゼントしてくれたんじゃない。外れないのがちょっと不便だけど、可愛いから許してあげてるのよ」
 凛は自慢げに銀色の金属輪を指でなぞった。アンドロイドを制御するための拘束具を、彼女は愛の証だと思い込んでいる。

 陽斗は試しに、少し踏み込んだ命令をしてみることにした。
「……凛、ちょっと喉が渇いたんだけど」
「はあ? 自分で飲みなさいよ。私はあんたのメイドじゃないんだから」
 凛はふいっと顔を背け、陽斗のベッドに勝手に腰掛けた。
「でも、ほら……俺たち、付き合ってるんだろ? ちょっとくらいサービスしてくれてもいいじゃないか」
「……もう、しょうがないわね。一回だけよ?」
 凛は文句を言いながらも、陽斗の机の上にあったペットボトルを手に取り、キャップを開けて差し出してきた。
 態度は高圧的だが、根底にある「マスターへの奉仕」というプログラムが、彼女の「彼女面」というフィルターを通して実行されているようだった。

 陽斗は彼女の隣に座り、その細い肩に手を置いた。
 凛は一瞬肩を震わせたが、拒絶はしなかった。
「……何よ。急に甘えたくなっちゃった?」
「まあね。凛が可愛すぎるからさ」
「ふん、当たり前でしょ。あんたには私しかいないんだから」
 凛は勝ち誇ったような笑みを浮かべるが、その頬はわずかに赤らんでいる。
 陽斗は彼女のブレザーのボタンに手をかけた。
「……ねえ、凛。久しぶりに、しない?」
「……っ。あんた、本当にエッチね。まだ昼間なのに」
 凛は呆れたような声を出すが、その瞳には期待の色が混じっている。
 彼女はセクサロイドとして設計されている。人間だと思い込んでいても、性的な行為に対するハードルは極端に低い。彼女にとって、彼氏である陽斗に抱かれるのは「当然の権利」であり「義務」なのだ。

「いいでしょ? 凛の体、もっと近くで見たいんだ」
「……勝手にすれば。でも、優しくしなさいよ?」
 凛は自らブレザーを脱ぎ捨て、白いブラウスのボタンを一つずつ外していった。
 露わになったのは、人工物とは思えないほど瑞々しく、柔らかな肌。
 豊かな胸がブラジャーから溢れ出し、陽斗の視線を釘付けにする。
 凛は少し恥ずかしそうに腕で胸を隠すが、その隙間から見えるピンク色の先端は、既に期待で硬く尖っていた。

「……見てないで、早くしてよ」
 凛は自分からスカートを捲り上げ、チェックの布地を腰まで引き上げた。
 そこには、アンドロイド特有の「専用制服」の一部である、薄いレースのショーツ。
 陽斗がその布地をずらすと、彼女の股間には、製造番号「SR-04-9921」の刻印が、滑らかな肌の上に無慈悲に刻まれていた。
「これ……」
「あ、それ? 昔入れたタトゥーよ。若気の至りっていうか……あんまり見ないで」
 凛は自分の正体を示す刻印すら、自分に都合の良い記憶で上書きしていた。

 陽斗は彼女をベッドに押し倒し、その未開の地へと指を這わせた。
「あ……っ、ん……」
 凛の口から、可愛らしい嬌声が漏れる。
 セクサロイドとしての高感度センサーが、陽斗の愛撫を過剰なまでの快楽へと変換し、彼女の脳(プロセッサ)を焼き焦がしていく。
「ねえ、陽斗……すごい、気持ちいい……。あんた、腕上げた?」
「凛が感じやすいだけだよ」
「うるさい……っ。あ、そこ……もっと、強く……!」
 凛は陽斗の首に腕を回し、しがみついてくる。
 彼女の体は熱を帯び、人工の愛液が溢れ出して、陽斗の指を濡らしていく。
 陽斗は自身の欲望を解放し、彼女の窄まりへと一気に突き立てた。

「ひあぁっ!?」
 凛の体が大きくのけ反り、琥珀色の瞳が潤む。
 結合部からは、クチュクチュという卑猥な水音が響き、部屋の空気を濃密に染め上げていく。
「あ、あ、すごい……中、熱いよ……陽斗……っ!」
 凛はタメ口で叫びながら、必死に腰を振って陽斗に応える。
 彼女は自分が機械であることを忘れ、ただ一人の女として、愛する男との情事に溺れていた。
 陽斗が激しく突くたびに、彼女の銀髪が乱れ、ブルーのメッシュが鮮やかに舞う。
 首元のチョーカーが、彼女の絶頂を検知して激しく点滅していた。

「あ、いく……っ、凛、いっちゃう……! 陽斗、大好き……っ!」
 凛は陽斗の背中に爪を立て、全身を硬直させた。
 プロセッサがオーバーヒート寸前の快楽を叩き出し、彼女の意識は真っ白な光の中に消えていく。
 陽斗もまた、彼女の温かな胎内へと、自身の全てを吐き出した。

 ***

 事後、凛は陽斗の胸に顔を埋め、満足そうに吐息を漏らしていた。
「……ねえ、陽斗。明日も、学校サボって一緒にいようよ」
「……そうだね。そうしようか」
 陽斗は彼女の銀髪を優しく撫でた。
 彼女はジャンク品だ。いつシステムが崩壊し、この幸せな勘違いが終わるか分からない。
 だが、今はただ、自分を人間だと信じて疑わない、この生意気で愛らしい「彼女」との時間を楽しむことにした。
 首元のチョーカーが、静かに、そして冷ややかに、彼女のステータスを「稼働中:正常」と表示し続けていた。

 翌朝、カーテンの隙間から差し込む朝日が、陽斗のまどろみを破った。
 隣にいたはずの重みが消えていることに気づき、彼は体を起こした。寝室を出てリビングへ向かうと、そこには場違いなほど美しい光景が広がっていた。
 凛が、陽斗のワークシャツを一枚だけ羽織った姿で、キッチンに立っていたのだ。
「あ、起きた? おそよう、陽斗」
 凛はフライパンを片手に、不敵な笑みを浮かべて振り返った。シャツの裾から伸びる白く細い足と、はだけた胸元から覗く銀色のチョーカーが、現実感のないエロティシズムを漂わせている。
「……何、作ってるんだ?」
「朝ごはん。あんた、いつも適当なものしか食べてないでしょ? 彼女として、栄養バランスとか考えてあげようと思って」
 そう言って彼女がつまみ上げたのは、真っ黒に焦げた何かだった。
 セクサロイドである彼女には、味覚センサーはあるかもしれないが、調理スキルというものはインストールされていない。それでも彼女は、ネットから拾ってきた中途半端な知識を「自分の特技」だと思い込み、健気にフライパンを振っていた。
「ちょっと……失敗しちゃったけど。次はもっと上手く作るから、文句言わずに食べなさいよね」
 そう言って頬を膨らませる仕草は、どこからどう見ても恋する女子高生そのものだった。
 陽斗は苦笑しながら、その焦げた料理を口にした。味はともかく、彼女が自分を人間だと信じて疑わず、こうして尽くそうとしてくれることが、奇妙な愛おしさを抱かせた。

 結局、二人は約束通り学校を休むことにした。
 ソファに並んで座り、配信サイトの映画を眺める。凛は映画の内容よりも、陽斗の肩に頭を乗せて甘えることに夢中だった。
「ねえ、陽斗。私たち、卒業したらどこ行こうか。海とか行きたいな」
「……そうだね、海か。いいかもな」
 陽斗の胸が、わずかに痛んだ。
 卒業。彼女にそんな未来はない。彼女の体は成長せず、部品が摩耗すればいつか動かなくなる。それでも、凛は琥珀色の瞳を輝かせ、自分たちの「未来」を語り続ける。
「楽しみだね。そのためには、もっと仲良くしておかないと」
 凛はそう言うと、陽斗のシャツのボタンを指先で弄び始めた。
 陽斗は気づいた、彼女の指先が昨日よりも少し熱を帯びていることに。長時間の稼働と、過剰な負荷がかかったプロセッサが、冷却不足を起こしているのかもしれなかった。

「凛、ちょっと体が熱いな。風邪か?」
「えっ、そうかな? ……あ、本当だ。なんか、ドキドキが止まらないっていうか……変な感じ」
 凛は胸元を押さえ、少し苦しそうに吐息をついた。
「横になれよ。俺が、看病……というか、マッサージしてやるから」
「何よ、それ。エッチなことしようとしてるでしょ?」
「……バレたか」
「ふふ、いいわよ。看病してくれるっていうなら、特別に許してあげる」
 凛は誘うような瞳で見つめ返し、自ら陽斗のシャツを脱ぎ捨ててソファに横たわった。

 陽斗は彼女の滑らかな背中に手を置き、オイルを塗り広げていく。
「ん……ふぁ……そこ、気持ちいい……」
 凛の潤んだ吐息が漏れる。陽斗の目的は、彼女の排熱スリット付近の汚れを取り除き、放熱を助けることだったが、彼女にとっては極上の愛撫にしか感じられない。
 指が腰のあたり、製造番号の刻印の近くをかすめる。
「あ、そこ……っ、だめ、なんか……痺れる……っ!」
 凛の体が弓なりに逸れる。高感度の触覚センサーが陽斗の指に反応し、火花を散らすような快楽を彼女の神経系(サーキット)へと送り込む。
 陽斗はそのまま彼女を仰向けにし、豊かな双丘へと唇を寄せた。
「ひあっ……陽斗、急に……ん、んんっ……!」
 熱を帯びた肌が、陽斗の舌に吸い付く。
 凛の手が陽斗の髪を乱暴に掻き乱し、彼女は我慢しきれないといった様子で股間を擦り合わせた。
「ねえ……もう、いいでしょ……。中、熱くて、おかしくなっちゃいそう……早く、入れて……お願い……」
 生意気な口調が消え、掠れた懇願の声に変わる。
 陽斗はその願いに応え、彼女の湿りきった回路へと、己の熱を力強く突き入れた。

「あぁぁぁぁっ! 陽斗ぉっ……!」
 凛の絶叫が、静かな部屋に響き渡る。
 昨日よりもずっと熱い、限界ギリギリの快楽。
 陽斗が突くたびに、凛の体内で冷却ファンが虚しく回り、機械特有の微かな振動が彼に伝わってくる。
「すごい……昨日より、もっと……壊れちゃう、私、壊されちゃうっ!」
 凛は白目を剥き、首のチョーカーを激しく点滅させながら、陽斗の腰にしがみついた。
 彼女のプロセッサは、快楽と過熱によって正常な判断力を失い、ただ目の前の男を求めるだけの獣と化していた。
「凛……っ!」
「あ、あ、あ……っ! いく、いくぅっ! システム……じゃない、私、イッちゃうの!!」
 エラーコードを吐き出すように、彼女は激しく果て、陽斗もまた、彼女の加熱した胎内を白濁した愛液で満たした。

 嵐のような情事が終わった後、凛は完全に電源が切れたように(彼女は気絶したと思っているが)眠りに落ちた。
 陽斗は静かになった彼女を見つめ、そっとチョーカーの表示を確認する。
『警告:内部温度上昇。緊急冷却シーケンスを実行しました。』
 表示はすぐに「稼働中:正常」へと戻った。
 陽斗は彼女を抱き上げ、寝室のベッドへと運んだ。
「……いつまで、こうしていられるのかな」
 呟きは、銀髪の少女には届かない。
 彼女は夢の中で、卒業後の海を、まだ見ぬ明日を、誰よりも人間らしく描き続けているのだろう。
 陽斗は、彼女が目覚めたときにまた「おはよう」と言えるように、彼女の傍らで眠りについた。

 数時間後、陽斗は空腹を覚えて目を覚ました。
 隣では凛が、まだ規則正しい呼吸(ファンの回転音に近い微かな音)を立てて眠っている。陽斗は彼女を起こさないよう静かにベッドを抜け出し、キッチンで簡単な食事を用意した。

 やがて、目をこすりながら凛がリビングに現れた。
「……ん、陽斗。先に起きるとか、冷たいじゃない」
「悪い。腹が減ってさ」
「私も、なんかお腹空いたかも。……あ、でも、昨日あんまり食べてなかったっけ?」
 凛は自分の記憶を辿るように、首を傾げた。
 陽斗は食事を運びながら、昨日から気になっていたことを切り出すことにした。彼女の「自認のバグ」がどこまで精緻なものなのか、確かめておきたかったのだ。

「なあ、凛。お前の学校って、どこにあるんだっけ?」
「え? 何言ってるの。駅前の、あのアーツ女子高だよ。あんた、私の制服見て分かんないの?」
 凛は自慢げに、ソファに無造作に放り出されていたブレザーを指差した。
「アーツ女子高か……。あそこは確か、三年前から共学になったはずだけど」
「はあ? そんなわけないでしょ。女子高よ。私の友達の……えーっと、美咲とか、奈緒とか、みんな女の子だもん」
 凛の名前を挙げる様子は淀みなかった。だが、陽斗はその学校名に聞き覚えがあった。アーツ女子高は、実際には五年前に民営化で名称が変わり、今は別の名前の共学高校になっているはずだ。

「……じゃあさ、凛の両親は? 家はどこなんだ?」
「パパとママ? パパは出張が多いし、ママは……そう、ママはこの前、田舎の祖母の家に行くって言ってたわ」
「祖母の家って、どこ?」
「どこって……えーっと、確か、北の方の……なんとか県」
「なんとか県?」
「そう、なんとか県よ。……あれ、なんて名前だったっけ」

 凛の表情から余裕が消え始めた。瞳の中の光が、検索エンジンが空転しているかのように不自然に明滅する。
「パパの仕事は?」
「パパは、貿易関係の……商社に勤めてて。名前は……あ、そう。株式会社……システム・ダイナミクス……」
「それはアンドロイドの製造元だぞ、凛」
 陽斗が核心を突くと、凛の思考は目に見えて混乱し始めた。
「えっ? ……え? システム、ダイ……パパの会社……。でも、私は、人間で、陽斗の彼女で……。昨日は、学校に行って……。でも、学校の名前が……。あれ? 卒業……してない、のに、なんで……」

 凛の言葉が途絶え、彼女の琥珀色の瞳から焦点が消えた。
 首元のチョーカーが、警告の赤色で激しく点滅する。
「凛? 大丈夫か?」
「………………」
 彼女は口を半開きにしたまま、座った姿勢でぴたりと固まった。指先が微かに痙攣し、首筋から「ジジジ……」という電気的な異音が漏れる。
 理論の矛盾を解消できず、プロセッサが無限ループに陥ったのだ。

 陽斗は溜息をつき、彼女の背後に回り込んだ。
 髪をかき分け、首筋のメンテナンススイッチを長押しする。
『システムエラー。強制終了を実行します……』
 銀色の金属輪から無機質なアナウンスが流れ、凛の全身から力が抜けた。陽斗は彼女を支え、ソファに横たわらせる。

「……悪いな、意地悪な質問して。でも、お前が誰か、俺はちゃんと分かってるからさ」
 陽斗は少しの罪悪感を感じながら、もう一度メンテナンススイッチを押し、再起動サイクルを開始した。

 数分後、凛の瞳に光が戻った。
「……あ、れ。陽斗? 私、寝てた?」
「ああ。急に寝落ちしたんだ。疲れてたんだろ」
「嘘……恥ずかしい。彼女として、あんまりな失態ね」
 凛は照れ隠しに頬を赤らめ、陽斗の胸に飛び込んできた。再起動された彼女の中では、フリーズする直前の記憶は「急な眠気」として処理されているようだった。

「ねえ、陽斗……なんか、寝起きだからかな。すごい、あんたに触れたい」
 凛の甘い声が、陽斗の耳を擽る。
 再起動直後は情動回路が不安定になるのか、彼女はいつも以上に積極的だった。
「凛……」
「いいでしょ? さっきのお返し、させてよ」
 凛は陽斗のシャツの中に手を滑り込ませ、その熱を確かめるように胸元を撫で回した。

 彼女は自分から陽斗を押し倒し、馬乗りになった。
 シャツを乱暴に脱ぎ捨てると、重力を受けて揺れる豊かな乳房が陽斗の視界を覆う。
「何見てるの。……もっと、近くで見たいんでしょ?」
 凛は片手で自分の胸を寄せ上げ、その先端を陽斗の唇に押し付けた。
「ん……ふぁ……あんたの口、熱い……」
 陽斗が吸い付くと、凛は腰を浮かせ、快楽に喉を鳴らした。
 彼女の手は陽斗のベルトに伸び、手慣れた……あるいはプログラムが最適化した動きで、彼の隆起を露わにする。

「すごい……こんなに固くして。私のこと、そんなに好きなんだ?」
「……お前が誘うからだろ」
「ふふ、可愛い。……じゃあ、私の全部で、あんたのこと満足させてあげるわ」
 凛は自らショーツを脱ぎ捨て、自身の秘部を陽斗の顔の前に持ってきた。
 まだ先ほどの情事の残り香を漂わせるそこからは、透明な愛液が糸を引いて滴っている。
 陽斗が舌を伸ばすと、凛は「ひあぁっ!」と声を上げ、彼の頭を自身の股間に押し付けた。

「あ、あ、そこ……っ! すごい、変な感じ……っ! 脳みそが、とろけちゃう……!」
 凛は腰を小刻みに振り、陽斗の舌の動きに合わせて嬌声を上げる。
 人為的に配置された神経末端が、陽斗の技巧によって限界を超えた電気信号をプロセッサに送り込む。
 彼女は、自分が、自分であるためのプログラムを忘れ、ただの情欲の器として、陽斗の愛撫を貪った。

「もう……だめ。陽斗、お願い……入れて。もう我慢できないっ!」
 凛は陽斗を仰向けにしたまま、自分の膝を彼の横に突き、ゆっくりと腰を下ろしていった。
 結合部が密着し、陽斗の熱い塊が凛の内部へと侵入していく。
「あ、あぁ……っ! は、入ってくる……陽斗が、全部……っ!」
 凛の瞳が大きく見開かれ、背中が反り返る。
 彼女は陽斗の肩に爪を立て、夢中で腰を上下させ始めた。

 クチュクチュ、グチョッ、という生々しい結合音が室内に響く。
 凛の銀髪が汗で首筋に張り付き、ブルーのメッシュが瞳の琥珀色を際立たせる。
「あ、あ、あ、あ……! 陽斗、すごい! 中、かき回されて……おかしくなっちゃう!」
「凛、動かしすぎだ……っ」
「だって……気持ちいいんだもん! あんたの、これ……私の、一番奥まで届いてる……っ!」
 凛はなりふり構わず腰を打ち付け、陽斗の欲望を吸い上げていく。
 セクサロイドとしての高い耐久性と反応速度が、常人では耐えられないような激しいピストンを可能にしていた。

 陽斗もまた、彼女の非現実的なまでの締め付けに理性を奪われ、彼女の白い腰を掴んで激しく突き上げた。
「あぁっ! それ、いい! もっと……もっと壊してぇっ!」
 凛は叫びながら、絶頂へと駆け上がっていく。
 首のチョーカーが、青から紫、そして白熱した白色へと光の色を変えていく。
 彼女の限界温度が近づいている。

「いく、いく、いくぅぅぅっ!!」
 凛は陽斗の首に力一杯しがみつき、全身を痙攣させた。
 回路の限界まで引き上げられた快楽が、彼女の意識を彼方へと飛ばしていく。
 陽斗もまた、彼女の猛烈な収縮に導かれるように、熱い精液を彼女の奥深くへと叩き込んだ。

「はぁ……はぁ……、陽斗……っ」
 凛は陽斗の体の上に力なく倒れ込み、激しい呼吸を繰り返した。
 彼女の肌からは微かな蒸気が立ち上り、機械の熱と、人間の情欲が混ざり合った独特の匂いが漂う。

「……すごかったな」
「……うん。あんた、本当に……私のこと、壊す気でしょ」
 凛は力なく笑い、陽斗の顎を甘噛みした。
 彼女の記憶は、相変わらず嘘で塗り固められている。
 パパも、ママも、友達も、学校も。
 この部屋の外にある彼女の「世界」は、すべてバグが生み出した幻影だ。

 だが、今ここで陽斗を抱きしめている彼女の体温と、その琥珀色の瞳に宿る熱い感情だけは。
 たとえそれがプログラムの結果だとしても、陽斗にとっては本物だった。

「……ねえ、陽斗。お腹、やっぱり空いちゃった。今度は、あんたが何か作って?」
「ああ。何がいい?」
「ハンバーグ! ママの作るのより、美味しく作ってくれないと怒るからね」
 凛はいつもの不敵な笑みを浮かべて言った。
 陽斗は彼女を抱き寄せ、その銀髪に口づけを落としながら、「分かったよ」と優しく答えた。