蜜を滴らせる人喰い花
あらすじ
閉鎖した植物園に訪れた女子。助けを求める声がしたのでその方向に向かうと、こちらに向かって歩いてくる女子がいた。話を聞こうとするが、喋っている内容が支離滅裂でよくわからない。
実はその女子は疑似餌で、よく見ると腰のあたりから太い根が伸びている。その植物は誘き寄せた生物に根を張り寄生して、疑似餌にして別の生物を呼び込むもの。いらなくなった疑似餌は養分を抜き取り放棄される。
呼び込まれた女子の後ろに植物の根が迫る。
登場人物の容姿
主人公(佐伯 玲奈 - さえき れな)
好奇心旺盛な女子大生。廃墟探索が趣味。
肩までの栗色のボブヘア。動きやすいスポーツウェアに、リュックを背負っている。健康的な太ももと、少し汗ばんだ白い肌。
謎の少女(疑似餌)
長い黒髪が乱れたまま背中にかかっている、儚げな美少女。
古びたセーラー服を着ているが、所々が破れ、土で汚れている。瞳は焦点が合っておらず、口元からは常に涎が垂れている。一見すると普通の人間だが、肌は不自然なほど白く、血管の代わりに緑色の何かが脈打っているのが透けて見える。
前日譚
「サボっちゃった……」
高坂美咲は、深く溜息をついた。
進学校の息苦しさと、親からのプレッシャーに耐えきれなくなり、衝動的に電車に乗って誰も知らない場所まで来てしまったのだ。
辿り着いたのは、山奥の廃墟となった植物園。
「ここなら、誰も来ないよね」
錆びついたゲートをすり抜け、美咲は敷地内へと足を踏み入れた。
ガラスの割れた巨大なドーム状の温室。
中に入ると、ムッとした熱気と、噎せ返るような甘い香りに包まれた。
「すごい匂い……何の植物だろう?」
好奇心に引かれるまま、美咲は奥へと進む。
鬱蒼と茂る緑のジャングル。その中心に、異様な存在感を放つ巨大な赤い花が鎮座していた。
見たこともない、禍々しくも美しい花。
美咲はその花に魅入られたように近づいていく。
「きれい……」
花弁に手を伸ばそうとした、その時だった。
シュルッ、と風を切る音と共に、美咲の手首に緑色の蔓が巻き付いた。
「えっ!?」
驚く間もなく、腰、足首、太ももと、次々に蔓が絡みついてくる。
「いやっ、なにこれ!? 離してっ!」
必死に藻掻くが、植物の力は強大で、美咲の華奢な体は簡単に宙に吊り上げられた。
制服のスカートが捲れ上がり、白い下着が露わになる。
「やだ、やだぁっ! 助けてっ!」
美咲の眼前で、巨大な花の中心が蠢き、中から先端が赤黒く変色した太い根が鎌首をもたげた。
その先端からは、透明な粘液がポタポタと滴り落ちている。
「ひっ……まさか、いや……」
美咲の股間が、恐怖とは裏腹に微かに潤み始める。
植物が出す甘い香りには、強力な催淫効果が含まれていたのだ。
根はゆっくりと、しかし確実に美咲の秘所へと狙いを定めた。
下着の布地を無理やり押し退け、湿った先端が秘裂に触れる。
「ひハッ!? あ、熱いっ!」
次の瞬間、根が一気に美咲の中へと侵入した。
「ぎぃぃぃぃぃッ!! 裂けるぅッ! 大きいぃぃッ!!」
処女の狭い入り口を、無慈悲な植物の肉が蹂躙していく。
激痛に美咲の体は弓なりに反り、白目を剥いて絶叫する。
だが、植物は止まらない。子宮口を強引にこじ開け、最も深い場所へと種を植え付けにいく。
「あ、が……お腹、いっぱいに……なるぅ……!」
子宮の奥底まで根が到達した瞬間、根の表面から無数の棘が飛び出し、内壁に食い込んだ。
「ガハッ!?」
それは逃走を防ぐ楔であり、美咲の神経と植物を接続するコネクターでもあった。
ドクン、ドクン、と根が脈打ち、美咲の体内に植物の体液が注入される。
「あ、あぁ……なんか、気持ちいい……かも……」
痛みは急速に引いていき、代わりに脳を焼き尽くすような快楽が押し寄せてきた。
植物の神経毒が、美咲の理性を溶かしていく。
「もっと……もっとちょうだい……ごはん……」
美咲の瞳からハイライトが消えていく。
彼女の手は無意識に自分の乳房を揉みしだき、腰を振って根をさらに奥へと誘っていた。
植物の意志が美咲の脳を完全に支配する。
人間としての「高坂美咲」は死に、植物に養分を運び、新たな獲物を誘き寄せるための「人形」が誕生した。
「ごはん……つれてくるね……」
美咲は虚ろな瞳で呟くと、ふらつく足取りで温室の入り口へと向かう。
そのスカートの下では、太い根が彼女の内臓と完全に一体化し、妖しく脈動していた。
本文
湿った空気が、肌にまとわりつく。
山の麓にひっそりと佇むその植物園は、十年以上前に閉鎖されたという。ガラス張りのドームは所々ひび割れ、内部からは制御を失った熱帯植物たちが、我先にと日の光を求めて溢れ出していた。
佐伯玲奈は、額に滲む汗を手の甲で拭った。
廃墟マニアの間で「地図から消された庭」と呼ばれるこの場所は、特有の静けさと背徳的な美しさを湛えている。朽ちた鉄骨と、それを飲み込む生命力溢れる蔦のコントラスト。カメラのシャッターを切る指が止まらない。
「……う、あ……」
不意に、人の声が聞こえた気がした。
風の音か、あるいは鳥の鳴き声か。玲奈は足を止め、耳を澄ませる。
「……だれ……か……」
間違いなく、人の声だ。それも若い女性のような、弱々しい声。
誰かが迷い込んで怪我でもしたのだろうか。玲奈の好奇心は、瞬時に心配と焦燥へと変わった。
「大丈夫ですか!?」
声を張り上げながら、声のした方角――メインの巨大温室の奥へと駆け出した。
鬱蒼と茂るシダ植物を掻き分け、湿度の高い温室の中を進む。熱帯特有の甘ったるい、どこか腐臭の混じった匂いが鼻をつく。
開けた場所に出ると、そこに一人の少女が立っていた。
泥で汚れたセーラー服。ボロボロのスカートから覗く足は傷だらけだ。彼女は、ゆらりと頼りない足取りで、玲奈の方へと歩み寄ってくる。
「あの、大丈夫? 怪我は……」
玲奈が駆け寄ろうとしたその時、少女が顔を上げた。
ぞくり、と背筋に冷たいものが走る。
少女の瞳は完全に濁りきっていた。焦点が合っていない。まるでガラス玉のように虚ろな瞳が、玲奈の方を向いているようで、何も見ていない。
「お花が……咲くの……きれい……あかい……」
少女はうわ言のように呟く。
「え? 何を言って……」
「気持ちいいの……ねえ……あなたも……」
少女が笑った。それは人間らしい笑みではなく、筋肉が勝手に引きつったような不気味な表情だった。
口の端から、ツツ、と透明な涎が糸を引いて垂れる。
違和感はそれだけではなかった。
少女の歩き方がおかしい。関節がぎこちなく、まるで操り人形が無理やり動かされているようだ。
さらに近づいてきた少女の姿に、玲奈は息を飲んだ。
破れたセーラー服の隙間、めくれ上がったスカートの下。
純白の太ももの内側から、這うようにして緑色の蔦が伸びている。いや、這っているのではない。
それは、少女の肉体の中に突き刺さっていた。
スカートの奥、秘部と思われる場所から、子供の腕ほどもある太い緑色の「根」が伸び、それが後方の巨大な食虫植物のような花へと繋がっているのだ。
「う……あぁ、んっ……!」
少女がビクリと体を震わせ、艶めかしい声を上げる。
根が脈打つたびに、少女の白目の奥が白濁し、恍惚とした表情が浮かぶ。
その根は、少女の子宮の奥深くまで侵入し、彼女を内側から支配していた。植物の先端から分泌される催淫性の神経毒と消化液が、彼女の理性を溶かし、あられもない快楽を与え続けているのだ。
「ごはん……きた……」
少女がまた理解不能な言葉を漏らした瞬間、彼女の瞳孔が開ききった。
この子は、もう人間じゃない。
あの植物の一部――獲物を誘き寄せるための、生きた「疑似餌」だ。
「ヒッ……!」
玲奈は後ずさりした。本能が警鐘を鳴らす。逃げなければならない。
だが、恐怖で足が竦んで動かない。
目の前の少女、かつては人間だった肉人形は、股間から伸びる根に操られるようにして、玲奈に手を伸ばしてくる。彼女の役割は、獲物を油断させ、捕食範囲まで引きずり込むこと。
「あなたも……一緒……とろとろ……」
少女の股間から、植物の粘液と彼女自身の愛液が混じり合った独特の匂いが漂う。
根がズルリと動き、少女の膣壁を内側から擦り上げた。
「あひぃッ!?」
少女の顔が快楽に歪み、白目を剥いてガクガクと痙攣する。その異常な光景に釘付けになっていた玲奈は、気づくのが遅れた。
背後で、カサリ、と何かが動く音。
振り返ろうとした瞬間、足首にヌルリとした感触が巻き付いた。
「え?」
視線を落とすと、床に張り巡らされた根の一つが、蛇のように玲奈の足首に絡みついていた。
「いや……っ!」
抵抗する間もなく、強い力で引き倒される。
仰向けに倒れた玲奈の視界に、天井を覆い尽くすほどの巨大な花の蕾が映った。そして、その周囲で蠢く無数の触手のような根。
「いやぁぁぁぁぁッ!!」
玲奈が悲鳴を上げる。だが、その声は温室のガラスに反響して消えていく。
足首を掴んだ根は、ジリジリと彼女を花の方へと引きずっていく。
その先には、役目を終えたのか、力を失って崩れ落ちるセーラー服の少女の姿があった。彼女の体は既に痩せ細り、必要な養分をあらかた吸い尽くされた抜け殻のようになっていた。
(わたしも、あぁなるの……?)
絶望する玲奈の両足が、無慈悲に大きく開かれる。
太ももの内側を、這い上がる別の根。先端にはヌラヌラと光る蜜が溢れている。
それは獲物の抵抗を奪い、新たな苗床として作り変えるための、甘美なる処刑器具だった。
「や、やめ……入って……くるぅぅぅぅッ!!」
閉鎖された植物園に、新たな「疑似餌」の誕生を告げる、甘く切ない絶叫が響き渡った。
「ぎぃぃぃぃぃぃぃッッ!! 痛いっ、痛いぃぃぃっ!!」
玲奈の悲鳴とともに、純潔が植物によって無惨に散らされた。
熱を持ち、脈打つ植物の根が、乾燥した未開の狭い道を力任せに押し広げていく。
「あ、ぐ……太い……裂けちゃう……!」
涙で濡れた玲奈の瞳が、恐怖に見開かれる。
侵入者の表面はザラザラとしており、細かい棘のようなものが無数に生えていた。それが敏感な内壁を容赦なく擦り上げ、食い込んでいく。
ズズ……ズズズ……ッ。
湿った不快な音を立てて、根は玲奈の胎内深くまで潜り込んでいく。異物が体内を蹂躙する感覚に、玲奈は狂ったように首を振る。
「やだ、やだぁっ! 抜いて……お願い、抜いてぇぇぇ!」
だが、植物に理性も慈悲もない。ただ本能の赴くまま、新たな宿主を苗床として確保するのみだ。
根の先端が子宮口をこじ開け、聖域へと侵入する。
「――ッ!? あ、が……ッ!」
その瞬間、玲奈の体が一際大きく跳ねた。
まるで熱した鉄棒を突き刺されたような、焼きつくような激痛と衝撃。
しかし、その痛みの直後、爆発的な快楽が脳髄を直撃した。
「あ……? な、に……これ……?」
根の表面から分泌される神経毒が、玲奈の粘膜から吸収され、急速に全身へと回っていく。
痛みは甘美な痺れへと変わり、恐怖は陶酔へと塗り替えられていく。
子宮の中に満ちていく、ドロドロとした熱い蜜。それは植物の消化液であり、同時に玲奈を自分の一部へと作り変えるための改造液でもあった。
「あぁ……っ、んく……っ、あつい……おなか、熱いよぉ……っ」
玲奈の抵抗が弱まっていく。
スポーツウェアの下で、健康的な白い肌が紅潮し、汗が玉となって浮き出る。
植物はさらに深く、玲奈と一体化しようと根を蠢かせる。
ズプッ、グヂュッ、という水音が、静まり返った温室に卑猥に響く。
内側から子宮を撫で回され、卵巣を刺激されるたびに、玲奈の口からは甘い吐息が漏れた。
「んぁ……っ、変になっちゃう……頭、とろとろするぅ……」
視界が白く霞み、思考がまとまらない。
目の前で揺れる巨大な花が、この世で最も美しいもののように思えてくる。
あの花と繋がりたい。あの花の一部になりたい。
恐ろしいはずの思考が、まるで自分の本心であるかのように上書きされていく。
「もっと……もっとちょうだい……」
玲奈は無意識のうちに、自ら腰をくねらせていた。
股間の根をさらに奥へと迎え入れ、子宮で強く締め付ける。
その反応に呼応するように、植物は玲奈の体内に無数の細かい根を張り巡らせ始めた。
子宮壁を突き破り、血管に入り込み、神経節へと絡みつく。
玲奈の血液の中に、植物の葉緑素と魔力が混ざり合っていく。
「あひぃぃぃッ!! すごぉいッ! 体の中、根っこだらけぇぇッ!」
全身の血管が緑色に浮き上がり、肌の下を何かが這い回る感触に、玲奈は絶叫しながら絶頂を迎えた。
ビクンビクンと痙攣する太ももに、植物の根がさらに強く絡みつく。それはもう拘束具ではなく、彼女の体の一部、命綱となっていた。
どのくらいの時間が経っただろうか。
玲奈の意識は完全に植物と共有されていた。
彼女の自我は薄れ、ただ「栄養を摂り、種を広げる」という植物の本能だけが残っていた。
瞳はかつての知性を失い、とろんとした虚ろな光を宿している。
口元は半開きになり、だらしなく舌が覗き、透明な涎が顎を伝って胸元を濡らしていた。
ボロボロになったスポーツウェアから覗く肌は、かつての人間らしいピンク色ではなく、青白く透き通り、その下で脈打つ緑色の管が鮮明に見える。
彼女の胎内には、植物の根が完全に定着していた。
子宮は根の塊によって押し広げられ、下腹部は妊娠したかのように膨らんでいる。
だが、その苦しさはもう感じない。あるのは、常に母体と繋がっているという安心感と、絶え間なく送られてくる快楽の信号だけ。
ズズッ……。
玲奈の意思とは無関係に、股間の根が動き、彼女の体を立ち上がらせた。
まるで操り人形のように、ぎこちない動きで玲奈は歩き出す。
その足元には、先に役目を終えたセーラー服の少女が、枯れ木のように干からびて転がっていた。
玲奈はそれを一瞥もしない。彼女にとって、それはもうただの養分を吸い尽くされた残骸でしかなかった。
玲奈は温室の入り口近く、光の当たる場所へと移動する。
そこは、新たな獲物が最初に見つけやすい場所。
彼女はそこで足を止め、虚空を見つめたまま、微動だにせず立ち尽くす。
風に揺れる栗色の髪。
一見すれば、迷い込んだ可憐な女子大生。
だが、そのスカートの下では、太い根が地面と彼女の子宮を繋ぎ、妖しく脈動している。
彼女の口から、甘いフェロモンを含んだ吐息が漏れた。
「……だれか……たすけて……」
かつて自分が聞いたのと同じ、弱々しく、しかしどこか甘美な響きを持った声。
それは、次の犠牲者を誘い込むための、死への招待状だった。
植物園の深い緑の中で、新たな人喰い花が、獲物の訪れを静かに待ち続けている。