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電子世界の美少女アバター

2,822 文字 約 6 分

あらすじ

ある男子学生が、寝る前にスマホで美少女ゲームのソシャゲをプレイしている。世界観は少しSF要素が入っている。プレイしている最中に寝落ちしてしまう。
起きるとそこはそのソシャゲの世界で、男子学生はゲームに取り込まれている。身体・服装も変化しており、男子がゲームのプロフィールアイコンに設定していた少女になっている。


登場人物の容姿

主人公(転生後):
ゲーム内キャラクター名「アイリス」。
サポート型のAIロイドという設定のキャラクター。
身長150cm前半の小柄な体躯。色素の薄いプラチナブロンドの髪を腰まで伸ばしており、毛先にかけて淡いピンク色のグラデーションが掛かっている。頭部にはヘッドセットのような機械的な耳飾りをつけている。
瞳は大きなエメラルドグリーン。瞬きをするたびに、虹彩の中で幾何学模様が回転するエフェクトが入る。
服装は近未来的な白を基調としたラバースーツ風の戦闘服。身体のライン、特に膨らみ始めたばかりのような胸元や、しなやかな腰のくびれ、丸みを帯びた臀部を強調するピタッとした素材。大腿部は絶対領域を晒しており、膝から下は重厚なメカニカルなブーツに覆われている。
肌は非常に白く、少し冷たい質感だが、触れると驚くほど柔らかい。

本文

スマートフォンの画面が、暗い部屋の中で唯一の光源となっていた。
指先が慣れた手つきで画面をタップし、派手なエフェクトと共に敵キャラクターが消滅する。
「……あと、三周……スタミナ消化したら……寝よ……」
深夜二時。男子学生である俺は、布団の中で重たい瞼をこすりながら、日課となっているソーシャルゲーム『ステラ・クロニクル』の周回プレイを続けていた。
このゲームは近未来の宇宙を舞台にしたSFファンタジーRPGで、美少女化されたAIや兵器たちを指揮して戦うという、よくあるソシャゲだ。
俺がプロフィールアイコンに設定しているのは、最初期に手に入れたレアリティこそ低いものの、愛着のある「アイリス」というキャラだった。健気なサポートAIで、見た目がドストライクだったのだ。

画面の中で、SDキャラのアイリスが勝利のポーズを決める。
「お疲れ様です、マスター。素晴らしい指揮でした」
聞き飽きたはずのそのボイスが、今夜はやけに遠く聞こえた。
強烈な睡魔が意識を塗りつぶしていく。
スマホを握ったまま、俺の意識は深い闇へと落ちていった。

   *   *   *

「……スター……マスター……?」
無機質だが心地よい声が、鼓膜を優しく震わせる。
「……ん……」
俺はゆっくりと目を開けた。
見慣れた天井――ではない。
視界一面に広がっていたのは、無数のホログラムウィンドウが浮遊する、青白い光に満ちた空間だった。壁も床も、幾何学的なラインが走る金属質の素材でできている。
「ここは……?」
寝ぼけた頭で体を起こそうとして、違和感を覚えた。
視線が高い。いや、低い?
それに、体が妙に軽い。
手をついた感触が、布団の柔らかさではなく、硬質でひんやりとした床のものだった。
「あ、れ……?」
自分の手を見て、息が止まった。
そこに在ったのは、ゴツゴツとした男の手ではなかった。
陶器のように白く、透き通るような華奢な指。手首には、白とピンクのラインが入った袖口のようなパーツが付いている。
「な、なにこれ……」
口から出た声は、低く太い俺の声ではなく、鈴を転がすような可憐な少女の声だった。
慌てて立ち上がり、周囲を見渡す。
そこは、俺が毎日見ていた『ステラ・クロニクル』のホーム画面――「指令室」そのものだった。
そして、壁のようにそびえ立つ巨大なディスプレイの黒い画面に、今の「俺」の姿が映り込んでいた。

プラチナブロンドの長い髪。大きなエメラルドグリーンの瞳。
体に吸い付くような白いラバースーツに身を包んだ、小柄な美少女。
「アイリス……?」
紛れもなく、俺がアイコンに設定していたゲームキャラクター、アイリスだった。
俺が、アイリスになっている?
夢だ。これは間違いなく夢だ。いわゆる明晰夢というやつだろう。
そう自分に言い聞かせ、俺は自分の頬をつねってみた。
「いたっ……」
鋭い痛みが走る。頬の柔らかさと、指先の感触がリアルすぎる。
「うそ、でしょ……」
恐る恐る、自分の体を触ってみる。
胸元に手を当てると、スーツ越しにでも分かる柔らかな膨らみがあった。大きくはないが、確かな弾力を持って手に吸い付く。
腰から下へ手を滑らせると、くびれのラインから急激に広がる骨盤のカーブ、そして肉付きの良い太腿の感触。
ラバースーツの表面はツルツルとしていて、指が滑るたびにキュッキュと微かな音が鳴る。
「あ……んっ……」
股間に触れた瞬間、背筋に電流が走ったような奇妙な感覚が抜け、思わず甘い声が漏れた。
敏感すぎる。男だった頃には有り得ない、全身が性感帯になったかのような感覚。
これは夢じゃない。現実感がありすぎる。

ふと、部屋の隅に誰かいることに気づいた。
「あ、あの!」
そこに立っていたのは、ゲームのナビゲーター役である「オペレーター・メイ」だった。眼鏡をかけた知的な女性キャラだ。
俺は縋るような思いで彼女に駆け寄った。
「ここどこなんだ!? 俺、なんでアイリスになってる!?」
メイは俺の方を向き、にこりと微笑んだ。
「おはようございます、マスター。本日のデイリーミッションはまだ達成されていません」
「え……?」
会話が噛み合わない。
「違う、そうじゃなくて! 元に戻り……いや、ログアウトしたいんだけど!」
「現在開催中のイベント『銀河の果てまで』は残り三日です。特効キャラを編成して挑みましょう」
メイは同じ表情のまま、抑揚のない声で告げる。
背筋が薄ら寒くなるのを感じた。
彼女の瞳には、知性という光が宿っていない。ただプログラムされた挙動を繰り返すだけの、精巧な人形。
「嘘だろ……」
俺は他のキャラにも話しかけようと、指令室を出ようとした。
自動ドアが開き、廊下に出る。そこには、俺がガチャで当てたレアキャラたちが談笑している――ように見えた。
「ねえ! 誰か!」
俺が声をかけると、彼女たちは一斉にこちらを向いた。
「アラート確認。戦闘準備に移行します」
「お腹すいたなー。ねえマスター、何か食べるものない?」
「武器のメンテナンスは完璧だ。いつでもいける」
全員が、それぞれの「設定された」台詞を口にするだけ。
俺の言葉に対する反応ではない。ただ、俺が「接近した」というトリガーに対して、ランダムなボイスが再生されただけだ。
恐ろしいほどの孤独感が俺を襲った。
ここはゲームの世界。そして、この世界で「意識」を持っているのは、俺だけなのかもしれない。

呆然と立ち尽くす俺の体に、廊下ですれ違った戦闘用アンドロイドの少女がぶつかった。
「きゃっ」
俺は無様に床に転がった。
受け身も取れず、四つん這いの姿勢になる。
その拍子に、ラバースーツが食い込み、股間の布地が肌に擦れた。
「っ……ぁ……」
またしても、鋭い快感が下腹部を突き上げる。
恥ずかしいポーズで床に這いつくばっている自分。
中身は男なのに、体は完全に美少女ゲームのキャラクターとして「消費」されるために作られた存在になってしまっている。
鏡のような床に映る自分の顔は、恐怖に歪んでいるはずなのに、どこか媚びるように赤く染まり、潤んだ瞳で見上げているようにしか見えなかった。
「任務、続行」
ぶつかってきたアンドロイドは、俺のことなど意に介さず、機械的に歩き去っていく。
取り残された俺は、震える指で自分の胸を抱いた。
心臓の鼓動が早い。それは恐怖のせいなのか、それともこの過敏すぎる体が勝手に反応しているせいなのか、俺にはもう分からなかった。

ただ一つ理解できたのは、俺はこの世界で、この「アイリス」という少女として生きていかなければならないということ。
そしてこの世界は、俺の意思とは無関係に、美少女たちが戦い、傷つき、そして時には愛でられる――そんな管理された「ソシャゲ」の世界なのだ。
俺は震える足で立ち上がると、再び指令室へと戻った。
メイが、変わらぬ笑顔で俺を迎える。
「お帰りなさいませ、マスター」
その言葉が、永遠に閉じ込められた檻の鍵をかける音のように響いた。
俺の、新しい日常が始まったのだ。プレイヤーとしてではなく、プレイされる側の「キャラクター」として。