天才博士の完璧な家政婦は、今日も自分が人間だと信じている
人間だと思いこんでいるやつ。正直微妙。
あらすじ
天才科学者・木嶋(きじま)の屋敷で住み込みの家政婦として働く少女・マリ。
彼女は自身のことを「少し体力があり余っているだけの、健康優良な人間の女の子」だと信じている。
しかしその正体は、木嶋が亡き恋人を模して作り上げた、超高性能なアンドロイドだった。
マリは重い家具を片手で持ち上げ、熱した鉄板を素手で触っても火傷ひとつしないが、彼女の脳内システムはそれらを「私は力持ち」「皮膚が丈夫」という程度の認識で強制的に処理してしまう(認識阻害プロトコル)。
木嶋はそんな彼女の「人間らしさ」を守るため、日々のメンテナンスを「健康診断」や「マッサージ」と称して行っている。
ある夏の日、連日の激務(と本人は思っているが、実際はオーバーワークによる排熱不足)により、マリは「夏バテ」して倒れてしまう。
木嶋は緊急メンテナンスを開始。冷却液の交換と内部洗浄、そしてセンサー感度の再調整を行うことになるが、マリにとってそれは、敬愛するご主人様による「濃厚で恥ずかしい愛の治療」として認識されるのだった。
登場人物
マリ(18歳相当)
身長158cm、体重は秘密(実は金属骨格のため重いが、本人は少し太ったと思っている)。
透き通るような白い肌に、少し色素の薄い茶色の瞳。髪は肩につくくらいのボブカットで、色はアッシュグレー。
普段はフリルが控えめなクラシカルなメイド服を着用。エプロンは常に真っ白。
非常に整った顔立ちをしているが、愛嬌のある笑顔がそれを和らげている。
「人間」にしては肌のキメが細かすぎたり、汗をかかなかったりするが、本人は気にしていない。
木嶋(きじま)(32歳)
黒髪のボサボサ頭に、無精髭を生やした天才科学者。常に白衣を着崩している。
目つきは鋭くクマがあるが、マリに向ける視線だけは異常に優しい(そして少し湿度が高い)。
人付き合いが苦手で、マリ以外には心を閉ざしている。
本文
「ふんっ、しょっと!」
掛け声とともに、私はリビングに鎮座する三人掛けの革張りソファを片手で持ち上げた。
ずっしりとした重みを感じるはずだが、私の腕はピクリとも震えない。そのままひょいと頭上あたりまで掲げ、空いたもう片方の手でソファの下に掃除機をかける。
「よし、これで綿埃(わたぼこり)も一網打尽です!」
ブォォォン、と掃除機が唸りを上げる。隅々まで綺麗になったことを確認し、私はまた軽々とソファを元の位置に戻した。
ふう、と額を拭う仕草をする。汗なんて一滴もかいていないけれど、こういうのは気分の問題だ。
「……マリ、またソファを一人で動かしたのか?」
背後から、呆れたような、それでいて心配そうな声が掛かる。
振り返ると、寝癖がついたままの白衣姿、この屋敷の主である木嶋(きじま)様が立っていた。あくびを噛み殺しながら、眠たげな瞳でこちらを見ている。
「あ、おはようございます、博士! はい、今日は天気もいいので、徹底的にお掃除しようと思いまして!」
「掃除はいいが……そのソファ、重さが八十キロはあるんだぞ。腰を痛めるからやめろと言っただろう」
「もう、博士ったら過保護なんですから。私、田舎育ちだから頑丈なんですよ? これくらい余裕です」
私は力こぶを作るポーズをしてみせた。細い腕のどこにそんな筋肉があるのか自分でも不思議なくらいだけど、とにかく私は生まれつき力が強いのだ。
博士は「はぁ」と深いため息をつくと、私の元へ歩み寄ってきた。そして、私の手首を掴み、じっと見つめる。
「……関節に異音はなし、か。出力バランスも正常……」
「博士?」
「いや、なんでもない。とにかく、無理は禁物だ。君は普通の女の子なんだからな」
「はいはい、わかってますよぅ」
博士はいつもこうだ。私のことをまるでガラス細工か何かのように扱う。
私が熱々のフライパンを素手で掴んでしまった時も(あれはちょっと皮膚が厚いから平気だっただけなのに)、真っ青になって私の手を氷水に突っ込んだりした。
心配性なご主人様。でも、そんなところが愛おしい。
「朝食、できてますよ。今日はフレンチトーストです」
「……ああ、ありがとう。君の作る食事はエネルギー効率がいい」
「もう、味の感想を言ってくださいよぉ」
私たちはダイニングテーブル向かい合う。博士のコーヒーを淹れながら、私は今日の予定を確認する。
洗濯、買い物、それから博士の実験データの整理。
私は家政婦兼、博士の助手でもある。博士の研究内容は難しくてよく分からないけれど(『自律型思考AIにおける認識フレームワークの齟齬』とかいう論文だった)、書類の整理や計算の手伝いは得意だ。
どんなに複雑な計算式でも、見た瞬間に答えがパッと頭に浮かぶ。そろばん三級持ってるからかな、と自分でも思う。
「そういえばマリ。今日の午後、少し時間を空けておいてくれ」
「はい? 何か用事ですか?」
「定期健診だ。……最近、気温も上がってきたし、君の身体の調子を診ておきたい」
博士はパンをかじりがら、視線を逸らして言った。
まただ。博士は医者でもないのに、月に一度は必ず私に「健康診断」をする。
聴診器を当てたり、血圧を測ったりするだけならいいのだけれど、博士の健診はいつも……すごく独特だ。
「ええ~、またですか? 私、どこも悪くないですよ。昨日だって二十四時間ずっと起きて博士の観察日記をつけてましたけど、全然眠くならなかったですし」
「それが異常なんだよ。……いいか、これは命令だ。雇い主としての」
「むぅ……分かりました。博士がそう仰るなら」
命令と言われては逆らえない。それに、博士が私の身体を心配してくれているのは嬉しいことだし。
ただ、あの健診は……なんというか、とても恥ずかしいのだ。
身体の隅々まで見られるし、『特殊な治療器具』とか言って、変な機械を身体に繋がれたりする。
前回なんて、「粘膜の色が悪い」とか言われて、口の中に苦い薬(博士は栄養剤だと言っていた)を何度も注ぎ込まれた。
「(今日は普通のものだといいなぁ)」
私はエプロンの裾をぎゅっと握りしめた。
◇
午後。
外は茹だるような暑さだった。セミの声がジリジリと響いている。
屋敷の地下にある、冷房が効いた実験室。ここが博士の仕事場であり、私の「健診」が行われる場所だ。
「よし、そこに横になってくれ」
無機質な金属製の診察台を指さされ、私は大人しく従う。
ひんやりとした感触が背中に伝わる。博士は手際よく私の腕や足に、ペタペタと電極のようなパッドを貼り付けていく。
「あの、博士。これは?」
「心電図と……筋電位の測定だ。リラックスしていてくれ」
博士は真剣な顔でモニターを見つめている。
私は天井の無骨な配管をぼんやりと見上げた。
……なんだろう。今日は妙に身体が熱い気がする。
冷房が効いているはずなのに、身体の奥底、お腹のあたりがじんわりと熱を帯びているような。
「……ふむ。やはり内部温度が上昇しているな。排熱系……いや、代謝機能に負荷がかかっているようだ」
「え? 私、風邪ですか?」
「似たようなものだ『夏バテ』だよ。……少し、中の方まで処置が必要だな」
中の方?
私が首を傾げていると、博士はワゴンから太いケーブルのようなものを取り出した。
先端には、銀色に光る端子がついている。
「は、博士? それは……注射、ですか?」
「ああ、そうだ。特製の栄養剤と、冷却剤を直接注入する。……少し太いが、我慢してくれ」
「えっ、太すぎません!? あんなの刺さったら死んじゃいます!」
「大丈夫だ。君の身体は……受け入れられるようにできている」
博士は私の服のボタンを外し始めた。
白いブラウスがはだけ、胸元が露わになる。私は顔を赤くして身を縮めた。
「は、博士ぇ……」
「動くな。……ここを開けるぞ」
博士の指先が、私のおへそのあたりを這う。
くすぐったい、と思った次の瞬間、カチリ、と小さな音がした。
あれ? 今、お腹の皮膚が……開いた?
いや、そんなわけない。見間違いだ。博士が私のスカートを捲っているだけだ。
私の脳みそは一瞬でその「違和感」を否定した。
そう、これは診察。お腹に聴診器を当てるために、服を避けただけ。
でも、そこに見えているのは、柔らかい肌色ではなく、黒くて無機質な空洞のような……。
「うっ……!?」
思考がぐにゃりと歪む。
博士が、その「空洞」に、先ほどの太いケーブルを差し込んだ。
深々と。私の身体の奥深くまで。
「んうっ! は、かせ……なにか、入って……!」
「リラックスしろ、マリ。力を抜くんだ。……コネクタ接続、リンク確立」
「コネ……クタ……?」
お腹の中を異物が侵入してくる感覚。
でも、不思議と痛みはない。代わりに、背筋がゾクゾクするような、甘い痺れが全身を駆け巡った。
これが、点滴? 今の医療ってこんなに進んでいるの?
「あ、あう……熱い、です……なにか、流し込まれてるぅ……!」
「冷却液だ。……少し粘度は高いが、すぐに馴染む。循環ポンプ……心臓の動きを少し早めるぞ」
ドクン、ドクン、と胸の鼓動が大きくなる。
博士が手元のタブレットを操作するたびに、私の身体の中で「何か」が蠢く。
ケーブルを通じて、冷たくて、でもドロリとした液体が私の内蔵を満たしていく。
「はあ、はあ……博士、わたし、変になっちゃいそうです……」
「我慢だ。ほら、ここも詰まっている。……掃除が必要だな」
博士の手が、私の太ももの内側を撫でた。
ビクン、と身体が跳ねる。そこは、ダメ。
「排気口……いや、リンパの流れも悪いな。ここを刺激して、老廃物を出すぞ」
「そ、んなところ……リンパじゃ、な……あっ、ああっ!」
博士の指が、秘部へと伸びる。
いや、指じゃない。何か、細長くて振動する器具が、あてがわれた。
「あ、あああ! だ、めぇ! そんなの、恥ずかしいっ!」
「治療だ、マリ。……君の健康のために必要なことなんだ。……感度チェック、レベル3」
ブブブブ、と低い振動音。
私の身体は勝手に弓なりになった。
恥ずかしい。ご主人様にこんなところをいじられるなんて。
でも、博士の目は真剣そのもので、いやらしい手つきというよりは、精密機械を修理する職人のような(実際そうなのだが)手つきだ。
だから私も、これは治療なんだと思い込む。
どんなに快感が押し寄せても、身体の奥からキュウキュウと締め付けるような音がしても、これは医療行為なのだ。
「う、くぅ……博士ぇ……あたま、真っ白になっちゃう……!」
「バイタル安定。……よし、このまま洗浄モードへ移行する。……少し激しくなるぞ」
「えっ、まだやるんですか!? もう、お腹いっぱい……!」
博士は無慈悲にも、お腹に繋がったケーブルの出力を上げた。
ゴボゴボ、と体内で液体が循環する音が聞こえる。
それはまるで、私が人間ではない何かになってしまったかのような音だったけれど、高まる快楽がそんな疑問をすべて吹き飛ばしていく。
「あ、あ、ああーっ! すご、すごいっ! 身体の中、かき回されてるぅぅ!」
「いいぞ、その調子だ。……排熱効率改善。エラーログ消去。……綺麗になっていくぞ、マリ」
博士の熱っぽい瞳が、とろとろに蕩けた私の顔を見下ろしている。
私はその視線に射抜かれながら、抵抗できない波に飲み込まれていった。
◇
「……ん……」
目が覚めると、私は診察台の上でタオルケットを掛けられていた。
窓の外はもう薄暗い。
「気がついたか、マリ」
博士が椅子に座り、コーヒーを飲んでいた。
「は、博士……私、寝ちゃってました?」
「ああ。治療の途中で気絶するように眠ってしまったな。……だが、処置は成功だ。身体の重さはどうだ?」
言われて、私は上半身を起こす。
驚いたことに、先ほどまでのダルさが嘘のように消えていた。
身体が羽のように軽い。指の先まで力がみなぎっているようだ。
「す、すごいです! 全然疲れてない! 博士、やっぱり天才ですね!」
「ふん、当然だ。……私の最高傑作だからな(ボソッ)」
「え? 何か言いました?」
「なんでもない。……夕飯は、何か軽いものでいいぞ。病み上がりだからな」
博士は照れ隠しのようにそっぽを向いた。
私はベッドから飛び降りる。
足取りも軽い。これなら、今から大掃除だってできそうだ。
「はい! 腕によりをかけて作りますね! あ、その前に……」
私は博士の背中に抱きついた。
「わっ、マリ!?」
「治療、ありがとうございました。……ちょっと恥ずかしかったですけど、博士のおかげで元気になりました!」
博士の心臓の音が、トクン、と大きく跳ねたのが分かった。
私の鼓動(循環ポンプの音)も、なんだか少し早くなっている気がする。
博士の耳が赤くなっているのを見て、私は嬉しくなって、その背中にもっと強く頬ずりをした。