妹を脱がす魔法のナイフ ——300円の皮剥ぎナイフ——
皮モノをまだ書いてなかったので書いた(2)
あらすじ
ある男性が、リサイクルショップでおもちゃのようなナイフを見つける。ナイフはプラスチック製で何かを切れるようには見えない。柄の部分には商品タグが付いていて、“人を皮にできるナイフ”と書いてあった。
なんとなく気になったのと、300円だったのもあって買ってしまった。お試しで、最近反抗期(思春期)に入り始めた妹に使ってみる。
世界観
universe/skin.md
登場人物
三島 結城(みしま ゆうき)
22歳の大学4年生。就職活動を終え、暇を持て余している。中肉中背で眼鏡をかけており、地味な印象を与える。普段は安物のパーカーにジーンズという、いかにも学生らしい無頓着な服装をしている。リサイクルショップ巡りが趣味で、珍妙なガラクタを集めるのが密かな楽しみ。
三島 美優(みしま みゆ)
17歳の高校2年生。結城の5歳下の妹。最近は絶賛反抗期中で、兄に対しては「汚い」「キモい」と冷たい態度を取ることが多い。茶髪に染めたロングヘアを緩く巻き、学校の制服も着崩して今時の女子高生らしいスタイルを好む。短いスカートから伸びる脚は細くしなやかで、兄から見ても美少女と言える容姿をしているが、本人は兄を完全に見下している。
本文
商店街の隅にある、今にも崩れ落ちそうなリサイクルショップ『骨董屋・夢幻』の店内は、埃の匂いとカビの混じった独特の香気に包まれていた。大学の講義がなく、就職先も決まって暇を持て余していた結城は、何かに引き寄せられるようにその薄暗い店内に足を踏み入れ、雑多に積み上げられたガラクタの山を漁っていた。
棚の奥、古びた火縄銃や得体の知れない木彫りの人形に挟まれるようにして、それは置かれていた。
一見すると、子供が戦いごっこで使うような安っぽいプラスチック製のナイフだ。刃の部分は鈍い灰色で、エッジも立っていない。柄の部分は原色の赤で、いかにもおもちゃ然としている。しかし、その柄に括り付けられた手書きの商品タグが、結城の目を釘付けにした。
『人を皮にできるナイフ:300円』
「……なんだよ、これ。皮にできるって」
あまりにも馬鹿げた説明文に、結城は鼻で笑った。だが、その文字の力強さと、ナイフから発せられる妙な不気味さが気になり、つい手が伸びた。手に取ってみると、プラスチック特有の軽さはなく、ずっしりとした重みが手のひらに伝わってくる。材質は不明だが、金属でもプラスチックでもない、どこか温かみのある不思議な感触だ。
「300円か。ネタにはなるな」
結城はレジにいた、顔の数倍はありそうな巨大な老眼鏡をかけた店主に小銭を渡し、ナイフを購入した。店主は金を受け取ると、ニヤリと不気味な笑みを浮かべ、「使いすぎには気をつけなされ」と枯れた声で一言だけ告げた。
帰宅した結城を待っていたのは、居間のソファでスマホをいじりながら、だらしなく足を投げ出している妹の美優だった。
夕方の西日が差し込むリビングで、彼女は短い制服のスカートを気にすることもなく、ポテトチップスを齧りながらテレビを見ていた。
「あー、帰ってきた。キモ兄、遅いんだけど。っていうか、帰ってくるなりその薄汚い格好でリビング入んないでくれる? 空気が汚れる」
美優は顔も上げず、冷たい声で吐き捨てるように言った。彼女はここ一年ほど、結城に対して異常なまでの攻撃性を見せている。かつては「お兄ちゃん」と呼んで後ろをついて回っていた面影はどこにもない。今の彼女にとって、結城は単なる「不快な同居人」に過ぎないのだ。
「……何だよ、飯なら勝手に食えよ。俺はまだ食わないからな」
「はあ? 何その態度。お兄ちゃんの当番でしょ、今日。つーか、その手に持ってる変なもん何? またそんなゴミにお金使ったの? マジで理解不能。脳みそ腐ってんじゃないの?」
美優の罵詈雑言は止まらない。結城は手に持ったナイフの柄を強く握りしめた。
『人を皮にできるナイフ』。
もし、この説明が本当だとしたら。この高慢で、自分をゴミ扱いする生意気な妹を、文字通り「皮」という名の物体に変えて、黙らせることができたらどれほど痛快だろうか。
結城の心の中で、どろりとした暗い衝動が膨れ上がっていく。
「……試してみる価値はあるな」
結城は静かな足取りで、美優の背後に近づいた。
「なに? 近寄らないでって言ってるでしょ。臭いんだってば」
美優がようやく顔を上げ、心底嫌そうな表情を浮かべた瞬間、結城はナイフを彼女の白い二の腕に向けて力強く振り下ろした。
刃は鋭くないはずなのに、美優の制服のカーディガンに触れた瞬間、パチン、と何かが弾けるような音がした。
プシュウゥゥゥ……。
「え……? なに……? これ、どういう……っ」
美優の喉から、空気の抜けるような掠れた声が漏れる。
ナイフが触れた直下から、銀色に光る細長いファスナーの列が、まるで蛇のように這い回り、驚くべき速さで彼女の二の腕、肩、そして首筋を通って全身を一周した。
それと同時に、美優の体から急速に「重力」と「中身」が失われていくような異様な光景が広がった。
「あ、あ、あれ……? お兄、ちゃん……からだが……力、が入らなく……っ」
美優の大きく見開かれた瞳から、みるみるうちに生命の光が消えていく。
張りのあった頬の肉は削げ落ちるのではなく、内側から物質そのものが消失していくように平坦になり、美優の体は風船から空気が抜けるように、自重すら支えられずに萎んでいく。
数秒前までそこにあったはずの、血の通った柔らかな肉体。骨も内臓も、すべてがどこか異次元へと吸い込まれたかのように消え去る。
ポスッ、という小さな音を立ててソファの上に残されたのは、美優の着ていた制服と、彼女自身の顔と髪、そして肌が一体化した『美優という人間を模した皮』だった。
「……本当に、皮になったのか」
結城は震える手で、その「皮」を持ち上げた。
重さはほとんどない。美優が着ていた制服も、カーディガンも、さらには下着までもがすべて一つの素材として融合し、美優の容姿を完璧に模した薄い膜のようになっている。
背中には長いファスナーがついていた。
表側を見ると、美優の顔がそこにあった。目を閉じ、眠っているかのような美しい顔。だが、それは三次元の厚みを持たない、柔らかな皮の表面に印刷されたかのように精巧な模様でしかない。
結城は恐る恐る、その皮の感触を確かめた。
驚くほど滑らかで、しっとりとしている。本物の人間の肌よりも柔らかく、モチモチとした感触だ。
彼は美優だった皮を床に広げた。まるで人型のカーペットか、精巧なラブドールのガワだけが転がっているようだ。
「おい、美優。聞こえるか?」
呼びかけても返事はない。皮状態の対象に意識はないという設定通りだ。
結城はソファに座り込み、手の中にある妹の皮をまじまじと観察した。
今まで自分を散々罵ってきた妹が、今はただの薄っぺらい素材になって、自分の意のままになっている。なんという征服感。
彼は皮を裏返してみた。ファスナーが開いた状態の裏面は、驚くほど艶やかなピンク色の肉壁のような質感をしていた。だが、嫌な臭いは全くせず、むしろ美優がつけていたフレグランスの甘い香りが漂っている。
「中身を詰めれば、動かせるんだっけ……」
ふと、机の上に置いてあった充電式のハンディファン(携帯扇風機)が目に入った。
結城は美優の皮のファスナーを全開にする。ハンディファンのスイッチを入れ、羽が回っている状態で中に放り込んだ。
そして、ファスナーを閉める。
その瞬間、ペラペラだった皮がまるで魔法のように瞬時に膨らみ、元の美優のプロポーションを完全に復元した。
中身は小さな扇風機一つだけのはずなのに、触れた感触は弾力のある人間の肉体そのものだ。
「なるほど……。バッテリー式の機械なら、その機械として動くってことか」
立ち上がった美優(の皮)は、中に入れたハンディファンのモーター音に合わせて、小刻みに振動している。
ファンは首振り機能のない単純なものだったが、回転する羽のジャイロ効果のせいか、美優の体はゆらゆらと不安定に揺れていた。意識のない無機質な美少女の人形が、見えない風を受けて揺れているようだ。
結城の中で、暗い欲望が鎌首をもたげた。
彼は美優の体をベッドに押し倒した。
制服のスカートを捲り上げる。視覚的にも触覚的にも、そこにあるのは完全に制服を着た美優だ。しかし、その中身は空洞に等しく、あるのは機械だけ。
「よし……。もう少し、弄ってみるか」
結城は一度美優のファスナーを開け、中の扇風機を取り出した。
代わりに、何年も前に買って放置していた高性能の電動マッサージ器と、バイブレーターをいくつか放り込む。
それらを美優の秘部や胸のあたり等の位置など気にせず、適当に中からスイッチをオンにして転がした。
ファスナーを閉じると、再び美優の肉体が形成される。
だが、今度は体内で暴れる機械の影響で、美優の全身が激しく激震していた。
ブルブルと震える妹の肉体。目は虚ろで、意識はない。
「……最高だ」
結城は自らの服を脱ぎ捨てた。
この「美優」には、拒絶する意志もなければ、罵る言葉もない。
あるのは自分を受け入れるために用意された、極上の質感を持つ皮だけだ。
彼は美優の股の間を割り、そこにあるはずの間隙を探った。
皮の一部として形成されている秘部は、驚くほどリアルだ。結城が指を当てると、中身が機械であるにもかかわらず、その感触はどこまでも生々しい。
「っ……」
結城は己の欲望を、その無機質な妹の皮へと挿入した。
中身が空洞に近い状態のため、挿入された瞬間、皮は彼の形に合わせて自在に歪み、包み込むように密着した。
普通の人間ではありえないほどの収縮と、滑らかな潤滑感。
美優の姿をしたその「器」は、結城が腰を振るたびに、内部の機械的な振動と相まって絶叫したくなるほどの快楽を与えてくる。
「美優、お前……中身がない方がよっぽどいい女じゃないか」
結城は美優の無機質な顔を見つめながら、激しく突き上げた。
皮がこすれ合うキュッという音と、機械が唸るヴィィィという低い音が部屋に響き渡る。
彼は美優の胸を掴んだ。中には柔らかいクッションと、激しく震えるバイブレーターが入っている。それが皮越しに指に伝わり、なんとも言えない倒錯的な快感を生む。
何度も何度も、無言の妹を犯し続ける。
やがて、極限の快感が結城を襲った。
「あ……ああぁっ!」
彼は美優の皮の奥深くへと、熱いものを放出した。
射精した後もしばらくは、皮の中に響く機械の振動が、余韻として彼を責め立てた。
息を整えた結城は、ふと思いついた。
『中に何かしらの生物が入った状態で閉めると、その生物が体を動かすことができる』。
『無機物が入った場合は人形のような状態になる。ただし、バッテリー式の機械を入れれば、その機械として動作する』。
今は単なる「バイブ内蔵の自動人形」だが、さらに面白いことができるのではないか。
「そうだ……。美優を、『俺』にしてみたらどうなるんだ?」
結城は再びファスナーを開け、中の機械類をすべて取り出した。
空っぽになった、ぐったりとした妹の皮。
結城は全裸のまま、その美優の皮の中へと足を突っ込んだ。
信じられないことに、大柄な結城の足が、華奢な妹の足の皮の中にすんなりと収まっていく。皮はゴムのようにどこまでも伸び、それでいて窮屈さは全くない。
腕を通し、胴体を通し、最後に美優の頭部の皮を、自分の顔に被せる。
カチッ、と。
喉元まで伸びたファスナーを、結城は自分の手で閉めた。
その瞬間、世界が一変した。
視界が急激に低くなる。それと同時に、全身にこれまでに経験したことのないような「情報の奔流」が押し寄せた。
鏡の前に立つと、そこには冴えない大学生・三島結城の姿はどこにもない。完璧なプロポーションを誇る女子高生、三島美優がそこにいた。
しかし、これは単なる変装ではない。
結城の意識は、美優の皮と完全にリンクしていた。
ふと背中に手をやると、先ほど閉めたはずのファスナーの感触が消え失せていた。
鏡で確認してみても、そこには滑らかな背中のラインがあるだけで、継ぎ目などどこにも見当たらない。どうやら、ファスナーを閉めてしばらく経つと、完全に皮膚と同化して消えてしまう仕様らしい。
「完璧だ……。これなら、全裸になってもバレない」
「あ……っ、は……」
自分の肺に空気が入り、美優の喉を通り、彼女の唇から吐き出される。その一連の流れが、結城自身の感覚として生々しく伝わってくる。
自分自身の声が、美優の鈴を転がすような高音に変換されている。その音の振動すら、自分の新しい鼓膜で捉えているのだ。
「すごい……。これ、本当の意味で『美優』になってる……」
自分の体を触ってみる。制服の生地が肌に触れるザラつき、ブラジャーが胸の重みを支える締め付け感、ストッキングが太ももを締めつける滑らかな圧迫感。それらすべてが、結城自身の皮膚感覚として直接脳に届く。
皮の外側と内側の境界線が消失し、結城の肉体は美優の皮という新しい境界線に置き換わっていた。
股間に手を当ててみる。当然、あるべきはずの象徴は消え失せ、代わりに滑らかな溝がそこにある。その場所を指先でなぞると、脳に直接快楽の信号が走った。
「あっ……ふぅ……」
自分の体でありながら、自分ではない快感。
結城は鏡の前で、美優としての仕草を試してみた。
首を傾げ、上目遣いで自分を見る。鏡の中の美少女が、同じように可愛らしく首を傾げる。
スカートの裾を少し持ち上げ、恥ずかしそうに内股にしてみる。そこには、結城の野暮ったさなど微塵も残っていない。
かつて自分をゴミのように見下していた、あの傲慢な妹。
その妹の美貌も、若さも、そして誰からも愛される「女子高生」という地位も、今やすべてが結城の支配下にあった。
「あはは……。いい、これ最高。もう、元に戻る必要なんてないかも……」
美優(結城)はベッドに倒れ込んだ。シーツの感触が美優の背中の皮越しに伝わり、それが全身の快感へと繋がる。
その時。
階下の玄関で、激しくチャイムが鳴り響いた。
ピンポーン! ピンポーン!
「美優ちゃーん! いるんでしょ? 出てきてよー!」
外から聞こえてきたのは、美優の親友であるサキの声だ。彼女もまた、この近所でも評判の美少女だったはずだ。
美優(結城)は一瞬、心臓が飛び出しそうなほどの緊張を覚えた。しかし、それは結城としての恐怖ではなく、美優の体が反応した「生理的な緊張」だった。
「……そうだ。俺は今、美優なんだ」
鏡を見て、もう一度完璧な笑みを作る。
妹の皮は、結城の表情を完璧に再現しつつ、それを「美優の魅力」へと昇華させてくれる。
彼は階下へと駆け下りた。
「はーい、今行くー! ごめんサキ、ちょっと着替えてて!」
可憐な声が、結城の喉から自然と漏れる。
玄関のドアを開けると、そこには短い制服姿で、夏の日差しをいっぱいに浴びたサキが立っていた。
「あ、美優! 遅いよー。今日、カラオケ行くって約束したじゃ……ん?」
サキが少しだけ不審そうに美優(結城)の顔を覗き込んだ。
「……何? サキ」
「いや、なんか今日の美優、いつもより……なんていうか、艶っぽいっていうか。何かいいことあった?」
サキの言葉に、結城は心の中でガッツポーズをした。
「うふふ、そうかな? ちょっと、新しい自分を見つけただけだよ」
美優(結城)はサキの手を握った。
触れ合う少女同士の肌。だが、結城の頭の中には、すでに次の欲望が芽生えていた。
ポケットの中には、あの300円のナイフが忍ばせてある。
サキも、そして学校中の美少女たちも。全員をこの「皮」という名の至高のコレクションに変えてしまえば、どんなに楽しいだろうか。
「ねえサキ、カラオケの前に……ちょっと私の部屋、寄っていかない? 面白いもの、買ったんだ」
美優(結城)の妖艶な微笑みに、サキは何の疑いも持たず、「え、いいよー!」と笑顔で応えた。
ナイフ一つで始まった、この狂った蹂虙劇。
結城の新しい、そして眩いばかりの「女子高生ライフ」は、まだ幕を開けたばかりだった。
カチャリ、と結城は背手でドアの鍵を閉めた。
狭いワンルームには、先ほどまで行っていた「実験」の痕跡――散乱したクッションや、出しっぱなしの電動マッサージ器――がそのままになっている。
「え、なにこれ? 美優、部屋めっちゃ散らかってんじゃん。ていうか、なんかエロイおもちゃ落ちてない?」
サキが床に転がるピンク色のローターを指差して、意地悪そうにニヤニヤと笑う。
結城は美優の顔で、少し頬を赤らめる演技をした。
「もう、見ないでよ! ちょっと……いろいろ試してたの」
「へー、美優もムッツリだねぇ。で、見せたいものって?」
サキは興味津々といった様子で、部屋の中を見回している。
結城はポケットから、あの赤い柄のナイフを取り出した。
「これだよ。リサイクルショップで見つけたんだけど、すごいんだ」
「は? 何そのおもちゃのナイフ。子供の戦隊モノ?」
サキは拍子抜けしたように鼻で笑った。警戒心など微塵もない。無防備に近づいてくるその白い首筋を見つめ、結城の入った美優の体は、ゾクゾクと震えた。
「ただのおもちゃじゃないよ。……魔法のステッキみたいなものかな」
「意味わかんない。魔法少女にでもなるつもり?」
サキが手を伸ばし、ナイフに触れようとしたその瞬間。
結城は手首を返し、サキの伸ばした腕を軽くなぞるように切りつけた。
「えっ……?」
痛みはないはずだ。だが、サキは異変に気づき、動きを止めた。
刃が触れた手首から、ジジジ……という音と共に、銀色のファスナーが走る。それは瞬く間にサキの腕を駆け上がり、脇を通り、制服の脇腹に沿って足先まで一気に到達した。
「な、なにこれ……線? チャック……?」
サキが慌てて自分の腕をさする。だが、その手は自分の肌の感触を捉えることはなかった。
プシュウゥゥゥ……。
美優の時と同じ、空気が漏れるような音が部屋に響く。
「うそ、力が……なんか、抜ける……美優、たすけ……」
サキの膝がガクンと折れる。
支えを失った体は床に崩れ落ちるが、その落ち方は人間のそれではない。まるで脱ぎ捨てられた衣服のように、ふわりと、そしてペシャンと潰れるように倒れた。
中身が急速に消失していく。豊かな胸の膨らみも、引き締まったウエストも、スカートの中の健康的な太ももも。すべてが「厚み」を失い、床に張り付く一枚の絵画のようになっていく。
「あ……あ……」
サキの唇が微かに動いたが、声にはならなかった。
そして、完全に空気が抜けきった。
床には、サキの姿をした「抜け殻」だけが残された。
「……ふふ、あはははは!」
美優(結城)は、高らかな笑い声を上げた。美優の声帯から発せられる笑い声は、狂気を含んでいてもなお鈴のように愛らしい。
結城はしゃがみ込み、サキの皮をつまみ上げた。
「軽い……。サキも、結構いい素材使ってるじゃん」
ペラペラのサキを広げてみる。美優よりも少し背が高く、肌の色は健康的な小麦色に近い。
美優の皮が「しっとりモチモチ」系だとすれば、サキの皮は「すべすべサラサラ」系だ。素材としての質感の違いに、結城はマニアックな喜びを感じた。
「さて……。このまま畳んでしまっておくのも勿体無いな」
結城は部屋を見渡した。
クローゼットの奥に、客用の布団圧縮袋に入ったままの予備の羽毛布団と、ビーズクッションがあるのを思い出した。
「サキ、お前には私の『専属メイド』になってもらうよ」
結城はサキのファスナーを全開にした。裏地は鮮やかなピンク色で、内側からもサキの匂いが立ち込める。
彼はそこに、先ほどまで床に転がっていた強力なバイブを一つ、放り込んだ。
そして、遠慮なくファスナーを一気に引き上げた。
ジジジッ……。
ファスナーが閉まりきった瞬間、ペラペラだったサキの皮がボンッ!と音を立てんばかりの勢いで膨らんだ。
手足の先から髪の毛の一本一本に至るまで、サキの肉体が完全に空間に再構成される。
詰め物など一切していないのに、そこには質量と体温を感じさせる眼を閉じたサキが横たわっていた。
「すごいな、本当に……。手間いらずで助かるよ」
結城は中に入れたバイブのスイッチを、リモコンでオンにした。
ブゥゥゥゥン……。
体内の空洞で反響する振動によって、サキ人形が微かに、しかし全身で震え始める。
中身はバイブ一つ。他は空っぽのはずだが、外側からはそんなことは微塵も感じさせない。
ただ、その振動がまるで恐怖に震えているようにも、悦びに打ち震えているようにも見えた。
美優(結城)は、サキ人形を抱き起こし、部屋の隅にある椅子に座らせた。
そして、その膝の上に自分の足を乗せた。
「うん、いい眺めだ」
鏡に映るのは、椅子に座らされた虚ろな目の美少女(サキ人形)と、その膝に足を乗せて傲慢に微笑む美少女(美優・中身は結城)。
傍から見れば、仲の良い女子高生二人の戯れに見えるかもしれない。だが、片方は中身が男で、もう片方は中身がゴミだ。
この異常な空間に、結城は背筋がゾクゾクするほどの興奮を覚えた。
「ねえサキ、喉乾いたな。……なんてね、動けないもんね」
結城は立ち上がると、サキ人形の後ろに回り込み、その首筋に顔を埋めた。
皮特有の、ゴムと人肌の中間のような匂いを深く吸い込む。
「これからはずっと一緒だよ、サキ。私が飽きるまで、この部屋で最高のインテリアとして可愛がってあげる」
結城はサキ人形の制服のボタンを外し始めた。
これから始まるのは、女子高生同士の「おままごと」だ。
ただし、使われるのはおもちゃのナイフと、本物の人間の皮。
美優としての生活、そしてサキという極上の着せ替え人形。
結城の欲望は留まるところを知らず、次の獲物を求めて黒く渦巻き始めていた。
次は誰を「コレクション」に加えようか。クラスの担任か、それとも美優の憧れの先輩か。
美優のスマホの連絡先リストをスクロールさせながら、結城は邪悪な笑みを浮かべた。
――数日後。
結城の部屋には、モーター音とプラスチックが擦れるような音が響いていた。
ウィーン、カシャッ。ウィーン、カシャッ。
「あはは! サキ、お手!」
美優の姿をした結城は、ベッドの上で足を組み、床を這い回る「親友」を見下ろして笑っていた。
そこには、制服姿のサキがいた。
彼女は四つん這いの姿勢をとっていた。だが、それは人間のハイハイとは明らかに違っていた。
手足の運びが機械的に正確すぎ、関節の動きもカクカクとしていて硬い。まるで精巧に作られたからくり人形が、獣の動きを模倣しているかのようだ。
結城は、サキの中身を入れ替えたのだ。
中に入っているのは、以前リサイクルショップでなんとなく買った、中古の「犬型ロボット」のみ。
「設定通りだな。『電池・バッテリー式の機械をいれると、その機械として動作する』……」
サキの皮のファスナーを開け、犬型ロボットを放り込んで閉じただけ。
それだけで、サキは「四足歩行する人間ペット」として起動した。
サキの体は、中の犬型ロボットの概念をトレースしていた。
ロボットが足を前に出すと、サキの腕や脚もそれに連動して前に出る。
時折、首を傾げるような動作をすると、サキの頭もコクリと可愛らしく傾く。
「ワン!……とは言えないか。でも、その口の動きは可愛いよ」
犬型ロボットが鳴き声を上げるタイミングで、サキの口もパクパクと動く。音は出ないが、無言で何かを訴えかけるような表情が、むしろ哀れで愛おしい。
結城はベッドから降りると、四つん這いのサキの前にしゃがみ込んだ。
「よしよし、いい子だね」
頭を撫でてやると、サキ(犬ロボット)は内蔵センサーが反応したのか、嬉しそうに腰を振った。
人間の美少女が、四つん這いで尻を振り、飼い主に媚びている。
その背徳的な光景に、結城の股間は熱くなった。
「人間だった頃より、今のほうがずっと素直で可愛いよ」
結城はサキの顔をそのまま足で踏みつけた。
柔らかい感触。抵抗しない肉体。
踏まれてもなお、サキは尻尾を振るように腰を揺らし続けている。
その時、結城はふとサキの背中に目をやった。
先ほど閉めたはずのファスナーの銀色のラインが、見る見るうちに薄くなり、肌のキメと同化して消えていく。
数分も経たぬうちに、制服の背中越しに見えるうなじから下には、元から継ぎ目などなかったかのような、自然な肌が広がっていた。
「へえ……時間が経つとファスナーが消えるのか。これなら、外で見られてもバレないな」
結城は自分の背中にも手を回してみた。美優の皮の背中も同様に、ファスナーの感触は消え失せ、完全に「自分の肌」になっていた。
完璧だ。このナイフの力は、想像を遥かに超えている。
「さて……もっと色々試してみるか」
サキの中身を犬型ロボットから取り出し、別のものを試すことにした。
ファスナーの跡は消えていたが、開けようと念じながら指で背中をなぞると、再び銀色のラインが浮き出て、ジジジ……と簡単に開いた。このあたりの利便性も素晴らしい。
中身を取り出し、再びペラペラになったサキの皮。
結城はキッチンから、ジュースを作るための電動ミキサーを持ってきた。
サキの胴体にミキサーの土台部分を放り込み、スイッチをオンにして閉じる。
ウィィィン!!
サキの腹部から激しい回転音が響き、全身が振動マシンに乗ったようにブルブルと震えだした。口からは「ガガガガ」という機械の駆動音が漏れる。
「あはは! これ、腹踊りかよ」
次は電気ケトル。水を入れてお湯を沸かすスイッチを入れ、体内へ。
ボコボコボコ……。
次第にサキの肌が熱を帯びてくる。人間なら火傷するレベルの熱湯が中にあるはずだが、皮だけのサキは平気だ。表面からは、人肌よりも少し熱い、心地よい温もりが伝わってくる。
「冬場には最高の湯たんぽだな。抱いて寝るのにちょうどいい」
温かいサキを抱き枕にして、結城は悦に入った。
だが、単なる家電では「反応」が乏しい。もっと知性があり、自分に従順な人形が欲しい。
結城はリビングにあるスマートスピーカーに目をつけた。
「これだ……」
彼はサキの中身を再び空にし、スマートスピーカーだけを放り込んで閉じた。
「OK、Google。今何時?」
結城が話しかけると、サキの唇が動いた。
『現在、午後8時15分です』
驚いたことに、それはスマートスピーカーの機械音声ではなく、紛れも無いサキの声だった。
「なるほど……。中に入れた機械の出力は、皮の声帯を通して『その人の声』に変換されるのか」
スピーカーから出る電子音が、サキの喉の構造を通ることで、生身の人間が喋っているような自然な肉声として再生されているのだ。
これなら、電話越しどころか、対面でもごまかせるかもしれない。
「最高じゃないか……」
結城はサキ(スマートスピーカー内蔵)の頭を撫でた。
「サキ、愛してるって言って」
『すみません、よくわかりません』
「ちっ、融通が利かないな。……まあいい、調教のしがいがある」
結城はスマホを取り出し、スマートスピーカーの設定アプリを開いた。
ルーティン設定で、特定の言葉に対して好きなフレーズを返させるように変更する。
「サキ、俺のこと好き?」
一拍置いて、サキの口から設定通りの言葉が紡がれる。
『はい、ご主人様。大好きです。私はあなたの性処理用メイドです』
サキ本人の甘い声と、うつろな瞳。
それこそが、結城の求めていた「絶対服従の恋人」だった。
「面白い……。これなら、もっと色々なことができるぞ」
結城は実験を続けた。
まずは実用的な機能からだ。
「サキ、明日の天気は?」
『明日の天気は晴れ、最高気温は25度です』
サキが天気予報を読み上げる。ただ突っ立って無表情で天気を教える女子高生。シュールだが便利だ。
「サキ、音楽かけて」
『はい、Spotifyから人気チャートを再生します』
サキの口から、流行りのJ-POPが流れ出した。
だが、それは単なる再生ではない。サキの声色でカバーされた、アカペラのような歌声となって響いている。
スピーカーの信号が声帯を震わせ、まるで彼女自身が歌っているかのように聞こえるのだ。
「サキ、タイマー3分」
『3分後にアラームをセットしました』
カップラーメンを作るのにも使える。
結城はさらに、アプリの「ルーティン」機能を駆使して、サキに人格を植え付け始めた。
挨拶、肯定、否定、笑い声、謝罪。
日常会話で使いそうなフレーズを、すべて定型文として登録していく。
「おはよう」→『おはよう、結城くん!』
「元気?」→『うん、元気だよ! そういう結城くんは?』
「可愛いね」→『えへへ、照れるなぁ』
数時間の格闘の末、サキは「なんとなく会話が成立するレベル」の自動人形へと進化した。
「よし……これならいけるかもしれない」
結城の中で、無謀な計画が持ち上がった。
このサキ(スマートスピーカー内蔵)を、学校に連れて行くのだ。
中身が機械だとバレずに一日を過ごせるか。究極のスリルを味わえるゲームだ。
* * *
翌朝。
美優の皮を被った結城は、サキを連れて登校した。
サキはAIの制御で、結城のあとを一定の距離を保ってついてくる。歩き方は多少機械的だが、ローファーを履かせてしまえば、少し足を引きずっている程度にしか見えない。
昇降口で、クラスメイトの男子がサキに声をかけた。
「ようサキ! 昨日の宿題やった?」
結城は緊張で息を呑んだ。
サキ(スピーカー)が、音声認識を開始する。
『……』
一瞬のラグ。クラウド上で音声が解析され、最も適切な回答が選択される。
『えへへ、忘れちゃった!』
サキの口から、明るく自然な声が発せられた。
本人の声帯を使っているため、イントネーションの違和感は多少あるものの、地声の可愛らしさで十分にカモフラージュされている。
「ははっ、マジかよ。しょうがねーな」
男子生徒は何も疑わず、笑って去っていった。
「……やった。いける!」
結城は心の中でガッツポーズをした。
スマートスピーカーのAIは優秀だ。曖昧な返事や、汎用性の高い相槌を登録しておけば、大抵の会話は乗り切れる。
教室に入ると、さらに難易度が上がった。
女子グループの会話だ。
「ねえサキ、このリップ可愛くない?」
『すごーい、かわいいー』
「だよねー! てか、昨日のドラマ見た?」
『うん、見たよー』
「あの主人公マジむかつかない?」
『わかるー、ありえなーい』
サキは虚ろな目で前を見つめたまま、機械的に相槌を打ち続ける。
女子高生の会話特有の「中身のない共感」が、皮肉にもAIの回答パターンと完璧にマッチしていた。
誰も、サキの中身が小さなスピーカー一つだとは気づいていない。
結城(美優)は、その様子を離れた席から眺めながら、湧き上がる笑いを噛み殺していた。
「滑稽だなあ……。みんな、スピーカー相手に真剣に話してやんの」
サキは時折、Wi-Fiの電波状況が悪くなって「すみません、接続できません」と言いそうになるが、そこは結城がすかさずスマホから遠隔操作で修正する。
授業中も、サキは教科書を開いたまま微動だにしない。
教師に当てられた時は、結城がこっそり送信したテキストを読み上げさせる。
『答えは、徳川家康です』
「正解だ。よく予習してるな」
完璧だ。
サキは「少しボーッとしているが、優等生な美少女」として、学校生活に溶け込んでいた。
その体の中身が、スカスカの空洞であることも知らずに。