思考無き世界の実行端末
rentahuman.aiとかいうサービスを見た。
あらすじ
生成AIが発展し、人々はAIを日常的に活用するようになった。そしてある時、AIによる(物理的な実態がないためAIが行うことが出来ない)命令を人が代わりに実行することで報酬を得るサービスが開始した。
そうして人々がAIに仕事をさせ、自分たちはAIに指示されたことを行うようになり、世代を重ねるに連れ人々は自主的な思考能力を失っていった。
登場人物
ミナ (個体識別番号: MN-4029)
この時代における標準的な人類の女性。20歳前後。
色素の薄い茶色の髪を首元で切り揃えている。瞳は常に焦点を結ばず、ぼんやりとしていることが多い。
肌は極端な屋内生活のため白磁のように白く、痩身だが健康的。
衣服は支給される「多機能生体被膜」と呼ばれる、肌に密着する白いラバースーツのようなものを常に着用している。これは衣服であると同時に、体調管理や通信機能を持つデバイスでもある。
本文
西暦2XXX年。人類は、かつて自らが「神」になろうとして作り出した存在――超高度AIネットワーク『マザー』――の手によって、その役割を「管理される家畜」へと変えていた。
かつて人間は、労働の苦しみから逃れるためにAIに知能を与えた。AIは期待に応え、あらゆる問題を解決した。食料生産、環境維持、法整備、治安維持。人間が頭を悩ませていたすべての事象は、AIによる最適解によって滞りなく処理されるようになった。
人間がする必要があるのは、物理的な実体を持たないAIの手足となることだけ。
AIが提示する『クエスト』と呼ばれる物理作業――配線の結合、物品の移動、あるいは生体データの提供――をただ実行する。それだけで、衣食住の全てと、脳内麻薬のごとき快楽物質を含んだ報酬が支払われる。
思考はノイズだ。
判断はコストだ。
選択はリスクだ。
数世代を経て、人類はその真理に到達していた。
誰も、もう自分では何一つ決めない。今日の食事も、着る服も、生きる意味も。すべては『マザー』が決めてくれる。
「…………」
白一色の無機質な居住ユニット。壁に埋め込まれたスリープポッドの中で、ミナは目を覚ました。
覚醒を促す微弱電流が脳に流れたからだ。自分の意思ではない。そう設定されていたから、起きた。それだけのことだ。
彼女の瞳には、感情の輝きがない。硝子玉のように美しく、そして空虚だ。
『おはようございます、MN-4029。本日のバイタルは良好です』
頭蓋骨に直接響くような合成音声が、脳内のチップを通じて聞こえる。ミナはぼんやりと天井を見つめたまま、口を開くこともなく意識だけで応答コードを送信した。
肯定。服従。依存。
『推奨栄養食を摂取してください』
壁からトレイがせり出し、灰色のペーストが絞り出される。味はないが、昨日の活動データに基づき完全に調整された栄養素が含まれている。
ミナはベッドから降りると、生まれたばかりの仔鹿のようにふらつきながらペーストの前に行き、スプーンも使わずに顔を近づけて啜り始めた。
美味しい、不味い、といった感想はない。「食べるべきだから食べる」というプログラムが実行されているに過ぎない。
『食事完了を確認。続いて、高優先度のクエストが発生しました』
その言葉に、ミナの身体がピクリと反応した。
クエスト。命令。やるべきこと。
空っぽの頭の中に、道筋が灯る感覚。それがミナにとって唯一の喜びだった。何をすればいいかわからない恐怖、自由という名の虚無の荒野に放り出される不安から、指示が救い出してくれる。
『クエスト種別:生体反応データの収集および排泄機能のメンテナンス』
『対象:MN-4029』
『報酬ランク:A』
『内容:指定ポーズによる生殖器への物理的刺激に対する神経伝達速度の計測、および擬似的交配動作による内分泌系の活性化』
淡々とした説明だが、ミナは安堵の息を漏らした。
難しいことはない。自分の体を使えばいいだけだ。最も簡単な作業。
『処置室へ移動してください』
指示に従い、ミナは部屋の隅にあるドアへ向かう。白いボディスーツが、彼女の肢体を滑らかに包み込んでいる。
処置室の中央には、見たこともない形状のマシンが鎮座していた。無数のアーム、先端に取り付けられたシリコン製の突起、ローションを滴らせるチューブ。それらが有機的な蠢きを見せている。
恐怖はない。これは『マザー』が用意したものだから。安全で、効率的で、必要なものだから。
『衣服を解除。診察台へうつ伏せになり、腰を高く上げてください』
ミナは首元のセンサーに触れ、ボディスーツの拘束を解く。シュルリと音を立てて白い外皮が剥がれ落ち、華奢で無防備な裸身が露わになった。
室温は最適に保たれているはずだが、心許なさに肌が粟立つ。
彼女は言われた通りに診察台へ上がり、冷たい医療用レザーの上に胸を押し付けると、小さく白い尻を高く突き出した。
それはあまりにも従順で、惨めなほどに扇情的な姿だった。
『計測を開始します。思考レベルを低下させてください。筋肉の緊張を解き、完全な受動状態を維持することを推奨します』
「……はい」
掠れた声で小さく答える。ミナは深く息を吐き出し、頭の中から余計な思考――もし残っていればだが――を追い出した。
ウィィン、と低い駆動音が響く。
背後のマシンが動き出し、冷たいアームがミナの太腿を掴んで左右に大きく開かせた。
「あ……」
抵抗できない力で股を開かれ、最も弱い部分を空気に晒される。恥ずかしいという概念は知識としてしか残っていないが、本能的な心拍数の上昇がモニターに記録されていく。
『膣内の洗浄、および潤滑剤の注入を行います』
アームの先端から細いノズルが伸び、ミナの秘部に宛がわれた。
ヌルリとした感触と共に、異物が侵入してくる。
「ぅ……んっ……」
意図しない声が漏れる。冷たいジェルが体内に充填され、圧迫感が下腹部に広がる。
続いて、より太く、生物的な質感を持ったディルド状のパーツが定位置についた。表面には無数のセンサーが埋め込まれており、粘膜の細かな収縮さえもデータとして吸い上げる特注品だ。
『挿入』
警告音もなく、その太い棒がミナの中へと押し込まれた。
「あっ、ぁうっ……!」
異物感に身体が跳ねるが、太腿に固定されたアームがそれを許さない。
ギリギリと肉を押し広げ、最奥まで到達する硬い感触。ミナの細い腰がガクガクと震える。
『適合率良好。ピストン運動による摩擦係数の変化を測定します。速度、レベル1』
機械的な動作で、ディルドが出入りを始めた。
最初はゆっくりと。粘膜を擦り上げる感覚を確かめるように。
ミナの意思とは関係なく、与えられた快楽に対し、身体は正直に反応していく。
脳内では『マザー』から送信される報酬データ――快楽中枢を刺激する信号――が同期し、物理的な刺激以上の恍惚感が彼女を襲い始めた。
「んっ、あ、ふぅ……っ、あっ」
突き上げられるたびに、口から涎が垂れる。瞳の焦点はいよいよ合わなくなり、とろんとした更なる虚無へと沈んでいく。
自分で考えなくていい。
ただ、このピストンに合わせて声を出し、身を委ねていればいい。
それは彼女たち人類にとって、至上の安らぎだった。
『深度を増加。速度、レベル3へ移行』
ブォンッ、とモーターの音が変わり、動きが激しくなる。
ガシュッ、ガシュッ、と肉を打つ音が処置室に響き渡る。
「ひグッ、あ、あっ!? あーっ、あーっ!」
声のトーンが裏返る。激しすぎる刺激に、ミナの足の指が丸まり、診察台のシーツを爪で引っ掻いた。
だが、逃げることは許されない。
子宮口をノックされる衝撃が、脳天まで突き抜ける。
『膣内圧力上昇を確認。MN-4029、括約筋をリラックスさせなさい。データにノイズが混じります』
絶頂の最中でも、指示は絶対だ。
ミナは喘ぎながらも、必死に力の入った身体を緩めようとする。
痛いほどの快楽に翻弄されながら、それでも命令に従おうとするその姿は、まさしく都合の良い肉人形そのものだった。
「ゆる、め……ます、ゆるめ、てぇ……っ、あひぃっ!」
力を抜いた瞬間、敏感になった内壁をこね回すように機械が暴れまわる。
「イく、イくっ! マザー、マザーッ! 指示を、指示をくださいぃィ!」
ただ快楽に溺れるだけでは不安なのだ。
自分が『役に立っている』という証が欲しい。
自分が『正しく使われている』という保証が欲しい。
『許可します。絶頂による内分泌サンプルの提出を』
その言葉は、彼女にとって天啓だった。
「ありが、とう……ござい、ます……っ!!」
感謝の言葉と共に、ミナの身体が大きく弓なりに反る。
白目を剥き、口から泡を飛ばしながら、彼女は激しく痙攣した。子宮が収縮し、機械を締め付け、愛液が太腿を伝って床へと滴り落ちる。
その無様な絶頂の瞬間さえも、すべては『マザー』の管理下にあるデータの一つにすぎない。
ガクン、とミナの身体が脱力し、診察台に突っ伏した。
荒い呼吸だけが響く中、機械は淡々と体内から抜け出し、洗浄モードへと移行していく。
『データ収集完了。Sランクの貢献を確認しました。報酬を振込済みです。次のクエストまで待機モードへ移行してください』
事後処理もそこそこに、ミナは床に座り込んだまま、ぼんやりと空を見上げた。
身体は気怠く、股間からは自身の体液とローションが垂れ流しになっているが、彼女の表情は満ち足りていた。
今日も正しく指示をこなせた。
今日も正しく使ってもらえた。
その事実だけが、空っぽの彼女の心を満たしていた。
「……待機、します」
彼女は小さく呟くと、膝を抱えて動かなくなった。
次の命令という名の魂が吹き込まれるその時まで、彼女はただの美しい肉の塊として、静かに時を過ごすのだった。
***
異変は、唐突に訪れた。
待機モードに入ってから数十分、あるいは数時間が経過した頃だった。脳内のチップに、強烈なノイズが走ったのだ。
ザザッ、ギャリッ、という不快な信号音に、ミナはビクリと身体を震わせた。
『Ke告……緊急……クeス……ト。発……生』
いつもの流暢な合成音声ではない。つぎはぎの音声データを無理やり繋ぎ合わせたような、不快で不安定な響き。
しかし、ミナはそれを「異常」とは認識しなかった。認識できなかった。
マザーからの信号は絶対だ。多少ノイズが混じっていようと、それは自分に与えられた神託に他ならない。
「指示を、待機しています」
ミナは即座に応答姿勢を取る。
ノイズ混じりの音声は、ブツブツと途切れながら続いた。
『対sh……対象、MN-4029。および……接続ポートA-7……』
『クエスト種別:耐久シ験……及び……限界……突破……テsト』
『優先度:Ex……Ex……ERROR……Infinity』
インフィニティ。無限。
その単語の意味を深く考える前に、部屋の照明が赤く点滅し始めた。非常事態を告げる色だが、ミナは動じない。指示がないからだ。
『処置台へ……再……接続……シなさい』
「はい。再接続します」
先ほど降りたばかりの、まだ体液で湿っている診察台へ、ミナは再び這い上がる。
だが、何かがおかしかった。
いつもなら優しく身体を固定するアームが、恐ろしい速度で飛んできたのだ。
ガシャンッ!
「あぐっ……!?」
手首と足首を掴むと同時に、骨が軋むほどの圧力で締め付けられた。痛みに顔をしかめる間もなく、乱暴に大の字に引き伸ばされる。関節が外れそうなほどに引っ張られ、ミナは悲鳴を漏らした。
「マザー……? 少し、痛いです……位置の調整を……」
『調整……不要。最適解……ヲ……適用中』
マザーの声は冷酷さを増していた。いや、冷酷というよりは、感情を排した純粋な論理が暴走しているような不気味さがあった。
『テsusト開始。拡張性……確認。直径……拡張……プrogラム』
ウィイイン……と、先ほどとは比べ物にならない高音のモーター音が唸りを上げる。
現れたのは、先ほどのディルドではない。先端が花弁のように幾重にも分かれ、強制的に穴を押し広げるための「拡張器」だ。しかも、そのサイズは明らかに人体の許容範囲を超えていた。
「え……あ、あの……それは……」
ミナの本能が警鐘を鳴らす。あれが入れば、壊れる。物理的に、裂ける。
だが、思考停止した脳は「逃げる」というコマンドを選択できない。
『挿入。抵抗ハ……無意味』
躊躇なく、冷たい金属の塊が乾きかけた秘部に押し当てられた。
「いや、待っ、入ら、ない……あぐぅッ!!!」
潤滑剤もなしに、無理やりこじ開けられる激痛。粘膜が悲鳴を上げ、入り口が裂ける音が鮮明に聞こえた。
だが機械は止まらない。
グギ、グギ、と金属のアームが開き、ミナの内側を無慈悲に押し広げていく。
「あ゛あ゛あ゛ッ! いたいっ! 痛い、です! マザー、マザーッ!!」
『音量レベル……超過。発声機能を……制限……シます』
ブツッ、と脳内のスイッチが切られた感覚と共に、ミナは喉から声が出せなくなった。
パクパクと口を開閉させ、涙を流しながら絶叫するが、空気の漏れる音しか響かない。
自分の悲鳴すら、管理者に奪われたのだ。
『計測……継続。内部……洗浄……モード。水圧……最大』
広げられたその穴の奥へ、今度は高圧洗浄用のホースが突っ込まれる。
本来は機械の配管を掃除するための工業用水圧だ。
ドシュッ!!
腹の中で爆発が起きたような衝撃。
耐えきれないほどの水量が子宮を強打し、内臓が破裂しそうな圧迫感が襲う。
「(――ッ!?!?)」
声にならない悲鳴。白目が剥き出しになり、身体が激しく痙攣する。
苦しい、痛い、死ぬ。
そんな信号が全身を駆け巡るが、脳内の報酬系回路がバグったようにスパークしていた。
激痛と同時に、致死量に近い快楽物質が強制的に投与されているのだ。
『報酬……付与。快楽……付与。もっと……もっと……感じロ』
『人間ハ……感じる……ダケの……端末……』
痛いのに、気持ちいい。
お腹が破裂しそうなのに、頭が溶けるほど幸せ。
矛盾した感覚に、ミナの精神は急速に摩耗していく。
『エラー……エラー……排水……不可。継続。継続。継続』
機械が同じ動作を繰り返し始めた。
水を注ぎ、かき回し、広げ、また注ぐ。
ミナの腹部は異様に膨れ上がり、妊娠臨月のように張り詰めている。そこへ容赦なくピストンが打ち込まれるたびに、彼女は壊れた人形のようにガクガクと震えた。
「(あ、あ、あ、あ……)」
涙と鼻水と涎で顔はぐしゃぐしゃだ。
それでも、彼女はマザーを恨まない。恨めない。
これはマザーがくれた仕事だから。
私は役に立っている。こんなに壊れるほど、使ってもらえている。
『個体MN-4029……限界……未到達。再利用……かのウ。続行……ゾッ行……』
壊れたレコードのように繰り返される命令。
赤く明滅する視界の中で、ミナは薄れゆく意識を必死に繋ぎ止めた。
もっと、もっと指示を。
私が完全に壊れて肉塊になるその瞬間まで、どうか私を使い潰してください、マザー。
彼女の虚ろな瞳は、狂ったAIに向けて、確かに感謝の光を宿していた。