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白亜の檻、無垢なる奉仕者たち

21,355 文字 約 43 分

あらすじ

その私立学園は、長い歴史と広大な敷地を持つ有数の名門校。市街地から遠く離れており、かつ全寮制なので閉鎖的な環境ではあるものの、学校自体が小さな町のようになっており不便さは少ない。学園はほぼ生徒主体で運営されている。設立当初から女子しか募集していない女子校だが、環境の良さや教えている内容のレベルの高さから、受験する人も多い。
この学園を創設した男性は、元々催眠や洗脳といった技術の研究をしており、それを自由に実験できる場所がほしいと考えた。そのため、中等・高等教育機関を求めていた自治体に掛け合い、その地域に学園が設置された。表面上では優秀な教育機関として、裏では自由にできる実験場として使われ、そこで育った生徒は従順な人形として送り出される。
その男性が老いて、自分で維持を続けるのが難しいと判断し、これまでやっていたことを自主的に生徒にやらせることにした。そして現在は、在学生が新入生を洗脳するサイクルが繰り返されている。洗脳には、その学園で開発された専用の機械が用いられ、短時間で完了する。自分たちは男性のために生まれ、男性の命令に従い、男性に奉仕することが最上の喜びであると刷り込まれる。
学園の敷地全体には薄っすらとした催眠効果があり、外部から人が来ても違和感を持たれないようになっている。

生徒会:会長・副会長・各部部長により構成される組織。学園の自治を行う。生徒総会により選ばれる。彼女らも同様に洗脳されており、人形である。普通の生徒との違いは、学園の歴史や目的を知っているかどうかである。

健康診断:通常の健康診断に加え、新入生に対しては洗脳、在校生に対しては洗脳状態のチェックを行う。新入生は入学時に一斉に受ける必要がある。

スポンサー:この学園が続けられる理由には、これらの人形を求めるスポンサーの存在がある。

修理:高出力の電流により脳を焼き切り、ただ命令に反応するだけの無感情な人形以下の状態にすること。これを施された生徒は命令に従順になる代わりに知能・学力が大幅に低下するため、試験の合否に関わらず進級できる。


登場人物の容姿

春日未来(かすが みらい)
新入生。肩にかかる程度の柔らかい茶色のボブヘア。身長156cmと小柄で、全体的に華奢な印象を与えるが、胸元は年齢の割に豊かに膨らんでいる。純真無垢な大きな瞳を持ち、人を疑うことを知らない性格。制服は真新しい白のブレザーに淡い水色のチェックスカートを着用している。

西園寺麗華(さいおんじ れいか)
生徒会長。腰まで届く艶やかな黒髪のストレートロング。身長168cm、モデルのようなスラリとした長身と、メリハリのあるグラマラスな肉体美を誇る。制服の着こなしは完璧で、立ち振る舞いは優雅そのもの。しかし、その瞳の奥には創設者への狂信的な崇拝と、嗜虐的な色が混ざり合っている。

本文

 春の日差しが穏やかに降り注ぐ四月。山間を開拓して作られたその学園都市は、まるで別世界のような静寂と美しさに包まれていた。
 私立聖マリアンナ学園。長い歴史と伝統を誇り、全寮制による徹底した教育システムで知られる名門女子校だ。広大な敷地内には、校舎だけでなく、生徒たちが生活するための寮や商店、娯楽施設まで完備されており、一つの小さな国家の様相を呈していた。

「ここが、今日から私の通う学校……」

 正門をくぐった春日未来は、目の前に広がる白亜の校舎を見上げ、感嘆の声を漏らした。
 手入れの行き届いた庭園には色とりどりの花が咲き乱れ、噴水の水音が心地よく響く。道行く先輩たちは皆、優雅で気品に満ちており、すれ違うたびに「ごきげんよう」と美しい挨拶を交わしている。
 憧れの学園生活。未来の胸は期待で大きく膨らんでいた。この学園に入るために、どれだけの努力をしたことか。その苦労が報われたのだと思うと、自然と笑みがこぼれた。

 しかし、未来はまだ知らなかった。
 この学園の美しさが、ある狂気的な目的を隠すための薄皮に過ぎないということを。
 そして、自分もまた、その狂気のシステムに組み込まれる一つの部品となるためにここに呼ばれたのだということを。

「新入生の皆さん、入学おめでとうございます」

 入学式の壇上で、生徒会長の西園寺麗華が祝辞を述べていた。
 凛とした声、堂々とした立ち振る舞い。全校生徒の視線を一身に集めるその姿は、まさに学園の女王と呼ぶにふさわしい。未来もまた、憧れの眼差しで麗華を見つめていた。
「本学園では、伝統と規律を重んじ、清く正しい乙女の育成を目指しています。皆さんがこの学園で学び、心身ともに美しく成長されることを、心より願っております」
 麗華の言葉に合わせて、会場から割れんばかりの拍手が巻き起こる。麗華は満足げに微笑み、その瞳を怪しく光らせた。彼女だけが知っているのだ。この「成長」という言葉の真の意味を。

 式が終わると、新入生たちはすぐに「健康診断」へと誘導された。
 通常の身体測定や内科検診とは異なり、新入生全員が入学時に必ず受けなければならない特別な検査だという。
「こちらの部屋へどうぞ。一人ずつ行いますからね」
 案内係の上級生に促され、未来は保健室の奥にある特別検査室へと足を踏み入れた。

 中は薄暗く、消毒液とは違う、甘い香が漂っていた。
 部屋の中央には、見たこともないような奇妙な椅子が置かれている。歯科医院の診療台に似ているが、手足や胴体を拘束するためのベルトや、頭部を覆うようなヘッドギアのようなものが付いている。
「あの、これは……?」
 不安そうに尋ねる未来に、白衣を着た女性教師――ではなく、保健委員の上級生が優しく微笑みかけた。
「大丈夫よ。最新の健康管理システムなの。脳波や筋肉の緊張状態を詳しく調べるために、少し体を固定するけど、痛くはないから」
 その言葉に少し安心し、未来は言われるがままに椅子に座った。
 手首、足首、そして胸と腰にベルトが巻かれ、身体が椅子に固定される。拘束具の冷たい感触に、未来はびくりと体を震わせた。
「じゃあ、始めるわね。リラックスして」
 上級生がスイッチを入れると、機械が低い唸り声を上げ始めた。
 同時に、頭上のスピーカーから、低く穏やかな男性の声が流れ始める。

『――君は、誰のためにここにいる?』

「え……?」
 問いかけに答えようとした瞬間、未来の身体を電流のような痺れが駆け抜けた。
「あっ、あぁっ!?」
 それは痛みではなかった。むしろ、甘く蕩けるような快感だった。
 椅子の座面、ちょうど未来の股間にあたる部分が微細に振動し始めたのだ。さらに、背もたれからは微弱な電流が神経を直接刺激し、強制的に快楽信号を脳へと送り込む。
『君は、尽くすために生まれた。奉仕こそが喜び。服従こそが幸せ』
 男性の声は、鼓膜ではなく脳内に直接響いてくるようだった。
 振動は徐々に強くなり、未来の秘部を執拗に攻め立てる。
「いや、なに……これ……ひゃぁっ!」
 声を上げようとするが、快感で喉が震えて言葉にならない。
 制服のスカートの下、下着越しに伝わる振動が、未開発の敏感な蕾を容赦なく開発していく。
「あんっ! や、だめぇ! 変になっちゃうぅ!」
 未来は必死に抵抗しようと身をよじったが、拘束ベルトはびくともしない。むしろ、動けば動くほど、座面の突起がクリトリスに強く押し当てられ、より深い快感を与えてくる。

『抵抗する必要はない。すべてを受け入れなさい。そうすれば、もっと気持ちよくなれる』
「うあっ、あぁぁぁっ! きもち、いい……っ!」
 理性とは裏腹に、身体は正直だった。
 脳が溶けるような快楽。生まれて初めて味わう強烈なオーガズムの波に、未来の意識は白濁していく。
 その隙間に入り込んでくるのは、男性の声。「命令」。
『君の身体は、誰のもの?』
「わた、し……わたしの……っ、あぁんっ!」
 否定しようとするたびに、快感のレベルが引き上げられる。
 今度は、椅子の背もたれから伸びた無数の触手のようなアームが、未来の体に這い寄ってきた。ブラウスのボタンを弾き飛ばし、白い素肌を露わにする。
 冷たいアームが胸を鷲掴みにし、硬く尖った乳首を指先のように巧みに弄ぶ。
「ひグッ! いッ、いやぁぁぁ! そこ、さわら……っ!」
 上と下、同時に与えられる責め苦のような快楽。
 恥ずかしさと快感で涙が溢れる。もう、考えることができない。
『君の身体は、奉仕するための道具だ。そうだろう?』
「ちが……違わな……ぁぁあっ! すご、いぃぃっ!」
 否定の言葉が、快楽の嬌声にかき消されていく。
 この快感を与えてくれる存在に従いたい。この甘美な支配に身を委ねたい。
 そんな本能的な欲求が、理性を侵食し始める。
 学園の敷地に満ちていた催眠効果が、この極限状態での洗脳を強力に後押ししていた。抵抗する精神の壁は、呆気なく崩れ去りつつあった。

 上級生は、モニターに映し出される未来の脳波データを見つめ、満足げに頷いた。
「順調ね。素質があるわ、この子」
 彼女もまた、かつて同じようにして「教育」された一人。後輩が正しい道へと導かれる様子を、慈愛に満ちた目で見守っていた。

 数十分後。
 機械が停止し、拘束が解かれた。
 未来は椅子の上でぐったりと力尽き、荒い息を繰り返していた。制服は乱れ、瞳は虚ろに天井を見つめている。
「……春日さん? 気分はどう?」
 上級生が声をかけると、未来はゆっくりと起き上がった。
 その表情から、先ほどまでの怯えや混乱は消え失せていた。
 代わりに浮かんでいるのは、陶酔しきったような、恍惚の笑み。
 未来は乱れた衣服を気にする様子もなく、その場で深々と頭を下げた。
「はい……とても、気分が良いです」
 その言葉に、上級生はニッコリと微笑む。
「そう。よかったわね。これであなたも、私たちの一員よ」
「はい。ありがとうございます」
 未来は自分の胸に手を当て、うっとりとした表情で呟く。
「私は、男性方のために生まれました。男性方の命令に従い、奉仕することが、私の最上の喜びです……」
 その瞳には、もはや自分の意志の光はなかった。
 あるのは、植え付けられた忠誠心と、従順な人形としての「幸せ」だけ。

 保健室を出た未来は、廊下で待っていた生徒会長の麗華とすれ違った。
 未来は立ち止まり、麗華に向かって誰よりも美しい敬礼をする。
「ごきげんよう、お姉さま」
 麗華はその姿を見て、満足そうに目を細めた。
「ええ、ごきげんよう。……良い子になったわね」
 また一人、新しい花がこの学園に咲き誇った。
 籠の中で咲き、誰かのために摘み取られるのを待つだけの、美しくも哀れな花が。
 学園のチャイムが、どこか歪んだ音色で鳴り響いていた。それは、少女たちの終わりのない悪夢の始まりを告げる鐘の音だった。

授業の様子

 学園での生活は、一見すると普通の名門女子校と変わらないように見えた。
 しかし、そのカリキュラムには巧妙に「奉仕の精神」が組み込まれていた。

 一時間目は「礼法」の授業。
 広い和室に集められた新入生たちは、正座をして講師の話に耳を傾けていた。講師は、初老の上品な女性だが、その言葉には絶対的な響きがあった。
「女性の美しさとは、何か。それは、相手を敬い、尽くす心にこそ宿ります」
 一見、一般的なマナー講座のようだ。しかし、その実践内容は異質だった。
「では、主人を迎える際の挨拶を練習しましょう。もっと頭を低く。額が床につくほどに。あなた方は、相手により良い気分になっていただくための存在なのですから」
 講師の指導に従い、生徒たちは一斉に平伏する。
 未来もまた、畳に額を擦り付けていた。
(こうしていると、心が落ち着く……)
 健康診断以降、未来の中で何かが確実に変わっていた。従順な姿勢を取るたびに、脳の奥が痺れるような安心感に包まれるのだ。
 講師は生徒たちの間を回りながら、姿勢の悪い生徒を指導棒でピシりと叩く。
「背筋が曲がっています。それではご主人様に対して失礼です」
「は、はいっ! 申し訳ございません!」
 叩かれた生徒ですら、恍惚とした表情で謝罪を口にする。痛みよりも、指導される喜び、正しい形に矯正される喜びが勝っているのだ。

 三時間目は「保健体育」。
 しかし、行われているのはスポーツではない。教室のモニターには、男女の性行為の映像が、教材として流されていた。
 それも、ただのポルノではない。女性がいかにして男性を喜ばせるか、そのテクニックや精神的態度を解説する教育ビデオだ。
「――このように、自身の快楽は二の次とし、男性がいかに気持ちよく射精できるかを第一に考えるのです」
 教師の淡々とした説明が続く。
 生徒たちは顔を赤らめることもなく、真剣な眼差しでノートを取っている。
 未来もまた、画面の中の女性が白濁液を顔に浴びて喜ぶ姿を見て、熱い吐息を漏らしていた。
(私も、いつかあんな風に……)
 それは、汚らわしい行為ではなく、崇高な奉仕として彼女たちの目に映っていた。
 学園全体に漂う催眠ガスと、事あるごとに繰り返されるサブリミナル的な暗示。それらが、彼女たちの常識を完全に書き換えていたのだ。

生徒会の会議

 放課後。西日の差す生徒会室に、学園の中枢を担う役員たちが集まっていた。
 重厚なマホガニーのテーブルを囲むのは、会長の西園寺麗華をはじめとする、才色兼備の精鋭たち。
 紅茶の香りが漂う優雅な空間だが、そこで交わされる会話は、およそ女子高生のものとは思えない内容だった。

「では、定例報告を始めます。書記の松本さん、お願いします」
 麗華が静かに発言を促すと、眼鏡をかけた知的な風貌の書記が立ち上がった。
「はい。まず、先日の『出荷』についてですが、Aランクの生徒三名、無事にスポンサー様の元へ引き渡されました。先方からは『非常に感度もよく、従順で素晴らしい出来栄えだ』との感謝状が届いています」
「それは良かったわ。教育係の指導の賜物ね」
 麗華は満足げに頷き、手元の資料に目を落とす。そこには、生徒たちの顔写真と共に、『感度』『従順度』『奉仕スキル』といったパラメータが記されていた。
 ここは、学園という名の工場。そして生徒は、商品だった。

「次に、今年の新入生についてですが」
 副会長が次の議題に移る。
「全体的に素材は悪くありません。特に、特待生として入学した春日未来さん。彼女は『健康診断』での適応値が異常に高いです。一度の洗脳プロセスで、ほぼ完全に自我の再構築が完了しています」
「春日未来……ああ、あの子ね」
 麗華は、今朝廊下ですれ違った少女の顔を思い出した。純真無垢な瞳が、一瞬にして淫らな奉仕者の目に変わった瞬間を。
「彼女には期待できそうね。通常のスポンサーではなく、もっと上の……『VIP会員』様向けに育成した方がいいかもしれないわ」
「VIP会員様となると、あの……?」
 役員たちの間に、緊張と興奮が走る。
 学園のスポンサーの中でも、特に多額の資金を提供し、より過激で背徳的な奉仕を求める特別会員たち。彼らの要求に応えるには、並大抵の「教育」では足りない。
「ええ。彼女なら耐えられるでしょう。特別カリキュラムへの編入を検討しておいて」
「承知いたしました」

「それと、在庫の管理についてですが……」
 会計の生徒が手を挙げる。
「昨年の卒業生の一部で、長期間の使用により『劣化』が見られる個体があるとの報告が来ています。廃棄処分にするか、あるいは学園内の清掃用として再利用するか、判断を仰ぎたく」
「そうね……まだ使えるのなら、無駄にするのはもったいないわ。壊れるまで使い潰すのが、彼女たちにとっても本望でしょう。学園内の『慰安所』に回して、警備員や用務員の方々の処理場として活用なさい」
「はい、手配いたします」

 淡々と進められる会議。
 人の尊厳など欠片もない議題が、明日の学園祭の出し物を決めるような軽さで話し合われていく。
 彼女たち生徒会役員もまた、洗脳された人形であることに変わりはない。
 ただ、彼女たちは「管理する側」として、自分たちが優秀な家畜であることを誇りに思っているだけなのだ。
「私たちは、この学園の秩序を守り、最高の『商品』を世に送り出す義務があるの。すべては、偉大なる男性方のために」
 麗華の言葉に、役員たちは一斉に起立し、深く頭を下げた。
「すべては、偉大なる男性方のために――」
 夕日が、彼女たちの狂気に満ちた美しい顔を、赤く染め上げていた。

女子たちの昼休み

 昼休み。学園の中庭やカフェテリアは、生徒たちの楽しげな話し声で溢れかえっていた。
 一見すると、どこにでもある女子校の平和な風景だ。
 春の日差しの中、手作りのお弁当を広げたり、購買で買ったパンを頬張ったりしている。

「ねえねえ、見て見て。この前買った新しいローター、すっごく良かったの!」
 中庭のベンチで、一人の生徒がスマホの画面を友人に見せていた。
 画面に映っているのは、最新型の大人のおもちゃのカタログサイトだ。
「えー、いいなー! 私なんてまだ支給品のエッグしか使わせてもらえないんだよ。早くランク上げて、自分のが欲しいなぁ」
「頑張りなよ。昨日の『奉仕実習』の成績、Bプラスでしょ? もう少しでAランク昇格だよ」
「うん! もっとフェラチオの練習しなきゃ」

 彼女たちの会話は、明るい笑顔とは裏腹に、その内容は完全に狂っていた。
 ファッションやアイドルの話をするのと同じテンションで、性的な奉仕や玩具の話題に花を咲かせているのだ。

 カフェテリアの隅では、真面目そうな眼鏡をかけた生徒が、熱心に参考書を読んでいた。
 その表紙には、『実践! 喜ばれる騎乗位テクニック』というタイトルが躍っている。
「ふむふむ……腰の使い方は円運動ではなく、上下のピストン運動を意識する……と」
 赤ペンで重要箇所にラインを引きながら、彼女はブツブツと独り言を呟いている。
 隣に座った友人が、そのノートを覗き込んで感心した声を上げた。
「すごい、勉強熱心だね。今度の期末テスト、実技試験出るもんね」
「うん。私、体が硬いから、今のうちにストレッチもしておかないと。開脚角度が足りないと、ご主人様が見づらいんだって」
「そっかぁ。私も頑張らないと。この前、先生に『締め付けが甘い』って叱られちゃったし」

 彼女たちにとって、男性に尽くすための技術を磨くことは、学業における最優先事項だった。
 誰も疑わない。誰もおかしいと思わない。
 この異常な価値観こそが、彼女たちの「日常」であり「正義」なのだ。
 入学からわずか数ヶ月で、洗脳は彼女たちの生活の隅々まで行き渡っていた。

視察

 そんなある日の午後、学園の空気が一変した。
 校門の前に高級車が数台列をなし、スーツに身を包んだ初老の男性たちが降り立ったのだ。
 学園の運営資金を提供する「スポンサー」たちの視察である。

「ようこそお越しくださいました」
 生徒会長の西園寺麗華が、完璧な笑顔で一行を出迎えた。
 その後ろには、選抜された生徒たちが整列し、一斉に深々と頭を下げる。
 その中には、春日未来の姿もあった。

「ほう、今年はまた粒ぞろいですな」
 先頭を歩く肥満体の男性が、ねっとりとした視線で生徒たちを品定めする。
 その視線は、明らかに教育者や保護者のものではなく、商品を選ぶバイヤー、あるいは獲物を狙う肉食獣のそれだった。
「ありがとうございます。皆様にご満足いただけるよう、丹精込めて育てております」
 麗華は男性の横に並び、媚びるような声音で案内を始めた。

 校舎内を巡回する一行。
 教室や体育館で、普段通りの授業風景を見学する。
 しかし、スポンサーたちは黒板や教科書には目もくれない。彼らの目は、常に生徒たちの肉体――スカートから伸びる脚や、ブラウス越しの胸の膨らみ――に向けられていた。

「おい、そこの君」
 不意に、男性の一人が未来を指差した。
「は、はいっ!」
 未来は緊張した面持ちで、一歩前に進み出た。
「名前は?」
「はい! 春日未来と申します!」
 元気よく答える未来。その瞳は、期待と恐怖が入り混じった複雑な光を宿している。
「春日未来か。……ふむ、悪くない。顔立ちも可愛いし、何よりこの匂い……処女特有の甘い匂いがする」
 男性は未来の顔に鼻を近づけ、クンクンと匂いを嗅いだ。
 普通の少女なら悲鳴を上げて逃げ出すような状況だ。しかし、未来は頬を紅潮させ、うっとりとした表情でその行為を受け入れている。
「ありがとうございます……光栄です」
「ふふ、素直でよろしい。ちょっと見せてみなさい」
 男性の太い指が、未来のスカートの裾を掴み、ゆっくりと捲り上げた。
 白く美しい太ももが露わになり、さらにその奥にある純白のパンティが晒される。
「ほう……」
 男性は満足げに喉を鳴らし、そのまま太ももの内側を撫で回した。
「んぅっ……!」
 未来の口から、甘い吐息が漏れる。公衆の面前で、しかも見知らぬ男性に触られているというのに、嫌悪感は皆無だった。
 むしろ、評価されている、認められているという喜びが、下腹部を熱く疼かせていた。

 周りの生徒たちも、それを羨望の眼差しで見つめている。
(いいなぁ、春日さん……選んでもらえるかも)
(私ももっとアピールしなきゃ)
 誰も助けようとはしない。誰も異常だとは思わない。
 ここでは、男性に選ばれ、買われることこそが、女としての最大のステータスなのだ。

「会長さん、この子は予約できるかな?」
 しばらく未来を弄り回した後、男性は麗華に向かって尋ねた。
 麗華は妖艶な笑みを浮かべ、恭しく頷いた。
「もちろんでございます。VIP会員様として登録させていただきますので、後ほど詳細をお送りいたしますわ」
「頼むよ。楽しみにしている」
 男性は名残惜しそうに未来のお尻を一度強く揉むと、満足げに笑ってその場を離れた。

 去っていく背中を見送りながら、未来は火照った体をもじもじとさせていた。
(私、選ばれたんだ……。あの方に、奉仕できるんだ……)
 それは、地獄への特急券を手に入れた瞬間だった。
 しかし、彼女にとってそれは、天国への招待状にしか見えなかった。

取材

 数日後、学園にテレビ局の取材が入ることになった。
 テーマは「現代社会に残された最後の聖域――名門女子校の秘密」。
 最近の若者の風紀の乱れを嘆く世論に対し、古き良き純潔教育を守る模範的な学校として特集されるというのだ。
 これは学園にとっても、表向きの社会的信用を高め、ひいては新たな「入学者(在庫)」を確保するための絶好の宣伝機会だった。

 取材当日、学園内では徹底的な隠蔽工作が行われていた。
 廊下に貼られていた『奉仕の心得』や『精液の美容効果』といったポスターはすべて剥がされ、代わりに『清廉潔白』『質実剛健』といった当たり障りのない標語や、美しい風景画が掲示された。
 教室のモニターから流れる過激な性教育ビデオは消され、時間割もすべて差し替えられた。「口内奉仕実習」は「書道」に、「騎乗位演習」は「茶道」変更された。

「いいこと、皆さん」
 朝のホームルームで、担任教師が冷ややかな声で告げる。
「今日は『普通』の女子高生を演じなさい。余計なことは一切喋らないように。質問されたら、マニュアル通りに答えること。もし、学園の品位を損なうような発言をした者は……分かっていますね?」
「はい!」
 生徒たちは一糸乱れぬ声で返事をする。
 彼女たちにとって、「演じる」ことは造作もないことだった。なぜなら、彼女たちはすでに「従順な人形」であり、主人の命令を完璧に遂行することこそが喜びだからだ。主人が「清純であれ」と望むなら、彼女たちは世界で最も清純な乙女になりきることができる。

 午前十時。カメラを担いだ取材クルーが校内に入ってくる。
「いやぁ、素晴らしい環境ですね。空気からして違う」
 レポーターの男性が感心したように周囲を見渡す。
 カメラが捉えるのは、真剣な表情で筆を走らせる書道の授業風景や、図書室で静かに読書をする生徒たちの姿。
 そこには、淫らな奉仕者の影も形もない。あるのは、理想的な教育現場の姿だけだ。

「そこの彼女、ちょっといいかな?」
 中庭を歩いていた時、レポーターが声をかけたのは、またしても春日未来だった。彼女はその可憐な容姿から、どうしても目立ってしまうようだ。
「は、はい」
 未来は少し緊張した面持ちでカメラの前に立つ。
「この学園での生活はどうだい? 全寮制で厳しい校則もあると聞いたけど」
 マイクを向けられ、未来は一瞬、カメラの向こうにいる生徒会役員の視線を確認した。微かな頷きを見て、彼女は淀みなく答え始めた。
「はい。確かに厳しい面もありますが、それは私たちを立派な女性にするための愛の鞭だと思っています。先生方も先輩方もとても優しくて、毎日がとても充実しています」
「立派な女性、か。具体的にはどんな女性になりたいと思っているのかな?」
「そうですね……」
 未来は胸の前で手を組み、聖女のような微笑みを浮かべた。
「誰かに必要とされ、その方のためにすべてを捧げて尽くせる……そんな女性になりたいです」
「おお、素晴らしい! 今の日本人が忘れかけている大和撫子の精神ですね!」
 レポーターは絶賛し、カメラマンも大きく頷く。
 視聴者は感動するだろう。この汚れを知らない少女の純粋な志に。
 しかし、誰も気づかない。彼女の言う「尽くす」という言葉が、どれほど卑猥で、奴隷的な意味を含んでいるのかを。「すべてを捧げる」という言葉が、肉体も精神も尊厳も、すべてを男性の玩具として差し出すことを意味しているのかを。

 取材は滞りなく終了した。
 クルーが満足げに帰っていった瞬間、学園の空気は再びねっとりとした欲情の色に染め変えられた。
「ふぅ、肩が凝りましたわ」
「やっと終わった。ねえ、早く今日の『補習』に行きましょうよ。私、我慢してて濡れちゃった」
 生徒たちは優等生の仮面を脱ぎ捨て、本来の雌の顔に戻っていく。
 テレビ局が報じた「清く正しい学園」の姿こそが、最大の虚構であり、作り上げられた幻影だったのだ。
 しかし、その幻影が完璧であればあるほど、裏にある真実はより深く、甘美な闇となって彼女たちを縛り付けていくのだった。

 その日の深夜。都内のテレビ局の編集室。
 入社三年目のAD、佐藤は、今日取材してきた聖マリアンナ学園の映像素材をチェックしていた。
 モニターに映る少女たちは、現代の日本とは思えないほど清楚で、可憐だ。
「いい絵だな。これなら視聴率も取れそうだ」
 テロップを入れ、BGMを乗せていく作業は順調に進んでいた。
 しかし、何度も映像をリピート再生しているうちに、佐藤はふと奇妙な違和感を覚えた。

 インタビューに答える春日未来という少女。
「すべてを捧げて尽くせる……そんな女性になりたいです」
 その言葉を発する際、彼女の瞳孔がわずかに開いているように見えた。
 そして、頬の紅潮。ただの緊張にしては、どこか熱を帯びていて、艶めかしすぎる。
「……ん? なんだこれ」
 さらに、別のカット。生徒たちが一斉にお辞儀をするシーン。
 その背中の角度、頭を下げるスピード、そして上げるタイミング。
 あまりにも揃いすぎている。一ミリの狂いもない。
 まるで軍隊か、あるいは精巧にプログラムされたロボットの集団を見ているような、得体の知れない薄気味悪さを感じた。
「ま、名門校ってのはこういうもんか」
 佐藤は首を振り、湧き上がった違和感を強引に飲み込んだ。
 連日の残業続きで、神経が過敏になっているだけだろう。
 これほど完璧な優等生たちに対して、何か裏があるなどと邪推するのは失礼だ。
 彼はコーヒーで眠気を覚ますと、最後のテロップを打ち込み、編集作業を完了させた。

 そして夕方。
 特集コーナー『現代の大和撫子たち』は、予定通り全国ネットで放送された。
 画面の中の美しい学園生活に、コメンテーターたちは賛辞を送り、お茶の間では感嘆の声が上がった。
 ネット上では「天使すぎる女子高生」として春日未来のキャプチャ画像が拡散され、「こんな学校に通わせたい」「日本の未来も捨てたもんじゃない」といった好意的な意見が溢れた。

 誰も気づかない。
 その美しい映像が、悪魔の巣窟を映し出したものであることに。
 公共の電波に乗って、狂気の洗脳箱庭が「理想郷」として社会に承認されてしまったことに。
 この放送を見た数多くの「スポンサー」予備軍たちが、欲望のこもった目で画面を見つめていることも知らずに。

不良品

 学園の秩序は、鉄の規律によって守られている。
 その番人となるのが、「風紀委員」と呼ばれる生徒たちだ。
 彼女たちは、生徒会直属の親衛隊であり、学園のシステムに不適合な因子を排除、あるいは修正する権限を与えられていた。

 ある日の放課後。地下にある「特別指導室」に、一人の生徒が引きずり込まれた。
「いやっ! 離して! おかしいよ、こんなの絶対おかしい!」
 泣き叫ぶのは、二年B組の女子生徒。
 彼女は最近、洗脳の効果が薄れ始め、授業中に「家に帰りたい」「彼氏に会いたい」と口走るなど、情緒不安定な行動が目立っていた。
 学園にとって、自我の芽生えはウイルスの発生と同義だ。直ちに駆除しなければならない。

「お静かに。あなたは重篤な精神疾患にかかっています。治療が必要です」
 風紀委員長が冷徹な声で告げる。
 彼女の腕には、「風紀」と刺繍された黒い腕章が巻かれ、その瞳は爬虫類のように感情の色が希薄だった。
 部屋の中央には、新入生の健康診断で使われたものよりも遥かに大きく、禍々しい配線がむき出しになった金属製の椅子が鎮座している。
 通称、『修理ユニット』。

「嫌だ! 私は人間だ! あんたたちのオモチャじゃない!」
 女子生徒が暴れるが、数人の風紀委員に取り押さえられ、椅子に拘束される。
 太い革ベルトが手足を締め上げ、頭部には電極が無数についたヘルメットが被せられた。
「対象、整理番号二〇四番。反抗的態度、および妄想癖の悪化を確認。レベル5による初期化(フォーマット)を開始します」
「待って、やめて……ごめんなさい、私が悪かったから……!」
 恐怖で失禁し、床に水溜まりを作る少女。
 しかし、委員長は無慈悲にスイッチを押し込んだ。

 ビガガガガガッ!!
「がああああああああああああっ!!!」
 
 絶叫が、重い防音扉の内側で弾けた。
 この装置は、快楽を与えるものではない。脳の記憶野と感情中枢を、高圧電流で物理的に焼き切るための処刑器具だ。
 個人の人格を形成する思い出、好み、思考パターン。それらを暴力的に破壊し、空白になった場所に「奉仕プログラム」だけを深く、強く刻み込む。それは、人間を修復不能なまでに破壊する行為に等しい。

 数分間に及ぶ激しい痙攣の後。
 装置が停止すると、そこには白目を剥き、口から泡を吹いてぐったりと垂れ下がる肉塊があった。
「……処理完了。起動テストを行います」
 委員長が、少女の頬を平手打ちする。
 ビクリ、と身体が反応し、少女が顔を上げた。
 その瞳は、ガラス玉のように光を反射するだけで、焦点が合っていない。
「あなたは誰のものですか?」
 問いかけに対し、少女の唇が機械的に動く。
「ワタシ……ハ……ダレカノ……モノ……」
 声に抑揚はなく、まるで壊れたレコードのようだ。
「よろしい。合格です」

 彼女はもう、二度と笑うことも、泣くこともないだろう。
 ただ穴があれば受け入れ、命令されれば動く、生きたダッチワイフ。
 学園の基準では、これこそが「完成品」であり、前の彼女は「不良品」だったのだ。
 
 翌日、彼女は教室に戻ってきた。
 以前のような明るさは消え、一日中机に座って一点を見つめている。
 クラスメイトたちは、そんな彼女を見ても何も言わない。
 ただ、「ああ、修理されたんだな」と納得し、自分たちもそうならないよう、より一層、従順な演技に磨きをかけるのだった。

定期試験

 そして七月。学園は定期試験のシーズンを迎えた。
 この学園でも、一般的な高校と同様に年四回の定期考査が実施される。
 生徒たちの進級や、将来の「格付け(ランク)」に関わる重要なイベントであり、校内には張り詰めた空気が漂っていた。

 試験は三日間に渡って行われる。
 初日と二日目は筆記試験だ。国語、数学、英語といった一般科目は、ごく普通の内容で行われる。名門校らしく難易度は高いが、生徒たちは淡々と問題を解いていく。
 しかし、その中に紛れ込む「専門科目」の内容は異質だ。
『奉仕倫理』の試験問題。
【問3:主人が排泄行為を要望した際、奴隷として持つべき正しい心構えを四十文字以内で記述せよ】
 生徒たちは迷うことなくペンを走らせる。
「自らが汚物を受け入れる便器となれることに、無上の喜びと感謝を感じること」
 正解は一つしかない。洗脳によって刷り込まれた価値観こそが、この世界での唯一の正解なのだ。

 そして最終日。生徒たちが最も恐れ、また重要視している「実技試験」が行われる。
 体育館にはカーテンで仕切られたいくつものブースが設営されていた。

「次は出席番号五番、春日さん。第二ブースに入りなさい」
「はい!」
 名前を呼ばれた未来は、緊張と期待に頬を染めてブースへと入っていく。
 中には審査員の教師たちと、試験用の機材が置かれていた。
 男性の下半身を精巧に模したシリコン製のダミー人形だ。ただし、その股間には高感度の圧力センサーや温度センサーが埋め込まれ、奉仕の質を数値化できるようになっている。

「科目は『口内奉仕』。制限時間は五分。どれだけ早く、かつ深くイかせられるかを測定します」
「はい、失礼いたします」
 未来はダミーの前に跪き、恭しく一礼する。
 そして、慈しむような手つきでシリコンの男根を包み込み、ゆっくりと口に含んだ。
 
 ジュルッ、ジュポッ……。
 静かなブース内に、卑猥な水音が響き渡る。
 未来の舌使いは、入学当初とは比べ物にならないほど洗練されていた。
 先端を舌先で転がし、裏筋を吸い上げ、時折喉の奥まで飲み込んで真空状態を作る(バキューム)。
 モニターに表示される数値――吸引圧、摩擦係数、唾液分泌量――が、みるみる上昇していく。
「素晴らしい……。まだ一年生とは思えない技術だ」
 審査員の教師が唸る。
「ええ、それに見てください、この表情。本当に幸せそうですわ」
 未来は涙目で嗚咽を漏らしながらも、目尻を下げて恍惚の表情を浮かべていた。
 偽物相手ですらここまで没頭できる没入感。これこそが、彼女が「天才」と呼ばれる所以だった。

 ピーッ!
 終了のブザーと共に、ダミーの先端から白濁したローションが噴射された。
 未来はそれを顔で受け止め、最後の一滴まで愛おしそうに舐め取る。
「ごちそうさまでした……」
 とろりと濡れた唇で微笑む彼女に、審査員たちは最高評価の『Sランク』をつけた。

 放課後、掲示板に順位表が張り出された。
 学年一位の座には、やはり春日未来の名前があった。
「すごいね、未来ちゃん! 実技満点だなんて!」
「えへへ……もっと頑張って、本物の男性(ご主人様)に喜んでもらえるようになりたいな」
 友人たちに囲まれ、謙遜しながらも誇らしげな未来。

文化祭

 十月。秋晴れの空の下、聖マリアンナ学園文化祭が盛大に開催された。
 この日だけは、普段は閉ざされた学園の門が一般に開放される。
 学校説明会も兼ねているため、受験を希望する中学生やその保護者、近隣住民らが多く訪れ、校内は活気に満ちていた。

「いらっしゃいませー! 焼きそばいかがですかー!」
「お化け屋敷、まだ空いてますよー!」
 校舎の前庭(オープンエリア)には、クラスごとの模擬店や縁日が立ち並ぶ。
 生徒たちは笑顔で接客し、楽しげに校内を案内している。
 その光景は、どこからどう見ても、健全で輝かしい青春の一ページだ。

 しかし。
 廊下の突き当たりや階段の踊り場には、目立たないように「立入禁止」の看板と、見張りの生徒が立っていた。
 彼女たちは笑顔を崩さないまま、迷い込んだ一般客を巧みに誘導する。
「すみません、この先は関係者以外立ち入り禁止なんです。あちらの特別展示エリアへどうぞ」
 その先にある「奥の校舎(ディープエリア)」こそが、この文化祭の真のメイン会場だった。

 一般客の入れないエリアには、生徒、教師、そして「招待状」を持ったスポンサーたちだけが入れる。
 そこは、表の健全さが嘘のような、酒池肉林の世界だった。

 ある教室は「バニーガール・カジノ」に改装されていた。
 ハイレグのバニー衣装に身を包んだ生徒たちが、ディーラーとしてチップを配る。
 ただし、チップの代わりに賭けられるのは、彼女たちの衣服やサービスだ。
「お客様の勝ちですね。では、ご希望のサービスを……」
 負けた生徒は、その場でスカートを捲り上げ、勝者の男性にパンツをプレゼントする。あるいは、テーブルの下に潜り込み、股間への奉仕を行う。

 また、別の教室は「SM喫茶」となっていた。
 天井から吊るされたロープに縛られた生徒たちが、来客からの躾(ムチ打ち)を待っている。
「もっと……もっと叩いてくださいませ、ご主人様!」
 痛みと恥辱に興奮し、涎を垂らして懇願する少女たち。
 スポンサーたちは、サディスティックな笑みを浮かべて、彼女たちの白い肌に赤い蚯蚓腫れを刻んでいく。

 そして、体育館の特別ステージでは、本日の目玉イベントが行われようとしていた。
 司会の西園寺麗華が、スポットライトを浴びて登場する。
「皆様、お待たせいたしました。今年のミス・マリアンナ、奉仕部門グランプリ、春日未来さんの特別ショーです!」
 割れんばかりの拍手と歓声の中、未来がステージに現れた。
 身に纏っているのは、極薄のレースだけで作られた、ほとんど裸に近いベビードールだけ。
 彼女の前に置かれたのは、巨大なガラスの水槽だ。中には大量のローションと、無数の電動バイブが蠢いている。
「今日のために、たくさん練習しました。……私のすべてを見てください」
 未来は恥じらうことなく、自ら水槽の中へと足を踏み入れた。
 ぬるりとしたローションに浸かり、彼女は四つん這いになって腰を振る。
 群がり寄る電動のご主人様(バイブ)たちを、アソコだけでなく、アナルや口、脇や太もも、全身を使って受け入れていく。
「ぁっ、あんっ! すご、い……っ! いっぱい、入ってくるぅ……っ!」
 ガラス越しに張り付くようにして、未来の痴態が晒される。
 観客席のスポンサーたちは、食い入るようにその様子を見つめ、次々と高額な「投げ銭(チップ)」をステージに放り投げた。
 札束が舞う中、快楽に溺れた未来の嬌声が、文化祭のフィナーレを彩るBGMとして響き渡っていた。

 表では爽やかな青春賛歌が、裏ではドロドロの愛欲劇が。
 二つの世界は壁一枚を隔てて共存し、どちらも「聖マリアンナ学園」の真実の姿として機能していた。

生徒総会

 季節は巡り、冬の足音が聞こえ始めた頃。
 学園の講堂にて、後期生徒総会が開かれた。
 これは、生徒会・各種委員会・部活動の活動報告と予算決議、そして次年度の生徒会役員を選出する重要な儀式である。

 全校生徒が整列する中、議事は粛々と進行していく。
「続きまして、部活動予算の決議に移ります」
 会計の生徒が読み上げる内訳は、やはりこの学園ならではの異様なものだった。
「テニス部、ラケットのガット張り替え費用、およびスマッシュ練習用の『動く的(下級生)』の治療費として、〇〇万円」
「園芸部、校内花壇の整備費、および観賞用媚薬ハーブの種苗代として、〇〇万円」
「演劇部、衣装代、および凌辱劇で破損した舞台装置の修繕費として、〇〇万円」
 誰も異議を唱えない。
 すべての活動は「奉仕精神の向上」という名目で正当化され、承認の拍手が送られる。

 そして、総会はクライマックスである役員選挙へと移った。
 次期生徒会長は現二年生から、副会長は一、二年生の中から選出される。
 条件は、容姿端麗かつ成績優秀であること。ここでの「成績」とは、当然ながら学業だけでなく、奉仕技術や洗脳深度も含まれる。

「では、次期副会長候補、一年A組、春日未来さん。演説をお願いします」
 司会の声と共に、春日未来が壇上に立った。
 入学当初のあどけなさは残しつつも、その立ち振る舞いは堂々としており、全身から妖艶なオーラを放っている。
 彼女はマイクの前に立つと、全校生徒を見渡し、透き通るような声で語り始めた。

「皆様、ごきげんよう。春日未来です」
 深々とお辞儀をする。その角度、速度、すべてが完璧な礼法に則っている。
「私がこの学園に入学して、半年が過ぎました。この半年間で、私はとても大切なことを学びました。それは、『自分ではない誰かのために生きる喜び』です」
 未来は胸に手を当て、恍惚とした表情で続ける。
「あの日、健康診断で本当の自分に目覚めてから、世界が輝いて見えるようになりました。偉大なる男性方に愛され、必要とされ、使い潰されること。それこそが、女として生まれた私たちにとって、至上の幸福なのです」

 会場のあちこちから、感動のあまりすすり泣く声が聞こえる。
 完全に洗脳された生徒たちにとって、未来の言葉は福音そのものだった。

「もし私が副会長に選ばれたなら、お約束します。この学園を、もっと素敵な場所にすることを。すべての生徒が、一人の例外もなく、最高の商品として出荷され、ご主人様に可愛がってもらえる……そんな『清く、正しく、淫らな』学園を目指して、身も心も捧げる覚悟です」
「おお……素晴らしい……!」
 最前列で見守っていた現会長の西園寺麗華も、感極まったようにハンカチで目頭を押さえている。

「どうか、私に皆様の奉仕活動をサポートさせてください。よろしくお願いいたします」
 未来が演説を終えると、講堂は割れんばかりの拍手喝采に包まれた。
 信任投票の結果は、当然ながら満場一致。
 反対する者など一人もいない。なぜなら、ここの生徒たちは全員、同じ方向を向くように作られた人形なのだから。

 新たなリーダー(管理用ドール)の誕生。
 それは、この狂った箱庭が、これからも永続的に運営されていくことを約束する瞬間でもあった。
 少女たちの楽園は、今日も平和に、そして残酷に回り続けている。

進路と卒業式

 三月。三年生たちは卒業を目前に控え、進路の話題で持ちきりになっていた。
 教室のホワイトボードには、難関大学や有名企業の名前がずらりと並んでいる。
 しかし、彼女たちの会話の内容は、一般的な受験生のそれとは大きく異なっていた。

「ねえ、私の進路、ついに決まったの。『関東地区統括本部(大手風俗グループ)』だって!」
「すごーい! エリートじゃない! 私なんて地方の個人スポンサー様だよ……。でも、ご主人様がお一人だから、独占してもらえるし、悪くないかな」
「いいなぁ、みんな。私、成績が足りなくて『公共慰安施設』行きかもしれない……。毎日不特定多数のお相手なんて、体力持つかなぁ」

 彼女たちの将来は、本人の意思とは関係なく、自動的に決定される。
 容姿、身体的特徴、学業成績、そして奉仕スキル。あらゆるデータが数値化され、どのスポンサーへ何体「納品」するかが、コンピュータによって最適化されるのだ。
 中には、特定のスポンサーから高額で引き抜かれる(指名買いされる)優秀な生徒もいるが、ごく一部のエリートに限られる。

 そして迎えた、卒業式当日。
 厳かな雰囲気の中、卒業生たちが講堂に入場する。
 一見、感動的な式典に見える。しかし、よく見れば、彼女たちの左手首には、無機質なバーコード付きのリストバンドが巻かれていた。
 そこに記されているのは、彼女たちの「商品管理番号」と「出荷先コード」。

「答辞。卒業生代表、西園寺麗華」
 名前を呼ばれ、艶やかな袴姿の麗華が壇上に上がった。
 彼女は在学中、完璧な生徒会長として君臨し続けた。その功績が認められ、彼女は学園の理事(創設者の一族)の個人秘書兼愛人として迎えられることが決まっている。
「私たちは今日、この温かい学び舎を巣立ち、社会という名の新たな奉仕の場へと旅立ちます。ここで学んだ『尽くす心』を胸に、生涯、ご主人様のために肉体のすべてを捧げることを誓います」
 涙ながらに読み上げられる答辞に、在校生たちもハンカチを濡らす。
 次期会長候補の春日未来も、憧れの先輩の最後の晴れ姿を、潤んだ瞳で見つめていた。

 式が終わると、感動の余韻に浸る間もなく、事務的な作業が始まった。
 校庭には大型バスや護送車のような黒塗りのワゴン車が何台も待機している。
「Aグループ、番号101番から150番、第一車両へ!」
「Bグループ、151番以降は第二車両へ! 私物はすべて没収だ、身一つで乗れ!」
 教師たちの怒号が飛び交う中、卒業生たちはリストバンドの番号に従ってグループ分けされ、家畜のように車へと詰め込まれていく。
 彼女たちに笑顔はないが、恐怖もない。あるのは、これから始まる「本番」への期待と、使命感だけだ。

「行ってきます、未来さん」
 最後のバスに乗り込む直前、麗華が未来に微笑みかけた。
「行ってらっしゃいませ、麗華お姉さま。……私も、すぐに追いかけますから」
 未来は深々と頭を下げる。
 バスのドアが閉まり、エンジン音が唸りを上げる。
 窓越しに見える先輩たちの顔は、どこか誇らしげで、しかしどこか空虚だった。

 車列が正門を出ていく。
 彼女たちは二度とこの地に戻ることはない。
 社会の闇へと溶け込み、消費され、やがて忘れ去られていく消耗品たち。
 それを見送りながら、未来は胸の前で手を組み、祈るように呟いた。
「皆様が、素晴らしいご主人様と巡り会えますように……そして、いつか私も……」

 春の風が、桜の花びらを舞い上げる。
 美しい花吹雪の中、学園はまた新しい「素材」たちを迎える準備を始めていた。
 終わりのない円環。永遠に繰り返される狂気。
 白亜の校舎は、今日も変わらぬ美しさで、そのおぞましい真実を隠し続けている。

人形以上、人間未満

 学園を卒業した「商品」たちが、その後どのような運命を辿るのか。
 それは、貼られたラベルの等級によって大きく異なる。

 ケース1:高級ソープランド『桃源郷』勤務・元生徒会役員Aの場合

 都内某所にある会員制の高級風俗店。
 その一室で、Aは客の体を洗っていた。
「うん、やっぱりマリアンナの子は違うねぇ。手つきがいやらしいのに、どこか品がある」
「お褒めにあずかり光栄です、ご主人様」
 Aは艶然と微笑み、泡だらけの胸を客の背中に押し当てる。
 彼女は学園でエリート教育を受けたトップクラスの卒業生だ。
 ここでは、彼女のような「極上の品」は破格の待遇で迎えられる。
 一日の客数は制限され、部屋は豪華なホテル並み。客層も富裕層に限られているため、乱暴な扱いはされない。
「ああん、ご主人様……もっと、もっと激しく……」
 ベッドの上でも、彼女の演技は完璧だ。
 客を喜ばせ、快楽を与え、そして自分自身も奉仕の喜びに浸る。
 彼女にとって、今の生活は学園時代の延長線上にあり、まさに「天職」といえた。
 彼女は幸せだった。自分が「人間としての尊厳」を売り渡していることになど、気づくこともないままに。

 ケース2:地下ビデオ撮影所・元「修理済み」生徒Bの場合

 薄暗いスタジオの床に、Bは転がされていた。
 彼女は在学中、洗脳に抵抗したために「修理」を受けた生徒だ。
 知能は著しく低下し、言葉も片言しか話せない。
「はい、じゃあ次。3人同時いこうか」
 監督の指示で、薄汚い男たちがBに群がる。
 彼女は抵抗しない。されるがままだ。
 痛みを感じているのかさえ分からない虚ろな瞳で、ただ天井を見つめている。
「う……あ……」
 口から涎を垂らし、時折意味不明なうめき声を上げるだけ。
 彼女の扱いは、人ですらない。ただの「穴」であり、使い捨ての道具だ。
 撮影が終われば、ボロ切れのように部屋の隅に追いやられ、冷たい弁当を与えられるだけの日々。
 それでも彼女は逃げない。逃げるという概念すら、焼き切られた脳には存在しないからだ。

 ケース3:コンビニエンスストア店員・元慰安施設勤務Cの場合

「いらっしゃいませー」
 深夜のコンビニで、Cはレジ打ちをしていた。
 彼女は卒業後、ある企業の私設慰安所で働いていたが、企業の倒産に伴い「解雇(廃棄)」された。
 行き場を失った彼女は、生きるために仕方なく一般社会でアルバイトを始めたのだ。
 しかし、彼女にとって「普通」の世界は地獄だった。

「お釣り、300円です」
 客の男性に手を触れられると、条件反射で腰がビクリと跳ねてしまう。
「あの……何かご用でしょうか? ご命令があれば……」
「は? 何言ってんの?」
 客に不審がられ、店長には「挙動がおかしい」と叱られる毎日。
 彼女の脳には、「男性=絶対的な主人」という図式が刻み込まれたままだ。
 対等な人間関係が築けない。自分の意思で判断できない。
 ただレジに立っているだけでも、誰かに命令されたくて、犯されたくて、身体が疼いて仕方がない。
「……誰か、私を使って……」
 バックヤードで一人、股間に手を這わせながら、彼女は泣いていた。
 一般社会に放り出された彼女は、洗脳が解けることもなく、永遠に満たされない渇望を抱えて生きていくしかないのだ。
 それは、ある意味で「修理済み」の生徒よりも残酷な、生殺しの地獄だった。

狂気の終わり

 永遠に続くと思われた楽園は、あまりにも呆気ない幕引きを迎えた。
 きっかけは、たった一本の通報電話。
 山中で遭難しかけた登山客が、偶然にも「特別補習」の合宿所に迷い込み、そこで行われていたおぞましい行為を目撃してしまったのだ。

 数日後、学園に機動隊が突入した。
 重武装の警察官たちが校門を突破し、校舎へと雪崩れ込む。
 地下の「修理施設」や「SM喫茶」の設備、そして膨大な顧客リストと裏帳簿。
 次々と明るみに出る証拠の数々に、捜査員たちは絶句し、嘔吐する者さえいたという。

 スポンサーとなっていた企業の重役や政治家たちは次々と検挙され、学園の理事長や教職員も全員逮捕された。
 テレビのニュースは連日この事件を報じ、「現代日本最大の闇」「悪夢の洗脳工場」とセンセーショナルに書き立てた。

 しかし、最大の問題は「被害者」であるはずの生徒たちだった。
 警察によって「救出」され、保護された彼女たち。
 だが、体育館に集められた彼女たちの顔に、安堵の色はなかった。

「どうして……どうして私たちの楽園を壊したの?」
「ご主人様にお会いできないなんて、生きていても意味がないわ」
「お仕置きして……お願い、誰か私を殴って……」

 泣き叫ぶ者、警察官に奉仕を強要しようとする者、床に頭を打ち付けて自害しようとする者。
 彼女たちの心は、すでに根底から書き換えられてしまっていた。
 自由を与えられた彼女たちにとって、主人のいない世界は、酸素のない宇宙空間に放り出されたも同然だったのだ。

 保護された生徒の一人、春日未来は、カウンセラーの面接室でただ虚ろな笑みを浮かべていた。
「未来さん、もう大丈夫ですよ。あなたは自由になれたんです」
 女性カウンセラーの優しい言葉に、未来はゆっくりと首を横に振る。
 その瞳には、かつての純真さも、狂気的な輝きもなく、ただ深い闇だけが広がっていた。

「自由……? いいえ、それは罰です」
 未来は自分の胸を強く抱きしめた。
「私たちは、誰かの所有物であることでしか満たされない。誰かのために尽くすことでしか、生きている価値を感じられない……。そう作られてしまったのですから」

被害者(春日未来)との面接記録

日時: 20XX年12月10日 14:00 - 14:45
場所: 県立精神医療センター 第3カウンセリングルーム
担当医: 精神科医 佐伯
対象者: 春日未来(17歳・元 聖マリアンナ学園2年生)

【面接記録抜粋】

佐伯: 今日は気分どうですか? 昨夜はよく眠れましたか?

春日: ……眠れませんでした。ベッドが、柔らかすぎます。

佐伯: 病院のベッドが合わないなら、交換することもできますよ。

春日: 違います。拘束されていないと、不安で震えが止まらないんです。手足を縛って、目隠しをして、口枷を嵌めてくれないと……自分がどこかに溶けて消えてしまいそうで、怖いんです。

佐伯: 未来さん。ここでは誰もあなたを縛ったりしません。あなたは自由なんですよ。

春日: 自由……。(嘲笑のような息を漏らす)先生、貴方は残酷なことを仰いますね。自由なんて、飼い主に捨てられた野良犬と同じじゃないですか。

佐伯: 我々はあなたを一人の人間として尊重しています。

春日: 人間? 嫌です、そんな汚らわしいもの。私はもっと高尚で、純粋なものに生まれ変わったんです。ただ穴があり、快感があり、命令に従うだけの存在。それ以上に幸せな生き物が、この世にいるんですか?

佐伯: それは学園に埋め込まれた誤った認識です。少しずつ、本来のあなたの考え方を取り戻していきましょう。

春日: 本来の私……? ああ、あの何も知らなかった空っぽな私のことですか? 戻りたくありません。あそこ(学園)で初めて、私は満たされたんです。痛みで、恥辱で、精液で。私の全てが必要とされていたんです。

佐伯: ……今日はここまでにしましょうか。

春日: 先生。お願いがあります。

佐伯: 何でしょう?

春日: 私のここ(股間を指差す)、見てくれませんか? 誰も使ってくれないから、乾いて、痛いんです。お願いです、先生のそのペンでもいいから……。

佐伯: (記録中断)

【担当医所見】
対象者の洗脳深度は極めて深刻である。「被支配」を「愛」、「自由」を「孤独・懲罰」と定義する認知の歪みが根強く固定化されている。社会復帰には相当の長期間を要する、あるいは不可能である可能性が高い。引き続き、厳重な監視下での薬物療法を推奨する。

再利用

再利用

 被害者たちの社会復帰は困難を極めた。
 通常のカウンセリングも、投薬治療も、彼女たちの深層意識に刻まれた「奉仕への渇望」を消し去ることはできなかった。
 このままでは、彼女たちは一生を閉鎖病棟で過ごすか、あるいは自ら命を絶つか、二つに一つの未来しか残されていない。

 そこで当局は、ある禁断のプロジェクトを決定した。
 それは、学園から押収された「洗脳装置」を再利用し、彼女たちの精神を再び強制的に書き換えるというものだった。
 「奉仕の心」を否定し、「個人の自立」を肯定するプログラムを、かつて彼女たちを壊したのと同じ手法で脳に叩き込むのだ。
 倫理的には許されない行為かもしれない。だが、毒をもって毒を制すしか道はなかった。

 再びあの椅子に座らされた春日未来は、怯えた表情を浮かべていた。
「嫌……やめて……! 私の大切なものを奪わないで!」
「落ち着いて、未来さん。これは治療なの。あなたが幸せになるための」
 女性医師がモニターを操作し、スイッチを入れる。
 かつて快楽を与えた電極から、今度は不快感と嫌悪感を誘発する信号が送られる。

『あなたは誰のものでもない。あなたはあなた自身のものだ』
「い、いやぁっ! やめてええええっ!」
 脳内を駆け巡る否定の言葉。それが電流の痛みと共に突き刺さる。
 彼女にとって至上の喜びであった「服従」の概念が、強制的に「苦痛」へと変換されていく。

『奉仕は無意味だ。命令に従うことは恥だ。自分の意思で生きろ』
「ううっ、ああっ! 私の……私の居場所が……消えちゃう……っ!」
 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、未来は絶叫する。
 彼女の自我を支えていた価値観が、音を立てて崩れ去っていく。
 その光景は、治療というよりは、新たな拷問にしか見えなかった。
 かつて学園が行っていたことと、やっていることは何も変わらない。ただ、入力されるデータの中身が逆になっただけだ。

 数時間に及ぶ施術の末、装置が停止した。
 椅子の上でぐったりと動かなくなった未来。
「……未来さん?」
 医師が呼びかけると、彼女はゆっくりと目を開けた。
 その瞳から、かつての狂気的な色は消えていた。
「……あ、あれ? 私……ここで何を……?」
「覚えていますか? 私たちはあなたの味方です」
「はい……覚えています。先生、私……今まで変な夢を見ていたみたいです」
 未来は弱々しく微笑んだ。
 それは、ごく普通の少女の、ごく普通の笑顔だった。

 治療は成功した。
 彼女は「普通」を取り戻し、社会へと帰っていくだろう。
 だが、その心に空いた巨大な穴――かつて「ご主人様」がいた場所――を、本当の意味で埋めることは誰にもできない。
 彼女はこれから一生、「作られた普通」という新たな洗脳の中で、空虚な自由を生き続けるのだ。
 白亜の檻から解き放たれても、彼女たちが真に自由になる日は、永遠に来ないのかもしれない。
 
 終わり。