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廃棄都市の謳い文句

ID: 8
5,701 文字 約 12 分

あらすじ

広告人形:客引きやキャッチ行為を行う、魔法でできた人形。魔道士に喋らせる内容と人形の容姿について伝え、料金を支払うことで制作される。一度作ればずっと動いてくれる。人件費を払って人にやらせるよりも圧倒的に安価なので、繁華街ではよく利用されている。あらかじめ設定された定型文しか喋らない。定型文は3種類まで設定することができ、設定は店のオーナーか制作を担当した魔道士だけが変更できる。人形は目の瞳孔が白く焦点があわないので、そこで人間と区別される。街の人間の大半は広告人形を嫌っていて、蹴飛ばされたり、無視されたりする。自分から関わりにいこうとする人はまずいない。

ある旅人の男性は旅の途中で放棄された町を見つける。放棄されてから長い年月は経っていないようで、どの建物も家具や什器が残ったまま。ここなら少しばかり休憩していっても誰も咎めはしないと考え、町で休んでいくことにする。しばらく散策していると、宿や飲食店の立ち並ぶ町の繁華街を見つける。誰もいないはずだが、それぞれの店の前には人影が見える。それは広告人形であった。


登場人物の容姿

旅人の男
三十代半ばの冒険者風の男。埃にまみれた茶色のマントを羽織り、無精髭を生やしている。長旅の疲れが色濃く出ているが、体格は良く、腰には使い古された剣を帯びている。

広告人形(赤ドレスの女)
娼館の前に立つ広告人形。艶やかな真紅のドレスを身に纏い、胸元と太腿を大胆に露出している。精巧な造りの顔立ちは人工的ながらも美しく、透き通るような白い肌をしている。瞳孔は白く濁っており、視線はどこも見ていない。長い黒髪をなびかせ、扇情的なポーズで固定されている。

広告人形(少女)
同じく娼館の前に設置された、小柄な少女の姿をした人形。フリルのついた可愛らしいワンピースを着ており、大きなリボンを頭につけている。あどけない顔立ちだが、その体つきは不自然なほど肉感的に作られている。

本文

 北の山脈を越えた先に広がる荒野。その只中に、地図には記されていない町があった。
 旅人の男がその町に足を踏み入れたとき、最初に感じたのは奇妙な違和感だった。廃墟特有の朽ち果てた臭いがしなかったのだ。建物はどれも綺麗で、窓ガラスも割れていない。民家の窓から中を覗けば、テーブルの上には食器が並び、暖炉には灰が残っている。まるで、住人たちがつい先ほどまでそこで生活していたかのような、そんな生々しい気配が漂っていた。
 だが、人の気配だけが欠落していた。
「……誰もいないのか」
 男の声が乾いた風に乗って虚しく響く。
 放棄されてからまだそれほど年月は経っていないのだろう。あるいは、何か突発的な事情で住民全員が一斉に姿を消したのか。理由は定かではないが、長旅で心身ともに消耗していた男にとって、このゴーストタウンは都合の良い休息地だった。
 雨風をしのげる屋根があり、探せば保存食も見つかるかもしれない。誰に気兼ねすることなく眠れる場所。そう割り切り、男は町を探索することにした。

 大通りを抜け、町の中心部へと向かう。そこはかつての繁華街のようだった。
 宿屋、酒場、カジノ、そして娼館。欲望を満たすための店が軒を連ねている。看板は色褪せておらず、風に揺れる旗もまだ新しい。
 ふと、男は足を止めた。
 無人の町であるはずなのに、通りのあちこちに人影が見えたからだ。
 警戒し、剣の柄に手をかける。だが、人影たちは動かなかった。ただじっと、店の前に佇んでいるだけだ。
 恐る恐る近づいてみて、男は納得した。
「なんだ、広告人形か」
 それは魔道士によって作られた、客引き用の魔法生物だった。
 人件費を浮かせるために作られた、魂を持たない肉人形。かつてはどこの都市でも見られたが、その不気味な見た目と、壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返す性質から、人々には忌み嫌われていた。蹴飛ばされ、唾を吐きかけられるのが日常の哀れな存在。
 しかし、この町では彼らだけが「生き残って」いた。

 男は一軒の大きな建物の前で足を止めた。
 豪奢な装飾が施されたその店は、かつては高級な娼館だったに違いない。
 入口の両脇には、数体の広告人形が並んでいた。
 その中で、一際目を引く二体の人形がいた。
 一体は、真紅のドレスを身に纏った、大人の色香を漂わせる黒髪の女の人形。
 そしてその隣には、対照的にあどけない、少女の姿をした人形が立っていた。
 少女の人形はフリルのついたワンピースを着ており、一見すると無垢な子供に見える。だが、その胸元は服の上からでもわかるほど膨らみ、スカートから伸びる脚は妙に艶めかしかった。

 魔力を動力源とするその人形たちは、主人がいなくなった今もなお、任務を遂行し続けていた。
「……極上の夢を、いかがですか?」
 男が近づくと、まず赤ドレスの人形が鈴を転がすような声で囁いた。
 続いて、少女の人形も口を開く。
「……お兄ちゃん、遊んでくれるの?」
 高く、甘ったるい声。媚びを含んだその響きに、男の背筋が粟立った。
 二体の瞳はどちらも白く濁り、焦点はまるで合っていない。それでも、その唇は艶やかに動き、男を誘惑する定型文を紡ぐ。
「……初めての方は半額です。優しい娘が揃っています」
「……痛くしないでね。でも、すごいのしてあげる」
 男は苦笑した。
 店の中にはもう誰もいない。優しい娘も、幼い娼婦もいない。
 だが、男の視線は二体の人形から離れられなくなっていた。
 旅の疲れと孤独、そして長らく禁欲を強いられていた肉体的な渇き。目の前には、人間と見紛うばかりに精巧な、しかし決して拒絶することのない二つの肉体がある。
 普段なら見向きもしない、無機質な泥人形。だが、この廃都においては、彼女たちだけが男に言葉を投げかけてくれる唯一の「他者」だった。
「……選り取り見取りだな」
 男は渇いた唇を舐めた。
 二体の人形が同時に反応し、次の定型文を再生する。
「触れてみてください。とても温かいですよ」
「えへへ、私の中、あったかいよぉ」
 それは客引きのための常套句だったが、男の手は誘われるようにそれぞれの胸へと伸びた。
 右手で赤ドレスの豊かな乳房を、左手で少女の小ぶりだが張りのある膨らみを掴む。
 驚くほど柔らかく、そして確かに温かかった。魔法によって体温が維持されているのだ。
 男の指が食い込むと、弾力のある感触が返ってくる。
「……悪くない」
 男の喉がゴクリと鳴った。
 誰もいない通り。誰にも咎められない状況。
 男はまず、少女の人形の体を抱き上げた。小柄な体は驚くほど軽く、簡単に持ち上がる。
 男は建物の壁に背中を預けさせると、その短いスカートを捲り上げた。
 純白の下着……などつけているはずもなく、露わになったのは大人顔負けに成熟した秘所だった。
「……マセガキめ」
 男は卑猥な言葉を吐き捨てながら、ズボンを下ろした。
 膨張した自身の楔を取り出し、少女の人形の狭い入り口にあてがう。
 まだ誰も通っていないかのようにあどけない見た目だが、そこは娼売のために作られた穴だ。驚くほど湿り、準備は万端だった。
「……お兄ちゃん、遊んでくれるの?」
 少女の人形が最初の文言を繰り返す中、男は一気に腰を沈めた。
「ぐっ……!」
 キツい。赤ドレスの女とはまた違う、未成熟ゆえの強烈な締め付け。
 だが、内部の構造は精巧で、男のモノを逃さないようにヒダが吸い付いてくる。
 男は少女の人形を壁に固定したまま、激しく腰を打ち付けた。
 小さな体が衝撃で跳ねるたびに、頭のリボンが揺れる。
 無機質な白目で見つめられながら、男は幼い肢体を貪り続けた。
 やがて一度目の絶頂を迎え、少女の中に白濁した液を注ぎ込む。

 だが、男の情欲はまだ収まらなかった。
 息を整える間もなく、今度は隣で微笑み続ける赤ドレスの人形を引き寄せた。
「次は、お前の番だ」
「……極上の夢を、いかがですか?」
 男は人形を背後の壁に押し付けると、その腰を掴み、まだ硬さを残す自身の欲望を突き刺した。
 ぬちゅり、という湿った音と共に、男の剛直が人形の胎内へと飲み込まれていく。
 少女の締め付けとは違う、包み込むような豊満な感触。
「くっ……!」
 男は再び腰を激しく打ち付け始めた。
 パン、パン、と肉と肉がぶつかり合う音が無人の通りに響き渡る。
「……初めての方は半額です。優しい娘が揃っています」
 激しいピストン運動に合わせて人形の身体が揺さぶられるが、彼女は壊れたように同じ言葉を繰り返すだけだった。
 隣では、事後の少女の人形が白目を剥いたまま「えへへ、私の中、あったかいよぉ」と場違いな声を上げている。
 そのカオスな光景と、無機質な狂気が、男の背徳感を極限まで煽った。
 愛を囁くこともなければ、喘ぎ声を上げることもない。ただ快楽を与えるためだけに存在する肉の器たち。
 男は赤ドレスの豊かな乳房を露わにさせ、先端の突起を指で強く摘み上げながら、獣のように腰を振る。
「……触れてみてください。とても温かいですよ」
「ああ、温かいな……どっちも、最高だよ」
 男はうわ言のように呟き、ラストスパートをかける。
 視線の先で、二つの白い瞳がゆらゆらと揺れている。
 誰もいない廃墟の町で、男はただひたすらに、物言わぬ人形たちに自身の雄を叩きつけ続けた。
 やがて、二度目の限界が訪れる。
 男は赤ドレスの人形の腰を強く掴み、その最奥へと熱い精を解き放った。
 ドクドクと脈動する感覚。すべてを吐き出し、男は人形に寄りかかるようにして荒い息を吐いた。
 事後の静寂が訪れる。
 二体の人形は何事もなかったかのように、また微笑みを浮かべて立ち尽くしていた。
 男の体液を受け入れたまま、彼女たちはまた、虚空に向かって囁くのだ。
「……極上の夢を、いかがですか?」
「……お兄ちゃん、遊んでくれるの?」

 翌朝、男は町を去る準備を始めた。
 だが、その傍らには、昨晩抱いた少女の人形があった。
 旅は自由だが、どうしようもなく孤独だ。
 荒野を一人で歩き、一人で食事をし、一人で眠る。そんな日々に、男は少し疲れていたのかもしれない。
「妹、ってことにでもするか」
 男は少女の人形の頭を撫でた。
 手触りは柔らかく、体温もある。黙っていれば、あるいは少し手を加えれば、ただの可愛い少女に見えなくもない。
 男は物言わぬ人形を抱き上げ、まじまじと観察した。
 まずは、この少し不気味な白い瞳をどうにかしなければならない。炭かススで黒く塗りつぶせば、遠目には人間の目に見えるだろうか。
 そして何より、この阿呆のように繰り返される売り文句を止めさせなければ。
 魔道具についての知識は詳しくないが、喉の奥の発声器官を潰すか、あるいは術式を刻んだ核をいじれば黙らせることはできるだろう。
「……悪いな。お前は今日から、口のきけない俺の妹だ」
 男がそう告げると、少女の人形は変わらぬ微笑みのまま、また口を開いた。
「……お兄ちゃん、遊んでくれるの?」
「ああ、遊んでやるよ。ずっとな」
 男は歪んだ笑みを浮かべ、人形を背負い袋の上に乱雑に括り付けた。
 町には、真紅のドレスの人形だけが取り残された。
 彼女は去りゆく男と、連れ去られた「同僚」の背中に向かって、虚しく囁き続ける。
 その声は、渇いた風にさらわれ、誰の耳にも届くことなく消えていった。

「……極上の夢を、いかがですか?」

 その日の夜。男は街道から少し外れた森の中で野営を張った。
 焚き火の爆ぜる音が響く中、向かいに座らせた少女の人形は、相変わらず機械的な愛想笑いを浮かべている。
「……お兄ちゃん、遊んでくれるの?」
 数分おきに繰り返されるその言葉。男は干し肉を噛みちぎりながら、道具袋を広げた。
「ああ、遊ぼう。これからお前を、人間に近づけてやる」
 男は焚き火の燃えさしから炭を集め、少量の水で溶いて黒いインクを作った。
 まずは目だ。あの白とも灰色ともつかない死人のような瞳孔が、人形であることを主張しすぎている。
 男は人形の顔を両手で挟み、固定した。
 筆代わりの細い木の枝にインクをたっぷりとつけ、白濁した眼球へと伸ばす。
「……痛くしないでね。でも、すごいのしてあげる」
「動くなよ」
 男は慎重に、眼球の真ん中に黒い丸を描き込んでいく。
 筆先が濡れた瞳に触れても、人形は瞬き一つしない。ただ微笑みながら、男の手元を見つめ続けている。
 右目、左目。慎重に塗りつぶしていくと、人形の顔つきが劇的に変わった。
 光のない、漆黒の瞳。生気こそ感じられないが、少なくとも遠目には、少し目が虚ろな人間の少女にしか見えなくなった。
「……悪くない出来だ」
 男は満足げに頷いた。黒い瞳が、焚き火の炎を反射して揺らめいている。
 だが、口を開けばまた台無しになる。
「えへへ、私の中、あったかいよぉ」
「次は口だ。その締まらない声をどうにかしないとな」
 男は人形を仰向けに寝かせ、その小さな顎を掴んで口を大きく開けさせた。
 中を覗き込むと、ピンク色の舌の奥に、金属的な輝きを持つ喉仏のようなパーツが見えた。あれが発声器官だろう。
 男は短剣を抜き、その切っ先を人形の口内に差し込んだ。
 舌を傷つけないように押し退け、喉の奥の魔導部品に狙いを定める。
「……おにい、ちゃん……?」
 異変を察知したのか、定型文のイントネーションがわずかに歪んだ気がした。
 だが男は構わず、切っ先を思い切り突き立てた。
 ガリッ、という硬い音がして、手ごたえがある。
「……あ、が……ッ、……」
 人形の喉から、空気が漏れるようなノイズが響いた。
 男は無慈悲に短剣を抉った。内部の繊細な術式回路を物理的に破壊し、二度と声が出ないように掻き回す。
 ビクビクと人形の手足が痙攣したように跳ねたが、それは痛みによるものではなく、魔力回路のショートによる反応だろう。
 やがて、口からは完全に音が消えた。
 男は短剣を引き抜き、血の代わりに付着した魔力液を布で拭った。
「……言ってみろ。お兄ちゃん、と」
 人形は口をパクパクと動かした。
 だが、そこから聞こえるのは、ヒューヒューという微かな風切り音だけ。
 あの甘ったるい媚び声は、永遠に失われた。
「いい子だ」
 男はニヤリと笑い、抵抗できなくなった「妹」の頭を撫でた。
 黒く塗りつぶされた瞳が、じっと男を見上げている。何も言わず、ただ従順に。
 その完全な支配感が、男のサディズムを強烈に刺激した。
「さて……いい子にできたご褒美だ」
 男は自身のズボンを寛げ、昂ぶった肉棒を露出させた。
 声帯を破壊されたばかりの人形の口元に、それを押し当てる。
 人形はプログラム通りに口を開こうとするが、言葉は出ない。ただ口を開閉させるだけの動きが、まるで男のモノをねだっているように見えた。
 男は強引に亀頭をねじ込んだ。
 先ほど弄り回した喉の奥はまだ熱を持っており、普段よりも締め付けが強い気がする。
「んぐ……っ、おっ、……」
 音にならない呻き声を上げながら、人形は男の欲望を受け入れる。
 男は人形の後頭部を掴み、腰を前後に揺すって口内を犯した。
 舌の感触、固い喉の感触、そして破壊された部品のざらつき。その全てが背徳的で、男を興奮させた。
 しばらくイラマチオを楽しんだ後、男は我慢できずに人形の体を反転させた。
 ワンピースのスカートを捲り上げ、白い尻を露わにする。
 昨晩も味わった幼い秘裂に、粘液に塗れた自身の楔をあてがう。
「……っ!」
 一気に根元まで貫くと、人形の体が弓なりに反った。
 声が出ない分、肉体がぶつかり合う音だけが夜の森に鮮明に響き渡る。
 パン、パン、パン。
 男は一心不乱に腰を打ち付けた。
 声を奪われ、瞳を黒く塗りつぶされ、男の性処理道具として生まれ変わった人形。
 それは、ただの道具以上の、倒錯した愛着を男に抱かせた。
「俺の妹……可愛い妹だ……」
 男はそう囁きながら、人形の細い首筋に吸い付いた。
 人形は無言のまま、揺さぶられ続ける。その黒い瞳の奥に、何を映しているのかは誰にも分からない。
 絶頂の瞬間、男は人形の胎内深くに白濁を注ぎ込みながら、この奇妙な旅の道連れを手に入れた喜びを噛み締めていた。
 
 翌朝、男の背中には、フードを目深に被った小柄な影があった。
 手をつなぎ、静かについてくるその姿は、事情を知らぬ者が見れば、仲睦まじい兄妹にしか見えないだろう。
 ただ、その妹が一言も言葉を発さず、不自然なほど真っ黒な瞳で世界を見ていることを除けば。